第11話 丘の上

「早くしろよ。」

隣で柄本が急かす。


握った金属製の戸叩きが温くなっていた。


前庭を横切り、たどり着いた扉。さわやかな雰囲気を持つ邸宅は、まさに妙齢の女性の住まいに相応しかった。

門も屋敷も白煉瓦を基調としており、鮮やかな花が庭に植っている。丁寧に手を入れられていることが窺える。


「おい。」

柄本の声に反応できずにいると、その手が戸叩きへと伸びた。


コンコンコン


軽やかな音がした。


「ほら、シャッキとしろ。」

言われてようやく、背筋を伸ばす。洋服と髪ももう少し気を使ってくれば、と後悔した。


『どちら様でしょうか。』

使用人だろうか。まだ年若い娘の声がした。

『港近くの新聞社の者です。こちらのご婦人に御用があって伺いました。』

まるで己の声でないかのように、喉が震えた。

しかし、娘の声は無情だった。

『マダムはお会いになれないと思います。』


私を包んだのは絶望だった。

目の前が闇に染まり、耳鳴りがした。

私は、あの写真の女に拒絶されたのだと。心が咽び泣いていた。


『豊田幸蔵の部下だと、御婦人にお伝えいただけませんか。』


柄本の願い出に、閉ざされた扉の向こうで再び少女の声がした。


『お伺いしますから中でお待ちください。』

その言葉とともに、白い扉が開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る