第3話 初指名

 6時。


 オープンと同時に、アヤちゃんの客が来る。


 たぶんこの店の客った、アヤちゃんとエミリさんの客で8割っぽい。


 わちゃ、もちろん客なんかおらんげ、カンナちゃん、リンちゃん、マイカちゃんも、持っとる客は少なそうてい。


 アヤちゃんの客のテーブルに一緒に座らせてもらったり、グラス洗ったりしょったらんこ、扉がカランカラーンつって、客が来た。


 初めて見る客だの。


「いらっしゃいませー」


 みんなが言う。


 エミリさんがササッと近寄って来おうて、


「おしぼり持ってついといで」


 と、ちっちぇ声で言うた。


 おしぼりを取って、エミリさんについてったがや。


「こんばんは堀さん! この子新人のユイちゃん! まだ3日目かな?」


「あ、わち」


「まだ指名ないのよ〜。堀さん、初指名、言ってあげてよ」


「そうなのおーまだ3日ー」


 嬉しそうな顔しよすなー、このおっさん。


「ほら、ユイちゃんも!」


「あ、指名してクダサィー」


 なんか変になっちよた。


「しょうがないなーじゃあ1時間だけね! 延長なしね!」


「ありがとうございますー」


「あ、ありがとうございますー」


 慌ててエミリさんに続きよる。


「ユイちゃん、初指名入りましたー!」


「ありがとうございますー」


 女の子たちが拍手してくれよる。


 なんべ、嬉しいもんさなあ、初指名!


 選ばれた感が嬉しいおす。


 テーブルについて、あ!ウエルカムセットぞ。忘れちょった。


 立ち上がろしようたら、エミリさんが気ぃついたみてえで


「ユイちゃんは座ってて! ご指名なんだから!」


 つ言いようた。


「ウエルカムセット忘れちょった」


「私が持って行くから!」


「ほんけ」


 座り直す。


 堀さんはニコニコしよるけど、なんや、緊張してきおったぺ……。


 まずは、自己紹介ぞ!


「堀さん、ユイだす。はじめまして、よろしくお願ーしゃだす!」


 おし! 元気にゆうたんちゃうが?


 ほいど、相手の話んぼ聞くっちゃ。


 エミリさんげ、仕事の話やら家庭のグチやら聞くんが仕事やーちゅうてた。


 相手の話んぼ聞いて、ストレス解消してもらわねーぞん。


「堀さん、仕事っちゅ―――」


「すごい方言だね! どこの方言なの、それ!」


 爆笑っちゃ。


 わちゃ方言トークなら十八番ぞ。わちペースざ!


我峨がが弁ぞ」


「我峨弁?! 初めて聞いたよ! すごいなー!」


 もう、涙流してヒィヒィ状態ざんくろ。


「堀さん、我峨弁ね知らんとー? 勉強不足ざねえ」


「調べとくよ! こんな方言あるんだねえ!」


「がはははは! ほんによー、よう勉強しちゃらんずー」


 なんや、良かった、盛り上がっちょうわ。


「ちょっと! ユイちゃん! ユイちゃん!」


 カウンターから、エミリさんが呼んじょう。


「はい」


 カウンターまで来よったら、わちゃが客から見えんように低くさした。


「ユイちゃん、お店では、お客様は彼氏だと思って」


「彼氏?」


「彼氏の前で、あんながはははは!って笑わないでしょ?」


 彼氏の前で笑う時ゃ……


「笑うが」


「店では笑わないの! 違う! 笑うんだけど、かわいく笑うの!」


「また、かわいくかい……」


「そりゃそうでしょ! ここをどこだと思ってんのよ!」


「ああ、かわええ女の子としゃべる店んね」


「でしょ! お店の中では、普段とは違うのよ。ユイという別人になるのよ。ユイちゃんは女優よ。自分の思う最高にかわいい女の子を演じるの!」


「最高にかわいい女の子!!」


 決まっとるわ! 新垣結衣じゃ!!


「無理ざ! わちゃ新垣結衣にはなれん!!」


「じゃ、じゃあ、2番目! 2番目にかわいいと思う女の子になりなさい!」


「2番目かー。うし、いってくりゃ」


「素は出さなくていいのよ! 素は出さないのよ!」


 もはや素は出すな言われちゅう気分ざん……。


 かわいい女の子で、質問して、話んぼ聞くっちゃ。


「堀さん、仕事―――」


「ユイちゃん、いくつなの?」


「か? 19歳ぞ」


 この店の客は若い女の子を好いちのんが多いた、入店当初はみんな10代スタートだそうや。


「へえー大人っぽいねえ!」


 大人やこんの。


「堀さんは?」


「俺は見ての通りのおじさんだよー」


「ほー、見たまんまなー」


「ユイちゃん!」


 ウエルカムセットを持って、エミリさんが来てくれたんず。


「堀さん、こう見えてお子さん3人もいらっしゃるのー見えないよねえ」


「見たまんまな。なんだら、5人おる言わんちゃもびっくりせんで」


「やだユイちゃん! 毒舌なんだからーもう!」


 毒舌?


 なんや、毒やったんかいな。気い付けね。


「いいよいいよ、エミリちゃん! おもしろいよ」


 堀さんは笑っちゅう。


「ほげな、よかー」


 かわいく、かわいく。


 口元に手を当てち、あははは、ちーて首を傾げて笑てみるち。


「そう! それ! いいよーユイちゃん!」


 ほう、エミリさんのOKが出よったで。


 エミリさんもソファに座って、手早よう水割りを作りやる。


 ほえー、プロやの。


「堀さん、今日は仕事?」


「そうそう! もー疲れが溜まりきっちゃって」


「大変なお仕事だもんねえ。最近は休めてるの?」


「休みって休みはないな。帰ったらまた仕事するつもりだしね」


「あら、そうなの? 薄めにしとく?」


「んーそうだな、3杯目から」


「じゃあ、2杯目までは濃いめにしとこうかしら」


 あはははは、つ2人で笑っちゅう。


 わちゃも笑いよるが、やっぱりエミリさんすげえのう。


 わちゃ逆に質問されっちのに、ちゃんとエミリさんが質問しよるわ。

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