23話

「おーし、そんじゃあ自己紹介も終わったみたいだし、明日の予定を話して終わりにしましょーかね」


 先程まで寝ていた賀茂は寝ぼけ眼で話し始めた。


「はい、明日はアビリティウェポンの生成をするんでね、遅れないようにしましょー。……俺が遅れたらメンゴ!」


 余計な一言を残して颯爽と教室を立ち去っていく賀茂。

 それを呆れ気味に見届けた生徒たちは段々と教室から立ち去っていった。


「俺らも帰るかー!」


 弥生が立ち上がって龍真と、ついでに玲香と結乃に声を掛ける。

 龍真は快諾し、玲香も弥生に対し多少は親近感が湧いたのか「それくらいならいい」と返事をした。


 寮は男女とも同じ建物だ。それは最新技術で作られているため、他人が侵入してくることがまず無いからだ。

 自分の部屋に誰かを招く時は朝5時から22時の間フロントにいる寮の案内人に部屋主本人が申請し、一日限り使える使い捨ての入室許可証を被招待者が持って入室しなければならない。もしもそれを破って部屋主以外が無理矢理部屋に入ろうとした場合は即座にフロントに緊急通知が届き、迅速に対応がなされる。ちなみに入退室の時は扉の開閉で検知され、ログが残るらしい。また、廊下では360度死角無しの浮遊式監視ドローンが定期的に巡回する。

 とまあ、これほどの完璧なセキュリティのため、男女を同じ建物に収容することが可能なのである。


 ともあれ、弥生たち四人組は教室から出て、寮へと向かい始めた。




「明日はウェポン生成かー。確かアビリティウェポンって喚び出すのに呪文がいるんだっけ」


 弥生が問うと、龍真はこくりと相槌を打つ。


「ああ。召喚の時の呪文は人によって全く違う。それぞれの人生をなぞらえた呪文とウェポンの名前が頭に浮かんでくるらしい」


 アビリティウェポンとは、異能力者が16歳になる年の四月のどこかで発現する異能力者専用の武器である。

 学園でのアビリティウェポン生成時には本来別々で発現するはずのアビリティウェポン発生日時を調整する効果のある陣の上に乗り、頭に浮かんだ呪文を言い放つことで召喚の儀となり、アビリティウェポンを喚び出すことができる。


「人生をなぞらえた呪文なんて、他人に聞かれて気分の良いもんじゃないわよね」

「そうですね……。そういう人達の為に、召喚は個室でするものだと聞いたことがあります」


 玲香が顔を顰めながらいうと、結乃が補足をいれた。


(確かに、どういう呪文かは知らないけどボクの人生をなぞらえた呪文なんてどうなる事か。それを言えば龍真クンも聞かれちゃ都合が悪そうだしね)


 横目で弥生が龍真を見れば、その顔は少しだけ安堵に染まっているようにも見えた。




















『おかえりなさい。三奈月弥生さん』


 部屋のドアが自動で開くと同時に耳元で聞こえる人工音を聞き流し、弥生は部屋に入った。


「んーっ! 今日は楽しかったなぁ。青霧サンほどではないものの、なかなか良さげなヒトたちも見られたし」


 伸びをしてにんまりと嗤った弥生は、ブレザーを乱雑に備え付けのソファの背へ放って座り、足を組む。


「明日はウェポン生成かー。龍真クンがどんな呪文になるのやら、聞くのが楽しみだなぁ」


 弥生にかかれば日本一と名高いセキュリティを持つ学園の防音機能もないも同然である。最初から盗み聞く気満々だ。

 ソファのに入れておいた指紋認証式のボックスからいつもの服を取り出し着替えると、弥生は上機嫌に窓から飛び降りた。


「さて、サクッと何人か殺して、早く寝ちゃおっ」


 夜に響く鼻歌は、されど監視ドローンに録音されることはなかった。

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