21話



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「自己紹介ぃ??」


 時は変わり、六限のLHRの時間。担任の賀茂が言ったのは、“さっ自己紹介でもするか!”という一言だった。


(なんで今更。そういうのって普通、初日にやるものじゃないの?)


 心の中で弥生が疑問を呈していると、賀茂はそんな生徒たちの様子を見てか、説明を始めた。


「いやぁ、初日は色々あって時間が取れなかったからな! それにほら、LHRってなんか自己紹介しそうな授業じゃない?」


(自己紹介しそうな授業ってなに……)


 そんなツッコミは弥生だけで無く、恐らくクラスの何人もが考えたことだろう。


「ま、細かいことはさておき、自己紹介始めるぞー」


 少々困惑気味の生徒を置いて、賀茂は話を進める。


「んー、じゃあ、そこの眼鏡男子から自己紹介やってくかー」


 そう言い、賀茂は弥生から見て右の一番前、つまり弥生の真反対の席を指さした。


(えっ……つまりはボクが最後……? なんかやだなぁ……)


 弥生は謎のプレッシャーを感じつつ、とりあえず生徒の自己紹介に耳を向けることにした。

 最初の生徒は大きな丸眼鏡をかけた男子生徒だった。灰色の髪はあまり手入れされていないのか、ぼさぼさとしている。


「あっ、めっ、目黒めぐろ千尋ちひろですっ! えと、専攻異能は[幻影]でランクはBです! よろしくお願いします!!」


 緊張を滲ませながら簡単な自己紹介を終えた目黒に、パラパラと拍手が送られる。何人かは拍手をせずに各々過ごしていたが。

 その中で弥生は拍手をしながら、思考を巡らせた。


(Bっていうと……学生にしては強いのかな……? ボク、SS未満の強さって覚えてないんだよねぇ。相手にする価値もないから。でもまぁ、[幻影]っていうと割と希少な異能だった気がする)


 頬杖をつきながら弥生はぼんやりと考える。

 ランクから実力は期待できそうにないが、[幻影]にはそこそこの興味があった。ただ、後ろ髪を引かれるほど興味を抱いていた訳ではない為、早々に目黒から目を離し弥生は次の人物に目を向ける。

 次の生徒は金髪碧眼のそこそこ顔が整っている男子生徒だった。ただ、顔が整っていると言っても龍真や他のSクラス生徒の標準顔面偏差値に比べたら下の方であるが。

 金髪碧眼の男子生徒は自信ありげに席を立つと、意気揚々と話し始めた。


最上もがみ正義まさよしです! 専攻異能は[光線]で、ランクはA! 曲がった事が嫌いなので、いじめとかは許せません! 皆、とりあえずは一年間よろしく!!」


 自信に満ち満ちたその自己紹介を聞き、弥生は吹き出すのを堪えるのに必死だった。


(名は体を表すとはまさにこの事だね……っ! 自己紹介でいじめはダメです宣言ってっ! お、おなか痛い!! それにAランクって嘘でしょ? 目黒君とやらの方がまだ強いと思うよ!)


 この学園に来てから笑ってばっかりだなぁ、と思いながら弥生は興味を次の生徒に移す。

 そこには緑色の目で茶色の髪を横で一つに結んで胸元に流した女子生徒がいた。


「こんにちは! ユズリハ衣織いおりです! 専攻異能は[治癒]、ランクはBです。よろしくね!」


 にこやかに挨拶したその姿から、ユズリハはリーダーシップのある人間なのだと予想がついた。


(ま、それもあくまで低レベルの子供の中だけでの話。各々の自己が強いこのクラスじゃほぼ無意味なようなものだけど)


 [治癒]の異能はあまり希少性の高いものではない。だが、磨けば国に重宝されるほどにはなる。


(このヒトが面白いかは異能の実力を見ないと分からないな。体の動きからして、体術はそこまで強くなさそうだし)


 こちらも早々に目を離し、弥生は次を見る。


(次のコ、ちょっと見込みあるんだよねー)


 右から二列目の一番前の席に座っている活発そうな少女を視ながら弥生は思考した。

 暗いオレンジの眼に鮮やかな同色の髪は内面の陽気さが感じられるような程よい長さで肩上に揃えられていて、その体の運びはなかなかの練度だ。


安曇あずみリリです! 専攻異能は[情報収集]で、ランクはAだよ! 何か知りたい時は私に言ってね!」


([情報収集]っていうと、ただでさえ珍しい時空間干渉系の中でも特殊な異能だったなぁ。まだ世界で100人くらいしか見つかってないとか。これはちょっと期待できそう)


 安曇が座ると今度はその後ろの銀髪碧眼の美少女が立った。胸上ほどまである髪は枝毛の一本さえも無く、艶やかに光を反射している。少女が身にまとった祭服は雪のように白く、首元の十字架は銀に光っており、丁寧に手入れされている事が分かった。


(おぉ……これはとんでもないのが来たねぇ……。もはや制服なのスカートだけじゃん)


 奇人変人に慣れている弥生ですらすこし引くほどの個性を持った生徒だった。


「アルフィーナ・ひじりと申します。専攻異能は[制裁ジャッジメント]、ランクはSです。宗教の関係上このような格好ですが、気にせず接してくれると嬉しいです」


 異能とランクを聞いた瞬間、教室がざわめいた。弥生も口では『すげー』と言いつつ、心の中では驚愕していた。


(これは驚いた。固有異能じゃん。しかもSランクだし)


 弥生はアルフィーナが着ている祭服には見覚えがあった。


(確かあれって他国の宗教の祭服だよね。前殺した奴の中にいた気がする)


 アルフィーナが属している宗教は異能力者が誕生したすぐ後に発足したものだったと弥生は記憶している。


「ストレア教はいつでも新規加入者を募っていますので、興味があればぜひ」


(あぁ、そうだ。ストレア教だ)


 喉まで出かかって出てこなかった宗教名が分かって、弥生は少しスッキリした。そして同時に、これは声を上げるべき時なんじゃないかと思いたった。


(アルフィーナは絶世と言っても過言ではないほどの美少女だ。これは、チャンス……!!)


