第46話 そうだ、ダーツをしよう
このままではいけない。勉強どころではない。那由他ちゃんは気持ちを切り替えて気持ちよさそうな顔から真面目な顔になっているけど、こっちはそんな器用じゃないんだよ! 駄目な大人なんだよ!
那由他ちゃんと言う沼にずぶずぶ沈んでいっている危機感を覚えた私は、ここで一度、明確に線引きをすることを決意した。
決意して、ダーツをつくった。何を言っているのかわからないと思うけど、何故私もダーツを作ったのかわからない。那由他ちゃんを家に帰したあとじっくり考え、深夜のテンションで設計図をつくり、翌朝から百均に走りしっかりした回転式ダーツをつくってしまった。磁石性でくっつくようになっていて、安心安全なつくりである。
そしてこのダーツ、ただのダーツではない。点数制ではないし、的にはそれぞれ、腕、足、などの体の部位が書いてある。
そう、キスダーツである。ダーツをつかって、キスする場所を選べると言うものだ。これを外せばキスはなしだし、当たっても手とかなら全然セーフ。顔にばかりキスをしている現状に危機を覚えた私は、自然にそれ以外にキスを持っていくためこのダーツを考えたのだ。
何故ダーツ、とか考えてはいけない。ゲーム性があることで、真面目な規制なのだと思わせないためと言う理由もあったりなかったりする。
「と言うわけで、本日からこちらが導入されます。さらにダーツをうつのはログインボーナスで1本、勉強して課題クリアすると3本ボーナスとなってます」
「? え? ろ、ろぐいんボーナスってなんですか?」
「ゲームとかしたことない? ゲームを起動するごとに毎日もらえるボーナスってこと。基準どうしよっか。どうせ外だとできないし、私の部屋に入った時にもらえるにする?」
「えっと、あの、そもそもどうしてそんなシステムになったんですか?」
と言う訳で今日も今日とてのこのこ我が家にやってきた那由他ちゃんに挨拶もそこそこにいきいき説明したところ、とても戸惑われた。顔面?マークになっている。うむ。まあそうだろう。私もね。できてからお昼寝して起きたらなんでこうなったんだろう? って思ったからね。
でも、悪い案じゃないと思うんだよね。実際、今のままだと会うたびに際限なくキスをしてしまうし、ぎりぎり唇は守ってるけど、際までいっているのは否めない。手にキスしていれば、勢いで唇にいくことはないし、エスカレートしてしまうのを食い止めることはできるだろう。
そう、これは那由他ちゃんの純潔を守るために必要な措置なのだ。手でもキスしたらいちゃいちゃ感はでるだろうし、変に我慢を強いるより自然に楽しんでいけると思う。那由他ちゃんもだけど私も、無理に不満を貯めるのはよくないもんね。
とは言え、那由他ちゃんにそのまま言うのはよくないよね。唇へのキスを禁じれば禁じるほど気になっちゃうかもしれないし。那由他ちゃんもそう言うお年頃だもんね。私がその年頃に押し上げちゃった気がしないでもないけど。
「那由他ちゃん、私たち、会うたびにちゅーしてるよね。今はとっても楽しいけど、同じことばかりしてたらいつか飽きてしまうかもしれないでしょ? そうなったら悲しいよね。だからこれでマンネリ防止対策だよ」
「マンネリ……飽きる気がしませんけど、でも、千鶴さんの言うことはわかりました。そう言うことなら、面白そうですし、してみましょうか」
「うんうん、さすが那由他ちゃん。話が早くて助かるよ」
那由他ちゃんは神妙な顔で頷いてから、微笑んで了承してくれた。小学生にしては物分かりがいいのか、小学生だから物分かりがいいのか、判断に困るところだけど今回はOKとする。
さっそく矢を那由他ちゃんに渡す。矢は全部で6本つくってある。実際には一本ずつでもいいくらいなので、無駄に凝ってしまった気がしないでもない。色も変えたし。変なところで凝り性なところを発揮してしまった。
「これ、結構しっかりした作りですね」
「そうでしょ。投げた感じも違和感ないようにしたよ。結構矢が難しいんだよね。的の方は設計通りでよかったんだけど」
「じゃあ、行きますね……えいっ」
