第18話 事前準備1

 レガートの特訓が始まった。

 特訓と言っても、大盾と短剣に見立てた木の棒を構えて、セバスチャンの木の枝による剣劇を受けるだけだが。

 セバスチャンの持つ木の枝が動いたと思うと、レガートが吹き飛んでいる。

 レガートが立ち上がり、再度構えるが、また吹き飛ぶ。

 この繰り返しだ。


 初日は、レガートが立てなくなるまで繰り返して終わった。

 というか、気絶している。

 僕は、レガートに回復魔法を施し、怪我を癒してやった。


「すまねぇだす。領主様に魔法を使わせちまって……」


「いや、今回は、僕のダンジョン探索に付き合って貰うのだ。

 そのために、痛い思いをさせている。だが、頑張って欲しい」


 レガートの目は、輝いている。やる気十分だが、今日は休むように伝えて帰らせた。

 やる気があるのは良いのだが、持つのだろうか?

 いや、嬉しいのかもしれないな。元冒険者なのだし。野良作業よりも生き生きしている。


 それと、シルビアだ。怒っている。

 ツ~ンとしている……。口も聞いてくれない。

 留守番を任せたのが、気に障ったみたいだ。

 回復役が二人いる必要はない。そして、エリカの情報では、それほど難易度の高いダンジョンではないのだそうだ。

 バランスを考えると、シルビアに残って貰うしかないのだが……。





「今日も食事が美味しいな。シルビアは本当に料理が上手だ」


「……」 ツ~ン。


 重い沈黙。

 セバスチャンとエリカは、僕が困っていても助け船を出してくれない。

 なんでだ……。

 弾まない会話をしながら、夕食が終わってしまった。

 これから数日は、こんな感じなのだろうか。


 シルビアが、食事の片づけと弓の稽古、それと食料の備蓄管理などで席を外す。


「はぁ~」


 ため息が出てしまった。正直気まずい。


「なあ、シルビアの機嫌を取りたいのだが、なにか方法はないか?」


 セバスチャンとエリカは、笑顔で無言だ。

 僕だけが分かっていないと言うことなのだろう。

 そうなると……。


「分かったよ。ダンジョンには、シルビアも連れて行く。開拓村も心配だが、シルビアの機嫌が悪いのはとても困るしな」


「「なりません!」」


 あれ? 二人とも即座に反対して来た。こうなると、僕が思い違いをしているのか?


「ならばどうすれば良い?」


「「考えてください」」


 息が合いすぎじゃないか? この二人は、こんなに仲が良かったのか?

 その後、度々シルビアに話しかけるが、機嫌は直らなかった。

 終始『ツ~ン』である。

 本当に困ったものだ。





 レガートは、五日でセバスチャンの攻撃を受け止めきれるだけの膂力を得ていた。

 元々素質があったとはいえ、毎日気絶するまで耐えたのだ。本当にすごいと思う。

 これに、僕のバフ効果を加えれば、通常の魔物くらいであれば、ソロで対応出来るだろう。

 多分だが、この前出た熊の魔物でさえも正面から対峙出来ると思う。盾役としては、申し分がないほどに成長していた。

 それと、レガートの盾である。壊れないどころか傷もつかない。商人のギザールさんに貰った(奪ってはいない)物だが、あれは何なのだろうか? エリカ曰く、回り回って、最終的にこの開拓村に売りに来るのだそうだが、それを事前に入手したらしい。

 『呪われた装備なのか?』と聞いたら、『普通の装備よ?』と帰って来た。今は、レガートに使わせているが最終的に別な用途があるとか、意味が分からない。まあ、何時ものことか。

 そんなこんなで出発だ。


「準備完了で良いかな? 食料も寝袋も持った。それと、諸々の消耗品も確保済みだ」


「……まあ、行く分には問題ないかな」


 エリカに聞いたのだが、なんか含みのある言い方だな。

 このまま行っては、行けないということか? とにかく分からないな。


 夜明けと共に朝食をとり、徒歩にて開拓村を後にする。

 馬車だと、ダンジョンに籠っている間に盗まれる危険がある。最悪なのが、馬だけ殺される場合だ。

 まあ、徒歩で一日くらいの距離である。徒歩でも問題はない。


「それでは、シルビア。行って来る。開拓村を頼むぞ」


「……行ってらっしゃいませ。お早いお帰りをお待ちしております」


 シルビアの機嫌は、最後まで直らなかった。

 どうすれば良かったのだろうか?


 その僕を見て、セバスチャンとエリカがため息を付いた。

 レガートは、やる気満々だ。


 とても、歯切れの悪い出発になってしまった。

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