「アルフィーナさん!! もしかしてストレア?教ってアルフィーナさんみたいな美少女が多いんですか?! だったらオレも入信しようかな?」

「こんの、馬鹿っ!!」


 右斜め前から放たれる鉄拳を甘んじて受け入れる。


「いっっってーー!! 何すんだよ、玲香!!」


 弥生は打たれた頭を抑えてその痛みの元凶を睨んだ。玲香はふん、とそっぽを向いて『あんたが気色悪いからよ』と言う。

 その態度に口を尖らせていると、アルフィーナはクスリと笑った。


「入信者は歓迎ですが、真に神を信仰していないと天罰が下りますよ」

「ひぇっ! う、ウィッス!!」


 そこに無言の圧力を機敏に感じとった弥生は身を縮こまらせて素直に謝った。


「ふん、いい様ね!」


 ニヤリと笑った玲香を恨めしそうに睨めつけ、そして弥生はそのココロを激情に昂らせる。


(神なんて、ヒトが作ったただ都合のいい存在だ。何かいい事があれば神のおかげとか言って、都合の悪い事があればなんでも神のせいにする。自らが縋るための架空の存在を作り上げて、それに全ての責任を押し付ける。良いご身分だよ、ホント)


 神に縋る事しかできなかったかつての自分を思い出し、弥生は一瞬苦虫を噛み潰したような顔をした。


(まぁ、良い。今はこの時間を楽しもう)


 気を持ち直して現実に思考を戻す。……と言っても、上の空だったわけではないが。


神凪かんなぎ雷都らいと。専攻異能は[雷閃]、ランクはAだ。よろしくする気はない。強くなる気の無い奴は消えろ。特にそこの赤いのとかな」

「え、オレ?」

「お前以外に誰がいる。色ボケブ男が」

「ブッ?! か、顔はそんなに悪い方では無いと思うんだけどな……」

「顔は、な」


 呆れたように顔をペタペタと触っている弥生の隣で龍真が言った。


(ブサイクって、ひどくない? 正直、顔は特に気にしてないから良いんだけどさ)


 それにこいつは弱いし、と目を離した。


(それにしても生徒同士が揉めてるのに教師は何してるんだろ、って……寝てるし)


 賀茂は教卓に突っ伏して寝ていた。なんなら小さくいびきまでかいている。


「教師が寝るなんて、本っ当にありえない! ……はぁ。久東魅菜よ。専攻異能は[発芽]。ランクはA。色々なところからあらゆる植物を生やす事ができるわ。例えば人体に根に毒のある植物を生やすとか、ね」


([発芽]って久東家が代々受け継いでる固有異能だよね。知ってるよ、発動条件に大きな弱点を抱えてることも、ね?)


 だって先代当主を殺したのはボクだから、とその時の光景を思い出して弥生は快感に身震いする。

 そうしている間に自己紹介は次の人物へと移ろうとしていた。

 立ち上がったのは艶やかで腰まで長く伸びた白髪と煌々と光る赤眼の、ヘッドホンを首にかけた背の高い女子生徒だった。


(いや、違うな。あのは……)


群青ぐんじょうはるか。専攻異能は[音曲オンギョク]。ランクはSです。よろしく」


 その声を聞いた瞬間、Sクラスに驚愕が広がる。それは[音曲]が固有異能だったことだけが理由ではなかった。


「あぁ、こんな格好してるけど男です」


 なぜなら群青は、ではなくだったからである。


「数年前から気分で男女の服変えてます。知り合い曰く、どっちの性別の服でも似合うらしいので」


 眠たげな目に似合ったゆったりとした口調で群青は話した。


「それじゃあ、次の人どうぞ」


 群青が促したので、弥生は次の生徒に目を向ける。

 次の番である癖っ毛のピンク髪で分厚い丸眼鏡をかけた白衣の少女はそのことに気付いていないのか、座ったまま机に向かって手を動かしながら何かをぶつぶつと呟いていた。


『あら……ここの式間違ってるじゃない。ここも計算ミスしてるし……こんなのが論文として提出されているなんて先が思いやられるわ……』


 弥生を以てして読唇でやっと分かったレベルの最小限の口の動きと音量でそんなことを言っていた。

 少しして見かねた隣の席の男子生徒がその少女に声をかける。


「ミルちゃん、ミルちゃん。次ミルちゃんの番だよ」

『はっ! ありがとう、橘』


 慌てたようにミルと呼ばれた少女が立ち上がる。


「サクラハ・ミルフィーというデスよ! 専攻異能は[器具生成]! ランクはAデス〜!!」


(えっ? さっきまでそんなキャラじゃなかったよね、キミ?)


『よし、普通の生徒の擬態は完璧ね! これであとは……』


 その後の言葉で、弥生は思わず目を見開いた。


「……あはは」

「? どうした、弥生」

「急に笑うとか、気持ちわるっ」


──あとは、私が桜庭カルデラの娘だってことを隠せばいいのね!──


 桜庭カルデラ。兄弟30人、末っ子の立場でありながら、若くして王の座を確約した伝説の男だ。


(まさか、他国のトップの娘もココにいるなんてね。あぁ、ホント)



「いやぁ、これから楽しみだなって!」






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長くなっちゃってすいません!

自己紹介の場面は一旦区切ります!

自己紹介編までは投稿したいので、後半はまた近々投稿できるように精力尽くします!!

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