第5話 武器

 わちゃ初めての土曜日っさ。


 土曜の夜はサタデーナイトっけ、店も混むんでろか。


「おはよーございます」


 おお、見たことない女の子がおるわ。


「あ、ユイちゃん?」


「おう、ユイですだ」


「私土曜日だけなんで、あんま会えないけどよろしくねー」


「はい、よろしくー」


 人懐っこい子ざねー、客商売向いとるわ。


 ていか誰や。名前言わんかったや。


 お、今更衣室空いとんな。


 この子も着替えちょらんだんが、先ええかいの。


「まだ着替えん?」


「うん! お先にどうぞ〜」


「はーい」


 いつものチャイナドレスに着替える。ほん短ぇの。


 入れ替わりにさっきの子が行きよる。


 他の子はもう、みんな着替えちょうもなあ。


 アヤちゃんは今日もマスカラ重ねちゃる。好っきゃねー。


 わちゃ、客についた中でフリーとアヤちゃんのヘルプと半々くらいちぇーやろか。


 ヘルプっつんは、指名した女の子が被った時に平等になりようけん移動すっから、空いた客を1人にせんためにつくっさ。


 アヤちゃんは指名が被るっち、ヘルプがいるんよねー。


 他の女の子らとは明らかに違ゃーにゃ。気になる。


 正直、地味な顔さなあ。


 けど、なんか違ゃ。地味な顔にマスカラがええんか、ち思いよっとくらい。


「ミーティング始めまーす」


 エミリさんが来と。


 あ、さっきの子がまだ来とらんに。


「はーい」


 あ、来と。


 うお?!


 みんなチャイナドレスだんに、この子だけワンピースじゃ。


 でも、理由は一目瞭然ざ。


 この子は乳がでかい。


 チャイナドレスは、そう言や首まで詰まっちょる。ミニ丈で足はてっぺえ出とるが、胸はゼロじゃ。


 この子は逆じゃ。


 胸が尋常じゃなく出たワンピースじゃ。


 あ、むしろキャバクラのイメージはこっちかも知らんす。ワンピースってのんがちゃう気もしよる、ドレスかんね。


 店がオープンしてすぐ、客が入る。


 ほー、土曜じゃ。サタデーナイトやの!!


 もう5人も客が来たが、みんな初めて見る客やの。


 ……あ?


 5人の客の内、1人は我がアヤちゃんの客ざ。


 5人もおって1人て、アヤちゃんのテリトリー的に少ねえのう、エミリさんの客か、ち思うたが、ちゃうかった。


 なんか、カウンターに4人並んどる。


 そのカウンターん中に、乳の人がおる。


 カウンターさんやのか?! 時給1000円も安いんちゃうのんぞ?!


 幸い? フリーの客がおらんさ、掃除しとるフリしてこのカウンターさんを見てまうんろ。


 4人とも、水割りやのーて、ビールやらハイボールやら、居酒屋で飲めばここより全然安いもんを頼みよる。


 客には高いが、女の子的にはええ給料源っさ。


 ビーワンの給料は、時間給と、指名料を店と折半分と、ビールやらハイボールやらワインやらの売上の折半分ざ。売上がなんぼかを越えずら、女の子の取り分が増えるっちー都市伝説もあらあ。


 なんやカラオケが始まったで。こなん早い時間からカラオケっちゃ、珍しいのう。


 思うたら、めためた上手いで! 乳の人!!


 もうなんや、このカウンターさんの乳を見ながらカラオケライブを楽しんじょう感じざ!!


 そんげ……


 カウンターさんでも、土曜日だけでも、十分稼げる武器をこの人は持っとるんぞなあ。


 わちゃには、ない。


 この店ですら負け犬でんずら、女優にも弁護士にもなれんこずら……。

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