4話



 これまた突然現れた美女にクラスの人達──主に男子──は感嘆の声を上げる。


「あ、アゲハ……久しぶりだな」


 ボクが言うと、アゲハはほんの一瞬だけ目を輝かせる。

 ボクが用心深く見てやっと気づけるぐらい、一瞬だけ。

 だから龍真は気づいていないだろう。


「弥生、久しぶりだな。確か半年ぶり、か?」


 アゲハが言う。


 ああ、もうそんなに経ってたのか。

 気づかなかったなぁ。


「あれ? そんな経ってたか。時間って早いもんだな」

「私と会っていない間の長さを忘れるとは……見下げたものだな、弥生」


 これはこれは……またまたキツイ感じだなぁ。


「ごめんって。とりあえず今日は先約があるからまた会おうぜ」

「全く……お前って奴は……まあ良かろう」

「アキもまた後で」

「ん? おう」


 なんとアキちゃん。

 当事者がボクだからって他人事のようにスマホをいじっていた。


 覚えておいてよね……


 念を送った瞬間、アキちゃんに何かが伝わったのか、アキちゃんが身震いをしていた。


「よし、話も終わったし行こうぜ!」

「あ、ああ」


 未だ呆気に取られている龍真を連れて教室を出る。

 少し歩いたところで龍真が話しかけてきた。


「あの人たちは?」

「ああ。二人とも幼馴染! アキとアゲハは子供ん時から仲良いんだ」

「へえ。幼馴染、か。……俺にはもう……」

「? 何か言ったか?」

「何も言ってないぞ」


 ホントはバッチリ聞こえてたんだけど。


 でもそうか、蒼炎サンの過去か……

 面白そうだなぁ!

 今度アキちゃんに調べてもらおっと。


「って、え? あ、あれが寮なのか……?」


 地図通りに沿って行くと、この目の前にあるでかでかとした高層マンションが寮らしい。


 おっきいな〜! 今日からこれに住むのか!


「ああ、そうだろうな。えっと……一人一部屋らしい」

「は?! こんな豪華なのに!?」


 パンフレットを見ながら言った龍真にボクが返す。

 実はそこまで驚いてる訳じゃないけどびっくりした風を装った。キャラ的にね。


「……らしいな。正直俺もちょっと驚いてる」


 龍真とボクは同じように顔を引き攣らせていた。


「ま、まあ入ろうぜ! ここにいても何も変わらないし!」

「そうだな」


 寮の一階はロビーになっているらしく、もうホテルと言われても違和感がないほどに豪華な内装だった。

 ふかふかの絨毯もその要因の一つなのだが、特に真ん中に吊り下げられたシャンデリアは光を反射しており、キラキラと輝いて更にこの寮の豪華さを際立たせている。


「うわ……すげー」


 口先ではそう言うものの、ボクの目は常に警備体制の方に向いていた。


 もちろん隣の英雄サマにも気づかれないように、自然に。


 異能学園の生徒は犯罪者に狙われやすい。

 それはここ、異能学園が金持ちばかりが通う学校だからであろう。

 金目的の馬鹿共が何を思ってか警備体制のキツいこの学園に無防備にやって来ては無様に捕まっていくのである。

まあ“アビス”であるボクは金が目的で数々の犯罪を起こしている訳じゃないから、この学園の生徒自体には何の興味も湧かないんだけどね。


(受付に二人、見張りの警備員が五人か。


ロビーから抜け出すのも難しくはないけど、出来れば面倒くさいのは避けたいなぁ。

となると抜け出すとしたら部屋からかな。

でもまだ部屋がどこにあるのかも、部屋がどういう構造なのかも知らないし、それに“蒼炎”サンがどう動くのかが分からない現状では容易な行動は得策とは思えない。


まあ、まずは様子見だよねぇ)


 自己完結したところで龍真に背中を軽く叩かれ、呆ける演技を止めた。


「はっ……呆気に取られてた。龍真、部屋番号聞きに行こうぜ」


 龍真と共に受付へと歩く。

 受付には男女二人組がいた。

 一目見てすぐに分かる。彼らは相当な実力者である、と。

妙に洗練された佇まい、微かな周囲への警戒心。さしずめ現青霧か元青霧のメンバーといったところか。

 受付にもただならぬ人を置くとは、なんと愉快な校長だろうか。本当にこの学校に来てよかったと思う。


(ふふふ……この学校のこと、知れば知るほどワクワクが増していくなぁ!)


 密かに笑いながら龍真の後に続く。

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