見習い精霊たちの世界創世記

@ravosP

第1話「4人の未熟なフェアリーたち」


 そこは、とても薄暗い場所だった。


 日の光を受けるはずの窓は一つもなく、光源はランタンのみ。


 しかし、それすら多数の本棚によって、部屋全体を照らすには至らない。


 数多の本だけが部屋全体を支配する。


 そんな場所が、『土人属』ガイヤが教会の中で、最も気に入ってる場所だった。


 土人属特有のまっ茶色の髪を肩まで伸ばし、同色の瞳はくりくりしていて、身長は低め。


 人間で例えるなら、小学校高学年。ティーンエイジャーの少女の容姿を与えられた、土の精霊である。


 今日も、本を読みふける。


 読む本のジャンルはこれと言って問わない。


 かつてこの星を支配していた“ヒト”が、書き記した数多くの記録。


 星をめぐる大冒険から、“ヒト”が、自分たちのルーツを探すために研究していたと思われる、恐竜の本まで……。


 全部が全部理解できるわけではなかったが、それでもガイヤは本を読むのが好きだった。


「……で、アクア、何してるの?」


 そんな本を読むふけるガイヤを真横でじっと見つめる、一つの影。


 『水人属』アクアだ。


 水色の透き通るような色をした短い髪。


 釣りあがった目に細い体。


 ガイヤに比べて、身長はほんの少し低いぐらい。


 ガイヤが少女寄りの容姿を与えられたとするなら、アクアは、中性的ではあるもの、どちらかと言えば、少年寄りの容姿を与えられた、水の精霊である。


「いや、相変わらずガイヤは本が好きだなーって思って……面白いの?」


 面白くなければ、こんなところに居座らない。


「アクアも先生に頼んで、文字を教えてもらえば良いじゃん。面白いよ」


「いいよ。ボクが触ると、本がふやけちゃう。いいよね。土人属は、“ヒト”の遺産に直接触れることができるんだから。」 


 あーあ、とため息をつくアクア。


 彼のため息もある意味、仕方ないと言える。


 なにせ、水人属はその身体が水で出来てる。


 だから、紙で出来てる本を直接触ると、紙がふやけてしまうのだ。


「ふやけない本もあるよ。」


「うーん……でもいいよ。その文字っていうの?なんか、長い時間見てると、こう……目が重くなるっていうか……」


「眠くなる?」


「そうそれ!……眠くなるっていうの?」


「うん、たぶんそうだよ。私もよくわからないけど。」


 指を顎に付けて、考えてみる。


 眠くなるってどういう現象なんだろうか?


 本を読む限り、いたるところにその手の事柄を読むことができるが、実際にガイヤ自身も眠くなったことは一度もないので、あくまで本の知識をアクアに教えただけに過ぎない。


「そうなのか?アレが眠くなるっていう奴か……で、眠くなると、どうなるの?」


「どうって、やっぱり寝ちゃうんじゃないかな?」


「寝ちゃうの?ボクも?」


 髪と同じ色をした水色の瞳を一段と輝かせて、聞いてくる


 どうやら、変なところで彼の興味をひいたらしい。


 精霊は眠ることはない。


 だが、もし本を読むことによって眠ることができるというのなら、一度試してみたいと思ってしまったのだろう。


「たぶん……でも、私たちって寝れるのかな?」


「寝ちゃうんだー。へぇー。だったら、ボクも今度一生懸命文字を覚えてみようかな?」


 そんな理由で文字を覚えるんだ。


「そんなこと言うために、わざわざここに来たの?」


 読みかけの本を閉じて、アクアを睨みつける。


 本を読む時間は、ガイヤにとって一番大事な時間で、一番大好きな時間。


 邪魔されて、いい気分にはなれない。


 これ以上、おかしな話を横で続けるようなら、さっさと、出て行ってもらいたい。


「あ、そうだ。ガイヤ。師匠が呼んでたよ。今すぐ『礼拝堂』に集合だって」


 こら!!


「それを先に言いなよ!!」


 ガイヤは先程閉じた本を、近くの本棚にしまう。


 どうせ、戻ったらまた読み直すのだ。


 だったら、簡単に取り出せる場所にしまった方がいい。


 それが、ガイヤなりの知恵だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る