おまけ_第2話 マリア・ヘリオドール2

 100人……200人……。

 私は勝ち続けた。右手を折られようとも、心は折れない。左手一本で二人目、三人目と戦ったこともある。

 そして、本当に強い相手には、重傷を負わせてしまうこともあった。

 そういう時は、私も決まって何処かの骨を折られている。

 上位の回復魔法を持つ、アクアマリン公爵令息には、本当に助けられた。

 まあ、彼は私に挑んで来なかったのだが……。

 その後、学園長が来て校則の変更が言い渡された。


 ・決闘で負けても学園に残ることを許す


 私に不満はない。ただし、同じ相手に二度と決闘を申し込まれることを禁じる約束を取り付けた。

 そして、私の部屋には、各貴族家の家宝が山のように飾られることになる……。要らないのだが。

 付いたあだ名が、紅き剣姫レッドソードマスター

 誰かが叫んだ時であった。


「中二病かよ!?」


 思わず、突っ込んでしまった。それも大声で。……大爆笑が起きる。

 嫌がったのだが、あだ名を変えることは叶わなかった……。

 同級生の相手がいなくなると、今度は上級生が挑んで来た。

 もう決闘ですらない。腕試しの相手としか見られていない。

 五歳も離れると、腕力と体重が異なる。


『恥ずかしくねぇのかよ。こんな、か弱い美少女に打ち込んで来やがって!!』


 さらに頭に血が上った。そして、勝ち続けた。

 気が付くと、学生の身分で私に挑んでくる者はいなくなっていた。まあ、今度は騎士団とかが、挑んで来ることになるのだが。

 この世界には、レベルとステータスがあるのだが、私のステータスは好感度以外は、ほぼカンスト手前で止まっていた。

 剣の腕だけなら、この世界の上位に入っているであろう。

 それと、怪我も酷かったので決闘は一時中止となった。これには、学園長にも動いて貰っている。

 しばらくの静養。そして、怪我が癒えれば、私に勝てる者はそうそう現れないという数字での確信……。


「これで、平穏に暮らせる……」


 そう思えた。思ってしまった……。

 そう思えた時に、落とし穴があった。


 その日は、私の誕生日だった。久々に実家に帰り、要らない宝物を父上に献上する。これで、寮の部屋も広くなる。

 全身傷だらけの私を見た両親は、貧血を起こしたのか、その場で倒れ込んでしまった。

 全身傷だらけで歩行も困難な状態だったけど、同性の友人が祝ってくれた。

 アルコールには手を付けない。前世の失敗を繰り返すなど、愚かしい。

 キャッキャ、ウフフの宴が始まった。

 全身痛かったけど、その時は楽しかった。そして、気を抜いてしまっていた。

 忘れていたのだ、この世界はゲームの世界であることを……。


 一台の馬車が、実家の前に止まった。

 使用人が駆け寄って行ったが、すぐに退いた。

 そして、馬車からあの人物が出て来た。花束を持って。

 友人の貴族令嬢達も私から距離を取る……。


 そして、花束が私の前に差し出された。


「誕生日おめでとう。マリア嬢」


「ありがとうございます。ラファエル第二王子様」


 受け取りたくない花束を、笑顔で受け取るしかなかった。

 私は車椅子だったからだ。逃げられなかった……。

 そして、サプライズプレゼントだ。


「この日の為に丹精込めて作りました……。どうか受け取ってください」


 樫の木を削った木刀だった。しかも手作り(?)の。


『なんで、美少女へのプレゼントが木刀なんだよ!? 叩いて欲しいってか? いや、決闘を止めろとの無言の圧力か?』


 心の中では、絶叫していたが、受け取らない選択肢は取れなかった。

 震える左手で木刀を受け取る。

 顔は……、張り付いた笑顔であったと思う。


 私が木刀を受け取ると、友人の貴族令嬢達が、キャアキャアと悲鳴を上げだした。

 何だろう? この木刀に意味はないと思うのだけど……。


「マリア。僕の婚約の申し出を受け入れてくれて嬉しいよ。これからよろしくね」


「え?」


 気が付いた時には、手遅れでだった。

 この木刀は、婚約指輪の代わりだったのか……。

 血の気が引いた。


『やっちまった……』


 その後、第二王子を交えての婚約記念パーティーへと変わって行く。証人は私の友人だ……。

 その日、父上は病院に運ばれた。胃潰瘍が悪化したらしい……。





 次の日から、第二王子との学園生活が始まった。彼は、私の車椅子を押してくれる。

 これでは、学園中の注目の的だ。

 ヒソヒソと噂話が聞こえて来る。


「おいおい、あの貧弱な第二王子が、紅き剣姫レッドソードマスターを倒したのか?」


「まあ、そうなるんだろうな。見ろよ剣姫は立てもしないだろう? 今ならば、俺でも勝てるよ」


「うわ~。王族だけあって卑怯な手を使うな」


 腹が立つ……。

 てめぇらごとき、小指一本でも動けば、血祭りに上げられるものを……。近づいて来ないのが悔しい。赤い絨毯を血の池にしてやれたのに。

 だけど、良い面もあった。決闘を申し込んで来る者がいなくなったのだ。

 一ヵ月ほどの静養……。第二王子は、本当にやさしく私に接してくれた。


『このままでも良いかな~……』


 気を抜いてしまった。 そして、それが起きる。

 第二王子の足元に手袋が叩きつけられたのだ。


「ラファエル様。マリア嬢をかけての決闘を申し込みます!」


 よりにもよって、アクアマリン公爵令息であった。

 彼は、私の数少ない異性の友人だ。将来は、魔法学園に入ることが決まっている。

 私とは、約一年後に別れることになるのだ。

 第二王子は、私と共に中等科の騎士学園に通うことが決まっている……。

 タイミング的に今しかないと言うことか。

 第二王子を見る。真っ青だ。

 この王子は、正直もやしだ。光の単属性の使い手ではあるけど、剣術の心得などないに等しい。

 こうなると、魔法戦になってしまうだろう。

 そして、勝つのは、アクアマリン公爵令息だ。これは間違いない。

 第二王子が負けた場合は、継嗣問題が発生しかねない。第一王子が病で臥せっているとの噂も聞いている。

 ダメだな……。この決闘は行ってはならない。


「アクアマリン様。わたくしは、景品ではございませんのよ……」


 そう言って、私は第二王子に抱き着いた。

 まだ、育っていない胸を押し付ける。

 周りから、大歓声が上がった。第二王子は、顔が真っ赤だ。

 そして、アクアマリン公爵令息は、力なく座りこんでしまった。その後、彼は二度と学園に顔を出すことはなかった。

 全寮制の学園だというのに。


『気ぃ抜いちゃ、ダメだよな~』


 今は、良くない流れに乗っていると思われる。そう、今の私は悪役令嬢のポジションにいると思われるからだ。

 何年後かに、断罪されかねない。

 なんとか第二王子との関係を断って、百合のシナリオへ持って行きたいと思う。百合のシナリオであれば、断罪イベントは発生しないはずだ。


 そんなことを考えていた時だった。ありえない連絡が来た。

 何故か、下の兄が戦争の英雄になっていたのだ。

 そして、公爵位を賜るという……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る