ダンジョン@エルベレス
みっと
プロローグ
君の目の前に、何者かの影が落とされた。
ダンジョンの中は暗いせいもあって、君はそれが何なのか見る事が出来なかった。
その男、いや怪物はぬちゃぬちゃと音をたてながら、ゆっくりと君に近づいてくる。
君が勇気を振り絞って灯りを突き出すと、その正体が明らかになった。
暗いフードの中からは、紫色のタコのような頭がついていた。その頭からは、ヤツメウナギの口のような4つの触手が生えており、うねうねと動き、気色の悪い音を立てていた。
逃げなければ。そう思うが体が思うように動かなかった。汗が滝のようにこぼれだし、膝がガクガクと音を立てて震えた。なんとか一歩後ろに後ずさりして、体を無理やり動かし、君は走り出した。その勢いで階段を全速力で駆け上がる。
後ろから君の相棒の犬、シロが君について走って姿が目に入った。汗が目にしみた。心臓が口から飛び出しそうだ。後ろから、ぬちゃぬちゃと言う音がすごいスピードで向かってくるのが聞こえる。見えたかすかな明かりをめざして走る。後ろから追ってくる足音に君は焦る。
君の目に、触手が君の足に迫ってくるのが見えた。このままでは捕まる!
その時だった。
ドンっと音がしたかと思うと、君の足を掴もうとしていた触手が見えなくなった。それに続いて何かが階段を落ちる音が響き渡る。
君は足を動かしながら、慌てて振り返る。そして、君は、君の相棒が、君を庇って階段を転げ落ちたということに気づく。
「シロ!!」
君が急いで階段を降りる足を踏み出そうとすると、何者かにガシッと抑え込まれた。
「危険だ!あんたじゃアイツには敵わないぞ!」
警備員だった。音が聞こえてきて駆けつけてきたのだ。
「離して!」
君は必死に彼を振り払おうと力を込める。その間に、ヒーはもう下の層に落っこちて背中を強打して動けないでいた。ヌメヌメとした触手が、シロの頭の部分に吸い付いた。
「離して!!」
君は必死に叫ぶ。こんなところで、相棒を失うわけには行かなかった。
「死んじまうぞ!それも無駄死にだ!」
彼はそう言うと、右手で君の首根っこを叩いた。君の意識が段々と不鮮明になってゆく。
彼はがっくりとうなだれた君を抱きかかえると、急いで階段を上り、ドアを閉めた。
-----------------------------------------------------------------------
「はっ」
気がつくと君は小さな部屋に寝かされていた。
君の横にはあの警備員が座っていた。
段々と頭が眠りから覚めていくうちに、記憶が雪崩のように流れ込んできた。
「そんな、シロは!?」
君はバッと立ち上がる。が、直ぐにフラリとして座り込んでしまった。
「どうして止めたんですか!!見殺しにするくらいなら、いっそ一緒に死にたかった!」
君はそう叫ぶ。彼は悲しそうな顔で君を見ると、口を開いた。
「嬢ちゃんは冒険者だな?俺はあんたに口出しする権利も、あんたを止める義理も無い」
「なら何故!」
君の目に涙が浮かぶ。彼は君を真っ直ぐに見ていた。
「俺は、嬢ちゃんだけには死んでほしくなかったんだ。ダンジョンの外の人と話すのはもう数十年ぶりだったんだよ、嬉しかったんだ。あんたにまだ生きててほしかった」
君は枕元に置かれていた剣を引っ掴み、鞘から抜くと、立ち上がった。
「ここでの生活にも飽き飽きしてたんだ。嬢ちゃんになら殺されてもいいぜ」
彼はそう言って頭を垂れた。
「殺します。が、あなたを、じゃありません。あの怪物を、です」
君はそう言うと、部屋を去ろうとドアを開ける。
「待ってくれ!いま行っても奴に為すすべもなく殺されちまうぞ。嬢ちゃんの犬は、あんたを守って死んだんだ、それこそ無駄死にになっちまう」
君は足を止める。
「アイツを殺しに行くつもりなら、もう少し待ったらどうだ。力をつけるんだ、あんなヤツ簡単に殺せる位にな」
君は振り返らないで口を開いた。
「あの怪物の名前を教えて下さい」
彼は一瞬躊躇ったが、ゆっくりと口を開いた。
「あいつは…マインドフレイヤーだ。あの触手で脳みそを食うのさ。」
君は剣を鞘に収めた。そして、今度はしっかりと彼の目を見た。
「…ありがとうございます。いつかアイツをこの手でずたずたに殺します。その時はもう止めないで頂けますね」
「ああ」
君はそれを聞くと、部屋を後にした。
彼は、心配そうに君の後ろ姿を眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます