第19話 提案
『なるほど。彼について知りたいのね。』
彼女は写真を目にすると、さもあらんといったようにうなづいた。
『はい。』
『そうねえ。確かに私と彼は知り合いだけれど……。私はそこまで口が軽い女じゃないわ。』
『……そうですか。』
柄本とともに項垂れる。
彼女は豊田から与えられた唯一つの手がかりだったのだ。
彼女に拒否されてしまえば、私たちが王という画商に接触する術はなかった。
『あらっ。教えないとは言ってないのよ。』
紅色の唇は弧を描いていた。
『あなた方が信用に足る方々だと分かれば、多少は話せるわ。』
『信用、ですか?』
『そう。私のこの町での立場を知ってる?』
『いや、存じ上げませんが…。』
情報屋よ。
『情報屋?』
柄本の繰り返す声が聞こえる。
『あなた方の上役がこちらに社を構えているのはね。私がここにいるからなの。彼が日本から渡ってくるときも協力してあげたわ。』
ますます笑みは深くなる。心なしか瞳も力に満ちるように輝いた。
ギラギラと。
『豊田は言わなかったでしょうけれど、私はココットよ。通りの街娼とはわけが違うわ。この街での噂も何もかも私のところへやってくる。』
あなたが私への対価を支払ったら、私は持っている情報をあなたにあげるわ。
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ココットというのはフランス語での高級娼婦の呼称です。
フランス革命前は、クルチザンヌとも呼ばれていたそうです。
中国で娼婦は、妓女や民妓と呼ばれていたようですが、
レティシアは見た目も名前もヨーロッパ人なので、
ココットという名称を使いました。
彼女たちは邸宅や装飾品などに散財し放題。
しばしばパトロンを破産させていました。
有名なのはコーラ・パールという女性です。
(なんとあのナポレオン・ボナパルトの孫とも関係を持っていました。)
パリには今でも彼女たちのために建てられ邸宅が数多く残っているようです。
女性の社会進出が難しい時代、高級娼婦という職業は
豪奢な暮らしをするのに手っ取り早い仕事だったのかもしれませんね。
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