第267話迷惑悪質ドッキリを仕掛けていた迷惑動画配信者に反抗してみた1
「くそっ、なんだよ、これ!
どうなってんだ」
奏介は冷めた目で慌てる3人を見る。
「まさかチャンネルBANですか? へぇ、違反報告でもされたんですか? せっかく俺の写真撮って、登録者50万人の力を見せようとしたところで、情けないですね」
井澄兄は声を荒げる。
「調子に乗るなよ! だったらSNSに」
いわゆる呟き系SNSにもアカウントを持っており、フォロワー数も50万以上はいるらしい。
「あ、兄貴」
井澄弟が慌てた様子で兄へ声をかける。
視線を画面に戻すと、呟き系SNSアカウントにたくさんのリプライが届いていた。
『犯罪取り込んだドッキリとかやめろよ』
『相手の子、中学生でしょ? 信じられない』
『ガチやめろや。不快過ぎる』
などなど、まるでこの状況を見ているかのようだった。
井澄兄は奏介そっちのけで、急いで、炎上の原因を探る。
「っ!」
そこで拡散された動画に気づく。
内容はたった今繰り広げられている状況だ。早瀬誠に怒鳴る中華まん店店員と割り込んできた高校生、そのやり取りと『イースちゃんねる』のドッキリ企画に付いて説明する井澄兄弟と店員。
さすがの有名チャンネルとあって、気づいた人達が叩き出したようだ。
「さっきまでの勢いはどこ行ったんですか?」
煽ってくる奏介を睨みつける井澄兄。
「お前、何かしたんだな? ふざけんなよ!?」
「何かもクソもないでしょ。こんな一般の人がいる場所でこんな悪質なドッキリしたらそうなりますよ。それに、ドッキリのためにやらかした仕込みが酷すぎて怒ってる人がいるんでしょ」
店員がイラついた様子で舌打ちをする。
「ごちゃごちゃうるせえ、おい井澄、さっさと写真貼り付けちまえよ。匿名系の掲示板にさ」
「あ、ああ、だな!」
奏介は堂々とその作業を始める井澄兄を睨む。
(本気でやるなら……覚悟しろよ)
と、店員がニヤリと笑った。
「へへ、ほらよ。匿名の掲示板にお前の悪行書き込んでやったからな」
井澄兄からスマホを半ば奪い取って、見せつけてきた。
奏介はため息。目の前でプライバシーの侵害という犯罪行為をやるとは思わなかった。
「堂々と喧嘩売りますね。それ、匿名でやるから厄介なのに、目の前でやるとは思いませんでしたよ」
とんでもないアホの極みだ。動画サイトやSNSでの地位が高くなったことで、思い上がっているのだろう。
「あのですね、そうやって個人情報を」
と、奏介のスマホがバイブで震えた。
「ん?」
画面を数秒見て、何か操作をしてポケットへしまう。
「まぁ、良いです。後々、後悔すると思いますよ」
と、その時。店の中へ飛び込んできた人物がいた。頭頂部が少し寂しい中年の男性で、相当焦っているようだ。
「ちょっとちょっと、なんの騒ぎなのこれ!
