拝み屋雲水② まぼろばの宿

海乃 眞 様作


【あらすじ引用】

雲水が今回、訪れたのは、山奥の一軒の宿屋。

此処は「まぼろばの宿」と呼ばれる知る人ぞ知る宿である。秋口、椛の色付く季節、朱く煙る山の頂にある宿屋、この宿には奇妙な噂がある。

「成就の宿」 

雲水の目的とは? 

宿の正体とは?


【物語は】

主人公の拝み屋雲水が、ある目的の為に紅葉した山の頂を目指すところから始まる。彼の目的地は、ある特定の時期にしか開いていない、いわくつきの宿。そこへ向かう途中、彼は不可思議な現象に遭遇する。そのことから、読者に何かを予感させるのだ。冒頭から美しい情景描写で綴られ、目の前に再現される景色。その後に続くのは、この曰くつきの宿についてである。この物語は、流れるように視点が切り替わるのが凄いところだ。


【物語の魅力】

つなぎ目を感じない、滑らかな流れが印象的な作品。主人公から曰くつきの宿について語られたのち、ある人物へと視点が変わる。それが曰くつきの宿についての説明の一部と思えるほどに滑らかに展開される。主人公がその場所に辿り着いた時、はじめて同じ時の流れに居ることに気づかされた。

とても巧い書き方だと感じた。二話に移ると、その宿がどういった宿なのか更に詳しく知ることが出来る。この物語の中では、人間の弱い部分が描かれているのではないかと感じた。信念を貫く者が受ける理不尽さと、流される人々。人は常に、何かに流されて生きているのかも知れない。この宿の秘密とは一体なんだろうか。


【登場人物の魅力】

主人公は人探しの為にここへやって来たという。しかし、誰を探しているのかは定かではない。それが自らなのか、依頼によるものかもこの時点ではわかってはいない。曰く付きの宿の成り立ちを聞いてもなお、その人物が分かることはない。主人公はただぼんやりと煙管を吸い、美酒に酔いしれているが、なかなかの策略家に見える。相手からすれば”食えない相手”であろう。話が進むごとに、主人公の目的が見えてくるのだ。

幻想的な世界観も相まって、とてもミステリアスな人物だと感じた。心理描写は描かれているにも関わらず、何を考えているのか分からないと言った不思議な印象となる。


【世界観について】

情景描写がとても丁寧であり、雅さを感じるほどに美しい言葉選びが印象的な作品。幻想的に見えるのは、情景描写に力を入れているからだろうか。

まるで、闇夜を照らす月と光によって浮かび上がる白い微細な粒のような。普段見えないものが、何かによって浮かび上がって見えるかのような、幻想的な美しさを感じる文体と表現力が素晴らしい作品である。


【見どころ】

物語が進むと真実が見えてくる。主人公が捜していた人物の想いや、その人の人生を知ることとなる。その話の中で、彼がどの角度から見ても”大切な人”であるというところが、一つのキーワードなのではないだろうか。例えば家族にとっても、主人公にとってもと言うような意味合いである。

人にとって幸せの感じ方は、多種多様。彼にとって幸せかどうかと、周りから見た幸せは違うのではないだろうか。主人公は、この宿にどのような結末を齎すのか。彼にどんな未来を与えるのだろうか。


最後まで、目の離せない物語です。

あなたも是非、お手に取られてみませんか?

おススメです。

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