那由他ちゃんは感心したようにまじまじと見てから立ち上がり、若干気負ったように気合をいれて、ドアに設置した的に向かって投げた。
「……」
「……さ、最初だしね。今日のところは当たるまでは練習しよっか」
「あ、ありがとうございます」
思いっきり外れてしまった。で、でもほら、まだドアだし。ドアノブはだいぶ的から外れてるけど、でもドアだから! それにほら、磁石性だからさ、ちゃんとくっついてるしね。と言うフォローになっていないフォローは心の中にしまって、黙って那由他ちゃんに矢を渡した。
那由他ちゃんは練習すること10回で的に当たるようになった。わー、すごーい。と褒めたのが露骨なわっしょいだと感じたのか、そこから那由他ちゃんはひたすら練習した。
さすがにその様子をじっと見ているのも飽きたのでスマホをポチポチしてベッドでダラダラすること一時間。
「やりました! 千鶴さん! 8割がた狙ったところへあてられるようになりましたよ!」
「あ、ほんとー? おめでとう」
ようやく満足したようなので起き上がりながら祝福する。よかったよかった。そもそもね、普通のダーツより距離も近いし、磁力強くて簡単にくっつくようにしてるから、そんなに難しくないはずなんだよね。
「じゃあ、練習終わりってことで、今日の本番いこっか。今日は勉強なしだから一本だけど……那由他ちゃんが可愛いからサービスしちゃおっかな。三本で」
「わーい、ありがとうございまーす」
つい屋台のおじさんみたいなことしてしまったけど、那由他ちゃんもノリノリで両手をあわせて喜んでくれた。可愛い。
と言う訳で三本渡して、的の横に立つ。手をかけてくいくい、と特に意味もなく滑りを確認してから、何故か戸惑ったような那由他ちゃんに目線で合図をする。
「じゃあ行くよー。はい」
「えっ!? ま、回すんですか!?」
「え? いや、最初に回ること説明したよね」
「回しながら投げるのは聞いてません」
「えぇ……?」
ダーツで的が回るギミックがあるって言ったら、普通回しながらうつでしょ? ダーツの旅でしょ? 逆に何のために回ると思ってたの?
「そりゃあ、回さないと好きなところに狙えちゃうし」
「う、それはそうなんですけど。じゃあ、私はいったい何のために練習をしたんですか?」
「普通に楽しんでくれていたのかと」
ジト目で質問してきた那由他ちゃんに私は頭を搔きながら答えた。我ながら普通にうまくできたし、ダーツって普通に楽しいし。だけど私の返事は那由他ちゃんのお眼鏡にかなわなかったようで、ますます頬をふくらませてご機嫌斜めになってしまった。
「面白かったですけど、千鶴さんの好きなところにちゅーできると思ったから頑張ったのに……」
「……あの、ごめんね? じゃ、じゃあ、今日だけは回さずにしよっか」
そしてわかりやすくしょんぼり肩を落とす那由他ちゃんに、しょうがないのでそう提案する。勝手にルール決めて一方的に押し付けるわけだし、多少はね? 妥協も必要だよね。
「……いいんですか?」
「うん、いいよ。今日は最初だしね。どう言う感じか、那由他ちゃんにわかってほしいし」
「じゃあ、頑張ります!」
「うんうん」
と言う訳で那由他ちゃんが狙って投げた結果。腕、耳、指だった。
腕と耳は狙い通りで、指は外したみたいだ。狙っていたのは頬だった。危ない。でも腕を狙ってって言うのは可愛いよね。正直、部位は私も適当につけているので実質ダブっているところもあるけど、まあそこは当たり外れと言うことで。
「頬は欲しかったです……」
「まあまあ、そのうち当たるよ。じゃあ、その三か所ね。どうする? 私からしてもいいし、那由他ちゃんからでもいいけど」
「え? どっちもしあうんじゃないんですか?」
「え、ああ、そうなのかな? じゃあそうしようか。じゃあ、私からするね」
「あ、ちょっと待ってください。その前に、改めてルールを確認したいんですけど」
「はい、なんでしょう」
と言う訳で、適当に決めていたルールが明文化されてしまった。こういうのは適当な方が、その時々柔軟にできるのに。那由他ちゃんたら真面目さんなんだから。そう言うところも好きだけど。
