第0.5章 始まりに近いの終り 前編
(…イ…、レイ…)
静寂すぎて、もはやどんな言葉で表すべきかわからない、この不気味な山。今はちょうど山登りの人気の季節なのに、人はもちろん、一匹の虫でも見当たらない。けれど、先から誰かが自分の名前を呼んでいるように聞こえた。しかし、周りのみんなは今、誰一人もしゃべる気分がない状態だったはず。
全員同じ、真面目な顔をしている。いや、たぶん違う。みんなは本当は……
それに、あの声は近くから響いたように聞こえない。でも、こんな深い山から大声を出そうとしたら、反響も聞こえるはずだ。だから、あれは実際に耳で聞こえるではなく、直接に頭に入るではないかと、珂玲は際立って濃い眉をひそめる一方、歩調も自然に緩めている。それを気付いたとなりにいた小柄な男の子は、ちょっと戸惑いてた顔で小さいな声を出す。
「…ぁ、あの…」
その響きの中で、わずかな緊張感をが混ざっているように聞こえた。
「カレイ様…」
今回は確実にとなりから誰かに自分の名前を呼ばれてきた。それを聞いた珂玲は声の持ち主の方向に振り向いた。
そうしたら、潤んでいた大きな目に見つめられている。身長の差もあるため、珂玲は背を少し前に曲げて、そのこと同じな視線に見えるように屈めた。
「どうしたの、リュカくん?疲れてるのかな」
正直に言うと、この世の中に苦手ものはほとんどいないのは珂玲の自慢だが、唯一の弱点というと…それは子供である。
でも、目の前に肩が凝っている小さな生物に対しては少し違う。そもそも珂玲は子供嫌いではない。単に泣いている子供の扱いができないだけだ。遠いから見ると、かわいいとも思っている。
だから、最初にこの子と同じグループで一緒に戦わないといけない途端に、すぐにでも逃亡したいくらいだった。いまさら振り返ってみれば、実にばかばかしかった。知りもしない世界でいったいどこににげるつもりだったのか。
さて、話を元に戻す。今、この子は珂玲のとなりに一緒に歩けるのは、別に珂玲は苦手なものを克服したわけではない。ただ、目の前の子は珍しいからだ。あの生き生きと輝く大きな目と、いつも泣きそうな顔。珂玲は最初から常に目を離さず、警戒していた。
しかしながら、そうやって見るうちに、しばしばかわいいように見えた。泣きたいような、泣きたくないような、いったいどうなのかを、いつしか面白いと思った。
「いいえ…実は、その……カレイ様をしん…ぱぃし…」
「っえ?わたし…」
意外な言葉で、珂玲はとっさにどうやって答えるかどうか、まったくわからなかった。そもそも相手はどうしてこのようなことを自分に聞いているかさえも、わからない。何かを適当な言葉で誤魔化そうとするとき、一人の男は大きな声で出した。
「あはは!ボウズ、何を言ってるだい?心配対象は間違っているじゃないのか?勇者さまはお前の心配なんていらないじゃない」
それを聞いたリュカの目はさらに、涙がこぼれんばかりだ。でも、こぼれなかった。ただ、まだ子供のせいか、やはり我慢できなかったリュカはぱっと、珂玲の懐へ飛び込んで抱きついている。普段の珂玲はたぶんこのような動きの前にうまく避けるが、今日はさっきの声のせいで、反応か遅くなったのか、それともリュカのかわいさに驚いたのか、とにかく、珂玲は自分もビックリするくらい、自ずから片手で抱きしめる。
「だいたい、心配するのはむしろお前じゃねぇのか…」
まだ言い続く気がある男性に対して、珂玲は思わずため息をついた。
「あのね…アンズさん…」
「っん!だから…アンズじゃなくて、アンブロワーズだっつてんだろうか」
怒鳴った声でアンブロワーズと自称した男性に向かって、普通の女の子はとっくに泣いたり逃げたりするが、目の下の女の子はただほんの一瞬目を瞠ったように見えたが、すぐに元に戻った。そして、後退るところか、逆にニヤついてる珂玲は男性に近寄ってきた。
二人の距離はわずか数歩だけけれど、一歩と一歩の間に、時間はまるで堪えにくい日々を過ごしたように感じる。
普段感じが鈍いアンブロワーズでもこの異常な違和感に反応して、思わず後退った。
けれど、恐怖に被らせた彼、今はまだ凹凸の山道でいたことでさえ忘れていた。
左足は今、後ろに一歩を踏んだ。次の瞬間に、体の重心は突然に後ろに傾けて、一瞬、、灰色の空が目に入るまでは、何かを起こったかを、まったく見当つけなかった。
