第317話同窓会メンバー3人に精神的ダメージを与えるために反抗してみた8
「ふっざんけんな! 離せ! セクハラ警察!」
先程までナイフを持って暴れていた娘のユイコは物凄い剣幕で怒鳴っているが、警官達は冷静に、床に押さえつけている。
ここは警察署であり、娘が事情を聞かれていると呼び出されて来てみれば、この有り様である。
「ゆ、ユイコ」
「!」
床に組み敷かれたまま、はっとするユイコ。
「パパ……? !! 早くこいつらなんとかしてよ!! こいつら全員警察辞めさせて!!」
怒鳴り声に望道は額を押さえた。
「お巡りさん」
近くの制服警官に声をかける。
「あの、娘は一体何を」
誰かに危害を加えた、傷害罪になるかもしれないとの連絡だったが、詳しい話は聞けてない。
「こちらへ。娘さんは落ち着くまで預かりますので」
自分達で止められるとは思えない。望道は頭を下げた。
「よろしくお願いします」
昔から気に入らないことがあると、癇癪を起こすことが多かった。小学校でも中学校でも問題を起こし、常に頭を悩ませていたが、ついに、取り返しのつかない実害が出てしまったのだ。
(なんで、こんなことに)
御島ユイコは早くして亡くなった兄の子供である。望道は姪を養子として引き取り、今日まで育てて来た。不良気質で粗暴な兄と7歳まで一緒にいたせいなのか、はたまた性格か、昔から他人に危害を加えることに躊躇いがない。
それなりにしつけをしてきたつもりだが、7歳からでは遅かったのかも知れない。
親戚達の言葉が蘇る。
『その子は止めなさい』
『いくら子供が出来ないからって』
『きちんとした施設から養子を探しなさいよ』
押し切って娘として迎えたのは間違いだったのだろうか。
「おい!! 父親の癖に娘見捨てるとかクズ過ぎだろ!!」
叫び声に妻の肩を強く抱く。
「望道さん……」
靖子も随分と泣かされてきた。
「お巡りさん、話を聞かせてください。被害者の方がいらっしゃるんですよね」
きちんと謝罪をしよう。慰謝料も覚悟する。そして全て終わったその後で、
(あの子は、うちの子ではない。御島の会社の未来は……これから考えよう)
望道は心に決めて、騒ぎ散らすユイコに背を向けた。
◯
とあるファーストフード店の二階席。
高校一年生の
「御島と加納のこと、だけどさ」
明坂の神妙な面持ちに、盛大なため息を吐く。
「学校でつるんでたからって、あたしらに関係ねえっつの。何びびってんの? 友達だと思ってた奴らが犯罪者だったって話でしょ」
簡単に言ってしまえば、松笠と明坂は加納、御島と共に塚江りんなをいじめていたグループのうちの二人なのだ。御島に階段から落とされて情けない悲鳴を上げる塚江りんなを皆で笑ったのは良い思い出だ。
「で、でも、塚江、学校に戻って来ないんでしょ? 変な噂立つし、警察が入るかもとかって話も聞いたし、塚江に加納達と一緒に名前だされたら嫌がらせしてたのバレちゃうんじゃないの」
松笠はひらひらと手を振った。
「だから、ビビり過ぎ。やったの御島だし、傷害事件なんて知らんしね。関係ないっしょ。てか、事件起こした御島達が全部悪いってことになるでしょ。あたしらふつーに無罪だから」
松笠はにやりと笑う。
「……! そ、そういうことになるのかな」
「そりゃなるっしょ。バレないバレない」
と、その時。
斜め前の四人席に男子高校生二人と、大学生くらいの青年が座って雑談しているのだが。
「まじっすか、塚江りんなさんってあの?」
松笠はどきりとして、横目で彼らの方を見る。
「はい、学校でヒドイいじめを受けていたらしくて。それで怪我して病院に運ばれたんです」
「まじっすか~」
陰キャ系オタク風の高校生と大学生風の青年がそんな話をしている。
(何、あいつら、塚江の、何?)
見ると、明坂は青い顔で固まっていた。
「ああ、加納と御島が逮捕されたから、塚江さんは学校に戻れるんだな」
運動部系男子高校生が言うと、オタク系が首を横に振った。
「二人じゃなく4、5人でいじめやってたらしくて、いるんだよね。何の責任も負わずに学校生活続けてるクズが」
「んじゃ、いつも通り、そいつら特定してボコるってことで良いっすか?」
「はい、お願いします。壱時さん。針ヶ谷もよろしく」
「ああ、任せとけ」
「このままだと無罪のまま社会に出て行くからね。確実にやっとかないと。何事もなかったように結婚して子供なんか作ったら、その子をいじめっ子に育てる可能性あるからね。未来は潰しておかないと」
松笠はごくりと、喉を鳴らした。
(なんなの、あいつら。塚江がまさか)
要約すると、いじめをやっていた他のメンバーを探して、ぼこぼこにすると話しているわけだ。
(……調べられたら、もしかして)
バレてしまうかもしれない。
「ごめん、しんじゅ。もう、帰る」
「ちょっと、あたしも帰るし!」
そそくさと二人して立ち上がった。男三人組がいるほうとは別の方向の階段を使って一階へ。その途中で彼らを見ると、
(え)
オタク系高校生が頬杖をついて、こちらを見ていた。冷たい視線の後、口元が微かに笑む。とんでもなく不気味だ。
寒気がして、すぐに店を出た。
明坂はほとんどパニックで、逃げるように帰って行った。
(大丈夫。証拠ないし、しらを切り通せば)
そんな考えをしながら、自宅へ。
「ただいま!」
自室へ向かう途中に母親に自分宛の手紙を受け取ることに。部屋へ戻るなり確認すると、
『全部知ってるからね?』
封書の中の便せんにはそれだけが書かれていた。
思わずそれを丸めて部屋のごみ箱へ。
「なんなんだよ!! か、関係ないじゃん」
そこしれない恐怖に鳥肌が立つ。怖い。何か危害をくわえられたら?
(ど、どうし……警察? でも、塚江への嫌がらせのこととか。ど、どうすんの!?)
松笠は呆然としてその場に座り込んだ。
〇
数十分前。
ファーストフード店の二階席にて。奏介、真崎、連火は松笠と明坂を見送ってから、ふうっと息を吐いた。
「こ、こんな感じで良いんすか?」
「はい、ありがとうございます。すみません、嫌なこと言わせて」
「良いっすよ。いじめやってた奴らなんすよね? 言われてもおかしくないッス」
「連火、結構演技上手いな」
真崎が言うと、連火は笑う。
「頑張ったっす。他ならぬ兄貴達の頼みっすから」
奏介はカバンから封筒を取り出した。
「壱時さん、針ヶ谷、この封筒、指定の日にちに投函よろしく」
十枚ほどあるそれには、松笠と明坂の名前と住所が書かれている。
「良いけど、何が書いてあるんだ?」
真崎の疑問に奏介は少し考えて、
「精神的に弱らせる言葉、かな。もう二度と、やらないように、ね」
チャンスがあれば、逮捕などさせたいが……機会を窺うことにする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます