第32話 気配

 統司と和恵から感謝の言葉を沢山頂いた。謝礼を出されたのだが、受け取らなかった。村に迷惑をかけているため、奉仕のつもりだった。

 部屋に戻ってくると、ネタ面白かったよ! と瑛華は言ってくれた。


「ありがとう。でもややウケだったけどな」

「私は面白かったからいいの。ああいったシュールな感じなのが私は好きなんだ。今の感じで磨いていったらいいよ」

「ありがとうよ、お師はん」

 瑛華はふふっと笑った。

「けれど、神様は楽しんでくれたのかな?」

「真顔かもしれないしな。時事ネタより、意外と下ネタが好きかもしれないし」

「祟られるよ?」

「お守り持ってから平気だよ、おれには神の御加護がある。神様とて太刀打ちできないさ」

「そんな冗談が言えるってことは、ももちゃんは怖がってないんだね」

 瑛華は表情を暗くし、眉を曇らせた。なにかから隠れるように身を小さくしている。

「怖くないわけじゃないけど、あれは誘拐だ。神隠しなんかじゃない」

「うん……」

「怖いのならこっちこいよ。少しは安心できるんじゃないか?」

 おれは両手を広げ笑った。

「え、恥ずかしいよ」

「恥ずかしがるなよ、二人きりじゃないか」


 おれは言うと、ぞくりとしたものが体に走った。目を細め戸の方を見た。


 人の気配や物音があったわけではない。ただ本当に二人きりなのか? と疑問が湧いてきたからだ。

 監視されている、ということは考えられないだろうか。禁止事項を破らないか、村のものたちが警戒していてもおかしくない。充分、有り得る話しだ。旧神社で遭遇した男も、村が派遣した監視者かもしれない。旧神社でも同じことを考えていたが、いよいよもって怖くなってきた。

 村へやってきた初日の夜、村長は村人と集まりなりやら話していた。ヒソヒソと会話し、不穏な空気を感じた。関係があるとは断定できないが、どうしても勘ぐってしまう。


 おれはいても立ってもいられず、戸に近づき開けた。瑛華はどうしたの? と疑問の言葉を出した。


 体を廊下に入れ左右を確認してみたが、なにもなかった。夜の闇に隠れた廊下が伸びているだけだ。


 ――考え過ぎか……。


 戸を閉めもとの位置に座ると、瑛華にもう一度、どうしたの? と尋ねられた。おれはなんでもないよと言っておいた。

 人を監視するほど、おかしな村ではないだろう。だが、どこかでおれたちを見ている瞳があると思うと、背筋に冷たいものが走った。

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