「
「っえ」
「どうやら心配しないといけないのはアンズの方だね」
すぐには今の状況を把握できないアンブロワーズはぽっとしたまま、満面の笑みを出した珂玲を見上げるしかない。にしても、山道とは言うものの、山の土は意外と柔らかい、と思ったアンブロワーズはむやみに「土」を触ろうとした。右手はただ微かに振っただけ、全身のバランスが崩れて、まるでまだ歩けない赤ん坊みたい、地に伏せたまま滑った。
「い…たな…?ん?痛くない…」
言ったそばから大量の水が一気に口に入った。その時、ついに何か起こったかを悟った。決してここの土は柔らかいとか、そういうバカな発想ではなくて、実際、ここは水の中ということだ。
やっと珂玲は自身の能力を発動したと気付いたアンブロワーズが今、必死に外にいた珂玲に謝った。普通の「水牢」なら、これと同じに完全に外に出らないが、頑張れば水面に顔を出すくらいなんとかなる。しかし、珂玲の「水牢」は一般な「水牢」ではない。
(というより、この方の力は全部一般なもんじゃねぇな…はぁ、俺、このままで死んじまったのかよ)
普通の「水牢」は名前の通りで水の形にしてた牢屋のこと。そういうわけで、このスキルを使う際に、まず、普通の牢屋のことを想像して、「底」と「壁」を作る。そして、完成した立方体に水を注いで、最後は自分はあるいは仲間は「壁」の硬さを強化すると立方体の形を制御することだけだ。
アンブロワーズにとっては、これは、一般人の作り方だ。だからこそ、対応もできる。頭はともかく、体格だけで、もはや鎧なんては余計なものと言っても過言ではない程度だ。さらに力と合わせてみれば、「水牢」だけでアンブロワーズを捕らえる人なんて、少なくともこの国では、いくらひっくり返して探しても、見つからないのだろう。
だが、もともと「一般」という単語と縁がない珂玲には、一から「牢屋」を建てるなんて面倒な手順をやるわけがない。そもそもこのスキルをやる前に必要なのは生まれつきの力と想像力だ。想像力とは、思いついたことを実体化すること。なのでこの世にないもの実態するの難業だ。でも別の世界から来た珂玲は大したことがない。
この丸い球体は前述した立方体とは極めて差がある。通常「水牢」はいわば器のようなもの。つまり「底」と「壁」は「もの」を乗せないといけないから、「天井」の硬さと比べたらもっとしっかり作ったはず。それゆえ、逃げる隙ができたのだ。
ただ、この球体は上でも下でも分けていない。どの方向に攻撃しても無駄になる。そして、一番厄介なのは硬さだ。珂玲が作った球体はの硬さはどちらかというと、それは硬くない。しかしながら、それも軟らかいという意味ではない。むしろ、普通の「壁」よりずっと頑丈だ。
たとえどんな鋭い剣でさえ、この球体に傷を与えることはできない。仮に全力を出しても、必ずこの球体に弾まれる。
澄んで切った水の中に、まだ手足を激しく振り動かしているアンブロワーズの姿ははっきり見える。
「ん…これ、いったい何のことを言っているのかしら」
本気な言い方は現場にいたリュカ以外の全員がさっと、恐ろしい寒気に襲った。
「あの…カレイ様」
この場で珂玲以外に唯一冷静さを保ったリュカは、ついにこの凍った空気を破った。
「うん?どうしたの」
「もう…大丈夫ですね」無邪気な笑顔は眩しすぎて、一瞬全員が固く動かない。この子供はいったい何を言っているのか、全然思いつかない。
ただたった一人、珂玲だけが平気に反応できる。実際は、リュカに呼ばれた時は、少しひんやりしてた。
(しかし、まさかリュカはね…てっきりアンズのことを開放することとか言うつもりと思っていたのに。)
「ふんーん」夢中になっていた珂玲はついつい笑い声が漏れてしまった。そんな時に、茶色い髪でショートカットを持つの女性が立ち上がった。
「すみません、カレイ様。こいつのことは後で私に任せてもよろしいのでしょうか。今はこういうことに時間を使うのはもったいないと思います」
冷たい言葉をとうとうと話していたのは、背中に矢を負った中性の顔をしている女性だ。
「それもそうだね、いいでしょう!じゃあ、コイツのこと、あとは頼んだわよ、グレース。
言ったすぐに、アンブロワーズを包んだ液体に似たようなものは速いスピードで、彼女の方向に向けて、額に入り込んだ。
