第48話 車内で流れ続けるテーマ曲
モン・サン=ミシェルのレストラン〈ラ・メール・プラール〉でデセールを食べ終えた三人は、食後のコーヒーを楽しむ事にした。
サクサクっと観光をするだけならば二時間、じっくり回っても三時間もあれば、島を一巡りするには十分なのだ。
「先生、もう少し店にいらっしゃいますよね?」
「一時くらいに店を出る予定だから、それまでは、コーヒーを飲みながら、まったり過ごすつもりだけれど。
リオン君、何か問題でも起こったの?」
「さっき、仲間にショート・メールを送ったのですが、返事が返ってこないので、店の外に出て、電話を掛けてみようと考えているのです」
理音が、レストランに入った時に交わした仲間とのメールによれば、パリから北回りでノルマンディーに向かっていた二人は、高速の降り口を間違えてしまったそうなのだが、ルートを変更したため余計に時間は掛かってしまうものの、この先、何もトラブルが生じなければ、午後一時前にはモン・サン=ミシェルに到着できる、との事であった。
その後、到着時刻の再確認のために、メインのオムレットゥを食べ終え、デセールが出てくるのを待っているタイミングで、理音は、ゴダイとニシカワにメッセージを送っていた。
しかし、二人からの返事がない。
理音は、供された三種のデセールの盛り合わせの一品一品を食べ終えるごとに、スマフォの画面を確認したのだが、最後のタルト・タタンを食べ終えた時点においても、未だ返信が届かなかった。
「リオンさん、もしかして運転中で、メールができないとかじゃないんすか?」
「いや、ツレは二人いて、その両方に同じメールを送っているので、もしも、途中で運転を変わったとしても、どっちかからは返信は来るはずなんだよね」
「お友達、何かあったのかな?」
「先生、事情は分からないのですが、自分のツレ、ここに向かっている途中で既に、モンサンミシェルに来れる事で、テンションが上がり過ぎて、道を間違えてしまったらしいので、単にメールに気が付かなかっただけかもしれません。さすがに、電話を掛ければ、着信音が耳に届くとは思うのですが……」
かくして、店外に出た理音は、哲人のガーディアンである仲間に連絡を取らんとした。
まず、ニシカワに電話を掛けた。これまでの車移動において、ニシカワが助手席に座る場合が多かったからだ。
しかし応答はない。
そこで、理音は、電話帳アプリのゴゲンの名をタッチした。
同時刻――
モン・サン=ミシェルから二十キロメートルほど離れた田舎道脇の木に、正面から突っ込んでいるチェリーピンクのシトロエン2CVの車内では、スマフォから「ルパン三世のテーマ」が流れ続けていたのであった。
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