1-20 病死の死神・呪死の死神

「おっしゃる通りです。自分たちはこの方の魂を回収しに伺いました。そういうことも眼で視えるのですか?」

「あぁ視えるんだ。それで、その……カリオトさんは死んじゃうのか?」


 納得したようにノワールは頷くと、話を始める。


「えぇ、キエルさんの仰るとおりです。この方は今、で苦しまれております」

「……二つの死因?」

「えぇ」

「病気だけじゃないのか……というか、それだと二人とも違う死神なのか?」


 二人とも頷く。


「そうバラバラなの! あたしは呪死じゅしの死神!」

「自分は病死の死神です」

「そして、私は偉い死神さ」


 ちゃっかり話に混ざるな。

 ややこしくなるだろうが。

 それにしても病死はともかく、呪死じゅしとは……。


「なぁキエル。呪死じゅしとはなんだい?」


 なんで死神なのに、死因を知らないんだ。

 そう思いつつも、説明する。


呪死じゅしってのは、呪いで死ぬことだ」

「呪い?」

「そうだよー! 恐ろしい恨み辛みで、死んじゃうんだよ! ルアネーチャン!」

「る、ルアネーチャン? そ、それはまさか私の名前かい?」

「そうだよー! いい名前でしょ。ニヘヘ」


 ルアネがたじろぐ、ニックネームのインパクトにやられたようだ。


「なんか威厳がないような……。まぁいい。それで、クロベニ。呪いというのはどういうものなんだい」

「んーとね。こうグワーってなって、ググってなる感じなの!」

「……なるほど」


 絶対わかってないだろ。

 助けてという目線を俺に送るな。

 仕方ないな、助け舟出してやるか。


「あー、簡単にいうと誰かから精神的な攻撃をされてるってことだ」

「なるほど! いや、分かっていたけれどね。はは」


 本当かよ。

 それにしてもカリオトさんが誰かに呪われるなんて到底信じられないが……。


呪死じゅしについては理解いただけたようなので、話を続けてもよろしいでしょうか」

「あ、あぁ頼む」


 ノワールが断りを入れたので、いったん考えることはやめ、話を聞くことに専念する。

 カリオトさんを助けられるヒントがあればいいのだが……。


「とはいえ、これ以上話すことはほとんどないです。呪死じゅしか、病死、どちらになるかはわかりませんが、明日の朝までにはこの方は死ぬでしょう」


 だが得られるものは何もなかった。

 結局わかったのは、カリオトさんの容態が手遅れだという最悪な結果だけだ。

 まだ夜になったばかりだ。幾分か時間はあるが、それは何の意味もない。

 看取る時間が欲しいわけじゃない。俺はカリオトさんに死んでほしくないんだ


「そこをどうにかできないか。助けたいんだ」


 ダメ元で聞いてみる。


「それは……現状ですと難しいですね」

「んー、お兄ちゃんのお願いでもなー」


 返事はかんばしくない。

 ノワールとクロベニがそっと、カリオトさんの身体を触る。

 ノワールがため息をつく。


「……特定致しました。この方の身体を蝕んでいる病は深刻です」

「触っただけで、病がわかるのか」

「えぇまぁ。それぐらいは簡単にできますから」


 何気ないように言っているが、凄い能力だ。

 ノワールが続けて話す。


潮臓病ちょうぞうびょうという名前は聞いたことはございますか?」

「……知らない」

「珍しい病気です。内臓が潮の満ち引きのように、肥大、あるいは縮小する奇病です」


 聞いただけで、痛みが襲ってきそうな症状だった。


「……ここまで静かに寝ているのは奇跡ですね。常人であれば、痛みで狂ったように叫んでいてもおかしくありません」


 いたわるようにノワールがカリオトさんの身体をさする。


「呪いも強いねー。普通の呪いとかじゃなくて、なにか特別なことしているみたい。強い殺意を感じるねー。解呪するのも一苦労だよー!」


 クロベニも調べてくれていたようで、ありのままの状況を教えてくれる。

 誰がそんなことを……ひどすぎる。


「その、二人の力でどうにかできたりしないのか」


 目の前でしてくれたように、簡単にカリオトさんが苦しんでいる原因をつきとめられたのだ。

 それぐらいの力があるなら、治す力があってもおかしくない。

 だが二人は顔を見合わせ、フルフルと首を振る。


「無理なのか……」

「んー、できなくはないんだけどー」

「ならなんで!?」

「あれれー。お兄ちゃんでも知らないことがあるんだねー」

「力があったとしても、自分たちのです」


 そんなの初めて聞く。


「その二人が言っていることは本当さ。今まで話す必要がなかったから言わなかったけどね」


 確かめるためにルアネを見ると、頷かれる。

 嘘を言っている雰囲気はない。


「そう……か」

「可哀そうだね。助けたのに、死んじゃうなんて。でもしょうがないよ」

「本当にお気の毒です。せめて最期まで隣にいてあげるのがよろしいかと」


 落ち込む俺に二人とも思いやりの言葉はかけてくれる、だがそれだけだ。

 ただ死ぬのを受け入れろと言外に伝えてくる。

 そこらへんは死神の価値観なのだろう。

 思えば会ったばかりのルアネも人の命に無頓着だった……ん?


(それなら、なんでルアネはカリオトさんを助けた……いや、


 今の話が本当なら、ルアネがカリオトさんを助けることはできないはずだ。

 死神は人の生死に直接関われないのだから。

 なのになぜ、ルアネは助けてくれたんだ。

 それは……。


「ははは」


 思わず笑ってしまった。

 死神の三人が驚いた顔をしているが、別に変になったわけじゃない。

 簡単な答えが見つかっただけだ。

 そういうことか。

 なんだ簡単なことじゃないか。


「契約だ」


 直接助けられないなら、俺を介して働きかければいいわけだ。

 ルアネから戦う力を手に入れた俺が、カリオトさんのガイルに殺される運命を変えたように。

 ならやることは分かりきってるだろ。


「俺と契約をしようじゃないか」

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