この二、三年間でとなりに無数回も見たが、見慣れた人は一人もいない。なぜというと、こういうスキルは基本的に、一回しか使わないのだ。本来なら、形のないものを制御する時には、かなりの力が入れた。これだけで精一杯だから。それなのに、また使い切った「水」を元に戻すなんてことは、完全に覆水盆に返らずということだ。
「コッホ、コッホ。へ…はぁ…」
「陸上なのに、よく溺れたな」
水が入ったせいで、しばらく息が苦しい。
「…はぁあ、グレース…」
正直というと、こんな状況でもこのような涼しい言葉を話せる人に、一発を殴らないと気がすまないくらいだ。けれど、万が一また先のような出来事が起きたとしたら、今度こそ、命が失いかねない。
「ああ…生き返った…」
「それはよかったね、あん・ず~」
悪戯は大成功した珂玲に対して、アンブロワーズは言い返すもできないまま、リュカを睨んでいるしかない。
「っツー」この舌打ちは別の山では、きっとまだ言い訳を見つけて、適当に誤魔化そうのでしょう。ただ、ここではさすがに無謀なことしか言えない。
この微かの音を響いたとほぼ同時に、「パッンー」と、グレースの腕がいつの間に、思い切りアンブロワーズの頭に上がっていた。
鎧を着たため、やけに痛そうなアンブロワーズは迷わず、こぶしを握り締めて、恐ろしい勢いでグレースの方へ。
その時、リュカのとなりで突然に大きな風が吹いてきて、二人の間に止まった。風の強さはアンブロワーズみたいな大柄な剣士でさえ飛び弾んだ。
「アンブロワーズ様、ここでもう一度説明します。最初に自己紹介のように、私はリュカ様の護衛だけではなく、もともとはグレース様の
見かけはアンブロワーズよりずっと若く見える青年は怒りを抑えつつ、背中の剣をゆっくり抜いていく。
「ウィル、もういい。先も言ったが、こんなところでこういうヤツのために時間を使うのはもったいない。
だから、あんたの剣ももっと適切なところで使えなさい」
「グレース様…」
「よし!これで一件落着みたいでよかった」
ご機嫌よさそうになった珂玲は両手に合わせて「パーン」と澄んだ響きに、みんなの視線をまた自分のところに集めさせた。
「では行きましょう」
言い終わった珂玲は何もなかったように、普通に歩く。
「そうだ、礼を言わないと!リュカくん」
「はい、何でしょうか、カレイ様」
「先はありがとうね、心配してくれて、もう大丈夫だから」
そう言いながら、左手をリュカの頭にそっと置いて、
赤く熟れたヤマモモみたいな赤髪を優しく撫でている。
「いいえ…礼をいう……な…て…」言えば言うほどだんだん小さくなっている声は、ついに聞こえてなくなった。代わりに髪より赤い色に頬を染まらせた。
(それにしても、先のは幻聴なんて思わないけどなぁ…いったい何なのかな?それとも、敵から仕掛けた罠…のかな?)
朝っぱらから出発するから、今は結構の高さに到着したに違いない。振り返って見ればきっときれいな景色が見られるはず……はない。何しろ、登れば登るほど霧がますます増えた。景色どころか、もとの道すら見つかる気がしない。
ずっとこの日のために苦労したんだ。
突然知らない世界に置きされっぱなして、猛烈な天気に汗かいた。留学生みたいに慣れない生活を送り続いた。いや、ぜったい留学生の方がマシだろう!こちらは文化だけではなく、時代も元の世界と大違いだから。
しかし、ついにそんな生活と別れる日がたどり着いた。
とはいえ、今はまだ喜べる時間ではない。なにせよ、今は一番、もっと集中しないといけない、大事な時間だとわかってたはずだが、なぜか先からずっと余計なことを考えていたろう。
まさか、私は実は緊張しているの…かな…
そう思いながら、珂玲はこっそりで腰にかけた剣に力を入れて握りしめた。今の顔に出すわけにはいかない緊張感を力で費やした。そして、少し息を吐いたあと、肩の硬さはようやく解けた。
(…はぁ、私ったら、やっぱり緊張しているのか?まぁ、これは無理もないね…しかも、アンズのあれ…どうやら皆はまだ気づいていないみたいだけど。ああ…とんでもない迷惑だ!)
そう思いつつ、歩調は少し加速した。
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