第6話 写真の女
「画廊商ですか?」
「ああ。彼は大層な資産家でね。この街の有力者でもある。彼の収集品について書いてもらいたい。」
豊田が自らの手帳を取り出し、それに挟まった写真をおもむろにテーブルへと滑らせた。
「これがその画商だ。」
写真の中の男はなかなかに恰幅が良く、貫禄があった。色彩のない写真では判断できないが、血色も良さそうだ。
肩から上のその写真で、彼は洋服を纏っているが、どう見ても西洋人ではない。アジア人特有の顔立ちで、景気良く笑っている。
「名前はワン・ブォエン。漢字で書くとこうなる。」
私は豊田の手帳を覗き込んだ。
王博文
たしかに、現地人のようだ。
「ああ、それと。」
もう一枚の写真が豊田の胸ポケットから現れた。
美しい女がそこに居た。
豊かな薄い色の髪を洒落た形に結い上げ、化粧で彩られた顔がこちらに向いている。
一目で上流階級の者だと分かる。
気品に溢れ、己の魅せ方をよく知っている。
うつくしいおんなだった。
「見惚れたかね。」
上役の声がかかるまで、確かに私はその写真から目を離せなかった。
「この女性は、王と深い関わりがあるようだ。何かの役に立つかもしれない。この写真は君にあげよう。」
そう言ってテーブルの上を豊田の手が滑る。
「期限は、二ヶ月。納得できるものであれば、紙面に載せると約束しよう。」
期待しているよ。
上役は白髪混じりの整えられた髪を撫でて立ち上がった。
「さて。悪いが、このあと人と約束があってね。失礼する。」
呆気に取られながら、私はやっとのことで呟いた。
「いえ、お気遣いなく。」
ああ、そうだ。
扉を開けた豊田が不意に振り返った。
「娘が君を気に入っていてね。また近いうちに遊びに来たまえ。」
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