第38話 全力
ギャラクシーズ! のみんなが顔を下に下げている。
ライトはどこか青みがかった白色で、ロングスカートの露出が少ない衣裳を浮かび上がらせるようにできている。
今回の彼女たちはどこかサイバーな雰囲気をイメージしているのか、光沢のある手袋や服のところどころに入れられた透明な部分など、なんとも独特な衣装となっている。
普通に来たら変な服と思われてしまいそうなのに、彼女たちが着ると一気に風格のある衣裳へと変身するのだから不思議だ。
――センターに立っている白石さんが、ゆっくりと顔を上げた。
それと同時にストリングの音がひとつの音を鳴らしはじめる。
柔らかく、しかし同時に心を責め立てるような悲しい音のなかで、白石さんがゆっくりと口を開いた。
『あなたの瞳に映るフレア――』
――最初聞いたときは間違いかと思った。
あらかじめ予定されていた曲目では『Golden Flare』――文化祭ではじめて発表した曲だ――と書いてあったものの、あの時やシングルでカットされたバージョンとあまりにも編曲が違ったから。
メロディ自体は確かにあの曲ではあるものの、後ろの楽器や歌い方がものすごく違う。
でも、そのメロディと冒頭の歌詞で確信した。
これは確かに、あの時の曲だ。
『届かないと知りながら――』
白石さんが最初のパートを歌い終わると同時に、一斉に楽器が入りはじめる。
ギターやキーボード、ベースにドラム――そしてオーケストラ。
その分厚い伴奏の中で、ギャラクシーズ! のみんなは原曲のMVでやっていた踊りとは全く違う、けれど確かにGolden Flareだとわかるような、強くアレンジを効かせたダンスを踊っていた。
笑顔で難しいダンスをこなす彼女たちの目は真剣そのもので、どこまでも優雅な中に気迫のようなものが宿っていた。
――次の瞬間、ダンスが一斉に止まる。
『すれ違うたび恋をしていた――』
そして水卜さんの声に合わせ、みんながゆっくりとダンスを再開する。
悲しみの中で揺らいでいるような、それでいて力強い意思を感じさせるような振り付けで、スローテンポなAメロをしっかりと盛り上げていく。
『取りこぼしてしまう昨日を――』
どこまでも浮遊していくような曲を、ドラムがしっかりとつなぎとめる。
しかしその存在感は良い意味で薄く、決してダンスや歌といった部分を邪魔しない。
スタッカートが聞いたストリングスが優雅な雰囲気をさらにプラスしていて、その様子がどこまでも寂しげなこの曲に似合っているような気がした。
『I wish. If you find out me――』
弦楽器が淡々と、しかし着実に盛り上がりを強めていくうちに、ボーカルが金田さんのものへと変化する。
以前の――あるいはシングルバージョンの――どこか煽るような歌い方とは違い、あえて感情を抑えた淡々とした歌い方で会場を包み込む。
後ろのダンスもそれに合わせてゆったりとした動きへと変化し、また身体全体を使わずに手だけでその感情を表現した。
『Cry sprash. Hidden another screen』
弦楽器のメロディは変わらず、どこか無機質に、でも少しずつ感情を強めながら同じフレーズを繰り返し続ける。
それに合わせて金田さんのボーカルもだんだんと感情が乗りはじめ、どこか悲壮感を伴ったものへと変わっていく。
でもあくまで淡々とした調子はくずさず、それが曲を重くしすぎない効果をもたらしていた。
ダンスの振り付けがだんだんと激しくなり、脚や腰も積極的に使いだす。
そして今まで変わらずフレーズを繰り返していた弦楽器が急に新しいメロディを奏ではじめ――
『燃え尽きた想いさえよみがえるあなたの瞳に映るフレア――』
――そのままサビへと突入した。
以前の編曲だとサビに入った途端ドラムが激しくなり、疾走感が産まれていたのだけれど今回は違う。
ドラムの音こそ目立つようになるものの、テンポは相変わらずゆったりとしたままだ。
しかしそのゆったりとしたテンポこそが、今回の感動的な編曲をさらに高めていく。
――キーボードがピアノで新しいフレーズを足しているのがわかる。まるでコーラスみたいだ。
『この手伸ばし燃え尽きるまで抱きしめたい――』
ダメ押しと言わんばかりに演奏が盛り上がる。
ギターが控えめにコードを鳴らし、ベースとドラムがリズムを保つ。
キーボードと弦楽器がギターと寄り添ったメロディを演奏すると、金管楽器と木管楽器がさらに新しいフレーズを吹いた。
そしてそんな中でも穏やかに、しかし難しいダンスを踊るギャラクシーズ! のみんな。
白石さんの歌声もまっすぐに透き通ったもので、テレビを超えてどこまでも続いていきそうな気がした。
『再び輝きだしたMy memorial――』
そして全力を出して白石さんがサビの最後を歌いきる。
どこまで続くのかと思ってしまうくらいの肺活量は、そのまま間奏の三分の一まで続いた。
◇ ◇ ◇
「……すごかった」
歌がすべて終わった後、僕は呆然とつぶやいた。
もちろんみんなの全力を出し切ったからこそのパフォーマンスだったのだけど、どこかそれだけじゃ表しきれないような、神がかったものを感じたのだ。
「……これは書かなきゃ」
――そしてみんなに広めなきゃ。
僕は突発的にそんな衝動にかられ、SNSのアプリを開いたのだった……。
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