12月より2月の雪
書三代ガクト
第1話
私の好きな人には好きな人がいる。
だから私にはバレインタインぐらいがちょうど良い。
駆け足で玄関をくぐり、肩の雪を払う。昨年のクリスマス以来の降雪。凍るような空気に私は白い息を吐いた。
一通り落としてから顔を上げる。まだ夜が残る玄関には誰一人いない。廊下で消火栓が光っていて、リノリウムの床に反射していた。
「誰か一人ぐらいいると思ったんだけどね」
いつもより二時間早い登校。それもこれも全部この想いのせいだ。
すのこに上がり、自分の下駄箱を開く。靴を履き替えてから扉を閉めた。
そのまま指を左にスライドさせる。一つ二つ三つとなぞり、目的の下駄箱に向き合った。
私の好きな人には好きな人がいる。
クリスマスはその二人でデートをしたらしい。
イルミネーションに彩られた街と優しく降る白い雪。
祝福するような景色に二人は何を見たのだろう。
「付き合ったとは聞いていないけどね」
言葉がとげとげしいことに気づいて、私は自分の頬をパアンと叩いた。
鞄を引き寄せて、中からラッピングした箱を取り出す。艶やかな赤とオレンジのリボンで巻いた小箱。私の名前や私と分かるものは入っていない。
じっと見つめてから目の前の下駄箱を空けた。そのまま納める。
そして扉を両手で押さえつけるように閉めた。自分のつま先を見つめる。
心臓が破裂しそうだった
今日はバレンタイン。チョコレートと一緒に想いを渡し合う日だ。
けれどチョコレートは校則で禁止している。だから私はいつもより早く登校して、隠れるように下駄箱に入れた。
でもそれぐらいがちょうど良い。
他の人が好きだという彼には邪魔になってしまう想いなのだから。
ゆっくり手を離して、ぐるりと顔を回す。
誰もいない校庭。雪がすべてを隠す薄暗い景色がそこに広がっていた。
イルミネーションもない、校則にも禁止されたバレンタイン。
それぐらいがこの想いにはちょうど良い。
こぼれそうになる涙をぬぐって、私は教室へと向かった。
12月より2月の雪 書三代ガクト @syo3daigct
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます