第1話 小人
レモン色の光が町中を染め上げる朝、人々は一斉に動き出す。
電車に乗る人、自転車をこぐ人、料理を作る人、慌てる人。
私は今、春の匂いをかぎながら桜の舞う道路の歩道を歩いていた。
「春」
出会いの季節。
新しい生活に新しい自分。
私は、高校生になった。
人見知りで、いつも陰にいて、別に仲のいい友達もいなかった私は、中学三年間が異常に長く感じた。そして高校に進学し、わざと中学校から遠く離れた高校を選んだ。
きっと知っている人はいないはず。新しいJKライフで、友達も、彼氏もたくさんつくる! いや、彼氏はたくさんはダメか……それに私、モテないし。
この高校がある街は、少し街中から外れたところある。田んぼがあり、風に青々とした草や、小さな草花が揺れる。殺風景だが、とても心が落ち着く。そんな場所。
家から高校に通うのに距離があり過ぎるので、たまたま高校の近くにあるおばあちゃんの家に高校三年間だけ住むことになった。
でも、おばあちゃんの家、好きだから良かったぁ。
築200年のおばあちゃんの家は、歴史的な雰囲気があって、中央には中庭がある。走り回れるくらいだだっ広い家なので、ランニングするのには困らなそうだ。なんてね。
高校の門の前で立ち止まる。そして、深呼吸をする。
「よし!」
そう自分に言い聞かせ、敷地内へと足を進めた。中学生の時とは違って、眼鏡をやめてコンタクトにし、髪もしっかり整えてハーフアップ! 絶対に変わってみせる! 人見知りともおさらば!!
ガーン……。
私は教室に入って後悔した。そして、新しい自分の席に深く腰掛ける。
全然、人と話せない! やっぱり……私は人見知りで、人見知りは私なんだぁ。第一印象が大切なのに、何一ついい印象を持たせることが出来なかった。
人と会話することが苦手な私にとって、現代の高校生と会話する話題さえないのは当たり前。周りをきょろきょろしていたら、余計変な人だって思われるか心配で、私は机に視線を下ろした。 はぁ、と私は自分の机に向かってため息をついた。
「はぁ……ただいまぁー」
私は力のない溜め息と共に、玄関の扉を開けた。
「おかえり、あれ? 早かったんじゃないの?」と、おばあちゃんが右側のキッチンの方から出て来た。もう少しでお昼だから、昼食の準備でもしていたのだろう。
「今日は、入学式だから早かっただけだよ」
そう、と言っておばあちゃんはキッチンの方に戻っていった。私は、カバンを引きずりながら中庭の方へと足を動かした。
「よいしょっと」
私は中庭を見ながら、縁側の淵に腰かけた。
ここは私が一番、「生きてる」って感じられる場所。中庭には、可愛い木があって、可愛い石があって、可愛い苔がある。ちょろちょろ、という水の音と、カコン、という竹の音。
「あれって、なんて言うんだっけ……」
……あ、思い出した。そうそう、ししおどし。それ好きなんだよね。聞いているだけで心が落ち着く感じがしてさぁ。山頂に立って、深呼吸しているみたいに空気が美味しくなるんだよね。
──カコン
すると、トコトコトコ、と小さな足音がした。
「ん? 小人?」と私は小さな陰を探した。
この家には昔から小人が住んでいる。
私は小さい頃、よく見ては消える小人をどこかどこか、と追いかけていた。でも、小人を見るのは決まって私だけで、ほかのみんなは一度もそれらしきものは見たことがないと言う。
なぜ、私だけなのか。
私だけに見える小人なのか。
私が見る運命なのか。
今になっても、何も分からない。
小人の数は、髪型、服装などから考えて5人だと思う。
青色の合羽を着ている黒髪の子。
スーツっぽい服を着て、シルクハットをかぶっている黒髪の子。
少しおんぼろな服を着ている金髪の子。ベルトを付けていて、足が長い黒髪の子。
少し耳がとんがっていて、ふわっとしたグレーの髪の子。
みんな決まって男の子だと思うんだけど、でも、怪しいのがグレーの子。女の子っぽくも見えるし、男の子っぽくも見えるからよく分からない。
小人はずっと見えるだけじゃなく一瞬しか見えないのだ。気付けばもう、消えている。そんな不思議な小人を見るのも、ここにいるべき楽しみの一つなのである。
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