彗星と遭う

皆川大輔 様作


【あらすじ引用】

中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。

投手は、MAX152キロを誇る怪物。

捕手は、全試合でマスクを被った天才。


もちろん、全国の強豪校が彼らにオファーを出していた――が、二人が選んだのは、地元である埼玉の県立高だった。


部員数70名弱。

人数はこそ立派だが、三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校だ。


怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。

天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。

各々の理由を持って選んだその高校。なんの因果か、本来会うはずのなかった運命が交差する。


「偶然すぎる?」「ご都合主義?」

あー、申し訳ないね。

単純にさ、見たかったんだよ。

二人が英雄になって、甲子園で暴れるのをさ。


【物語は】

捕手視点から始まり、投手視点へと移り変わる。ここで思ったこと。野球はチームでありながら、投手と捕手という一組の関係はとても特別であるという事。他の守りも大切ではあるが、この二人に信頼関係があってこそ、チームは纏まるのではないかと感じた。もちろん、野球漫画の見過ぎだよという意見もあるとは思うが。この二人は、一見信頼関係で結ばれているように見えて、互いに憧れを抱いているようにも感じる。(その理由は直ぐに分かる)

しかしながら、素人目では投手と捕手は畑が違うのではないかと思った。書き手と読み手のように。だが彼らは互いを羨んでいるように感じた。理由は個々違うようだが。この後、投手のほうは辛い現実を突き付けられることになるが、その折に一つの出会いを果たしている。彼のターニングポイントはとても辛いことに関係している。ここから彼はどんな人生を選択し、歩んでいくのだろうかと思いながら読み進めていくこととなる。


【登場人物の魅力】

この物語は投手サイドを読み進めていくと、”なぜ捕手視点から始まったのか?”について考えさせられる。”隣の芝生は青い”、その言葉がぴったり合うほど、他人からみた”投手”への印象と実際の境遇に差があることに気づく。

彼は誰もが憧れる、もしくは称賛に値する一躍ヒーロー。しかし、それはマウンドの上であって、実生活ではそうも言えない。

プロローグには”投手らしい向こう見ずで傲慢な態度”(引用)とあるが、それは周りから見た一部分でしかないことにも気づかされた。その差というものが、丁寧に描かれており、彼の本質というものが明らかになって来る。彼はとても思い遣りがあり、責任感もある人物だ。


それに対し、捕手である彼は別の苦悩を持った人間。例えば、101番と102番で感じる差はそんなに気にするものはないが、1番と2番の差というのは精神的にも大きいと思う。思春期であるならなおさら。自分が誇るもの、絶対にこれだけは負けたくないと思うものに対する苦悩が、とても分かりやすい。ストレートな人間だと感じた。投手、捕手とも感情移入しやすいところが魅力だと思われる。


【物語の魅力】

この物語は野球をモチーフにしており、スポーツものではあるがヒューマンドラマだと感じた。彼らは一人一人が自分自身と向き合っており、相手とも向き合っている。プロローグでは両サイドの複雑な感情と共に、苦悩しその先の人生を選択していく姿が印象的だ。ストーリー展開にも魅力を感じるが、この物語は主要人物である二人の在り方に活かされていると思う。

一時的にチームメイトとして活躍した二人が、高校でどう再会しどんな関係を築いていくのだろうか、読者に期待させる部分も魅力なのではないだろうか?


【物語の見どころ】

この物語のプロローグはとてもしっかりしている。投手の彼がある出来事により、ある人物に出逢うことでこの先出逢うかも知れない人物との遭遇を期待させる。

本編に入ると、恐らく主要人物である三人目の視点。ここから彼らがどんな風に語られていくのかとても楽しみな展開である。しかしながら、この物語はストレートには進まないようで、”なぬ⁈”という方向にも行く。だからこそ、面白味を感じる作品だ。果たして彼らはどのように出逢い、なにがきっかけで同じ目標を目指し始めるのだろうか?


───その先に待ち受けているものとは?


是非あなたもお手に取られてみませんか?

しっかりとしたヒューマンドラマの上に築かれた野球をモチーフにした青春物語という印象の物語。おススメです。

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