部屋関係なく基本一日一本で期限なし、回しだして三秒以内に投擲とか、細かく考えてなかったのに那由他ちゃんと話すことでどんどんルール化されてしまった。うんうん、と頷いてしまったけど、結構細かくなったので覚えたか不安だ。まあ、別に間違えたところでペナルティはないから気にしないけど。
これはお互いイチャイチャする為の幸せなゲームなのだから、マイナスになる要素だけはないことに注意したから、忘れても無問題なのだ。
とにかくルールを決めた。定位置のベッド横に座っていたのだけど、那由他ちゃんは大真面目に今のルールをメモしている。きちんとまとめなおした那由他ちゃんは満足げにノートを閉じてペンを置いて、ニコッと笑った。
「じゃあ、今日は指にしますね」
「あ、はーい。オッケーオッケー」
「……千鶴さん。だらけないでください。もっと雰囲気出してください」
「え、あ、ごめん」
ベッドにもたれて頭が空を向いたまま返事をしたら怒られた。慌てて起き上がって言い訳するも、那由他ちゃんは私に向かって座りなおしてふくれっ面だ。女の子座りでお膝の上に置いた握りこぶしをぎゅっと握って、半身をベッドに預けて上目づかいに睨み付けてくる。
「私は……千鶴さんの体の、どこに触れるのだってドキドキしますけど。千鶴さんは違うんですね……」
「ああああぁぁぁ、ご、ごめんてぇ。違うの那由他ちゃん。ね? ちょっとだけエンジンがかかるのが遅いだけだから。あー、那由他ちゃんとイチャイチャできると思うとめっちゃむらむらしてきたなー」
「……」
「はい。すみません。調子に乗りました。健全にね、健全にいこうか」
那由他ちゃんの手に触れて謝罪した勢いでとんでもないことを言ってしまった。本音ではあるのだけど、清く正しくと言っているのに何を言っているんだ私は。
那由他ちゃんが眉をよせたまま黙っているので低姿勢で謝って、那由他ちゃんのぐーな手をぽんぽんして緩ませ誤魔化す。
「うん、じゃあ、私からしてもいい?」
「……はい、お願いします」
「では、お手を拝借」
那由他ちゃんの手の力が緩んだのでそっと持ち上げる。那由他ちゃんも姿勢を正してくれたので、私もちゃんと雰囲気が出るよう優しく微笑む。那由他ちゃんの左手の指先を下から持ち上げるように持ち替える。
中指の爪先を親指で撫でるとつやつやしていて、付け根を触るのが地味に気持ちいい。くすぐったいのか指先が少し浮いたので、今度は爪の先端。頭が少し出てしまうくらいに綺麗に切りそろえられている。強めに撫でると、指の腹に爪先が食い込む。改めて触ると面白い。
「ん、なんだか、千鶴さんの触り方、くすぐったいです。ふふ」
「那由他ちゃんは指先まで綺麗だね。うっとりしちゃう」
「……えへ。ありがとうございます」
恥ずかしそうに那由他ちゃんは頬を染めた。その姿だけで、私の胸も高鳴る。なんて可愛いんだろう。こんな可愛い彼女がいるってすごいなって、なんか変に感動する。那由他ちゃんは何度見てもいつ見ても感動する級美少女。好き。だから甘やかしたくなっちゃうし、何でもしてあげたくなっちゃうし、何でもしたくなっちゃうし、悪魔も私に囁くんだよなぁ。
「ん」
爪を抑えるようにもって顔をよせ、ちゅ、と第二関節に唇を触れさせる。固い感覚。なんとなく軽く口先ではむはむする。
「ふ、ふふ」
那由他ちゃんがくすぐったそうにぴくぴく指先を震わせながら小さく笑い声を漏らした。その声の可愛らしさに、もっと聞きたくなって唇でくすぐるように動かしながら、横にスライドして人差し指の横、親指が普段当たるところに触れた。
ペンがあたるからか、他のところより少しだけ皮膚に厚みを感じる。ついばむようにしてから、ふっと息をふきかける。
「ふふふふっ。も、もう、わざとくすぐったいようにしてるでしょう」
「うん。那由他ちゃんの笑い声、可愛いもん」
あと笑うのを我慢してちょっと息を漏らす感じが、ちょっとえっちな感じも好き。えへへ。楽しい。好き。あ、駄目だ。頭馬鹿になってきた。
「んん。じゃあ、このくらいにしておこうかな。次は那由他ちゃん、してくれる?」
私は調子に乗らないよう、そこで手を離した。
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