店員は、あからさまに『しまった』という顔をした。
「て、店長。いや、戻るの早いっすよ。まだ出演シーンじゃねぇっていうか」
店長と呼ばれた男性は店内の様子を見回し、異様な雰囲気を感じ取ったようだ。
「登録者が多い君のチャンネルでうちの店を宣伝してくれるって話だったよね? わざわざ社長にも許可取ったんだよ? 何かやったの?」
「は、社長!? なんすか、それ」
慌てた店員が声を荒げる。
「だって、僕の勝手で店内撮影を許可出来ないでしょ」
「いやいやいや、ちょっと店内借りて、最後にチョロっとついでに宣伝するって話っすよ」
奏介は店長が気づくように挙手をした。
「この店の店長さんですよね? 実はそこの店員さんが客の中学生を怒鳴りつけていたので、注意させてもらったんです。しかもその暴言をドッキリだったと言い張るので、言い合いになってたところです。このお店はドッキリを撮影するためのお店なんですかね」
「そ……そんなわけないでしょ!! はぁ? 怒鳴りつけてた? お客さんを? なんでよ。君、何考えてんの」
「ちょ、店長、そいつの言うことをまともに聞いちゃ」
と、今までそこにいた井澄兄弟の姿がなかった。
「!」
見ると、出入り口のガラス戸が開いた。あっさり店員の隅田を見捨てて逃げて行ったのだった。
「い、井澄!? ふ、ふざけんなよ!!」
「ふざけてんのは君だよ!」
店長も怒りを隠せないようだ。非常に気の毒だが、少なからず上から怒られるだろう。
とにもかくにも、首謀者である井澄兄は、結局尻尾を巻いて逃げて行ったようだ。
「おい、てめぇ、なんてことしてくれたんだ」
逆恨みも良いところだ。こちらを鬼の形相で睨んでくるが、奏介は鼻を鳴らした。
「自業自得」
「てめぇ、顔写真付きでネットに晒されてるんだからな!? そのうち住所特定されて」
「はいはい」
奏介は最後まで聞かずに、裏方へ連れて行かれる隅田に背を向けた。早瀬誠、ルコ兄妹と共に店外へ。
「大丈夫か?」
店から少し離れたところで、奏介が問う。
誠は震えながらこくりと頷いた。ルコは誠にしがみついたままだ。
「あ、の……ありがとうございました。僕、何も言えなくて」
「いや、あれは怖いよ。何もしてないのに突っかかってこられてさ。いい大人が子供をいじめるのって本当にダサいからな」
「でも、お兄さんがネットに」
「いや、大丈夫。今は俺、色んな人に助けてもらえるんだ。昔はいじめられてたんだけどな」
誠は目を瞬かせる。
「え、昔」
「ああ、昔ね。……あいつらがやったっていう証拠を晒したし、チャンネルの悪評が広まったから最初に晒された君の個人情報のこともそのうち話題にされなくなると思うよ」
「うん。……ありがとう、ございました」
「気をつけてな」
誠はルコへ視線を向ける。
「ほら、助けてくれたんだ。お礼言おうね」
「うん。おにいさん、ありがとう」
誠は、ルコと手を繋いで帰って行った。
それから、とある待ち合わせ場所へ。
「あ、菅谷くーん」
見ると、近くの公園の入口のベンチの前にいる三人組を見つけた。歩み寄る。
「ありがとな。皆」
「ふふ、お安い御用だよ!」
ヒナが片目を閉じてみせる。
ベンチにはヒナのミニノートパソコンが置かれている。手にはスマホ。詩音とわかばも奏介が来るまでスマホを
いじっていたようだ。
「さすがに4つ以上のアカウントから違反報告やら不適切な動画の告発があればBANされるわよね」
と、わかば。三人それぞれのスマホでサイトの運営会社に『イースちゃんねる』の告発を行ったのだ。
「わたしとわかばちゃんはともかく、ひーちゃんはPCとスマホで、証拠動画を運営に送ってたもんね」
詩音は苦笑気味に言う。
「おかげでBAN早かったよね! まぁ、ボク達の他にも過去の酷いドッキリ動画を通報してた人がいたみたいだけど」
あのやり取りを見て、チャンネルをチェックした人達がいたのだろう。
過激なドッキリ動画を何個か上げていたらしいのだ。
「ていうか、僧院はそのノートパソコン持ち歩いてるのか」
辱めるためだけに呼ばれた同窓会に潜入する際に、盗聴器やカメラなどの管理をしてもらっていたものだ。
「君のサポートのために用意したパソコンだからね!」
「なんかそんな気がしてたけど、そ うなんだ」
「まぁ、気にしないで。ボクが勝手にやってることだし、絶対に邪魔しないからさ」
「あ、ああ。でもいつも助かってるよ」
「光栄だね。君にそう言ってもらえてさ」
詩音がくすくすと笑う。
「奏ちゃんは前からそうだけど、ひーちゃんもかなり振り切れてるよね」
「殿山先輩と許嫁の時は、かなり暗かったから、菅谷に関わってたかが外れたのよね。まぁ、今のヒナは楽しそうだけど」
「わかってるね、わかば。楽しいよ! あ、そういえばネットに晒された菅谷君の顔写真だけど、十分もしないうちに削除されて、代わりに『イースちゃんねる』のメンバーの個人情報が一気に書き込まれてたんだよね。何かしたの?」
ヒナが見せてきたスマホの画面を覗き込む。とある掲示板だ。その書き込みの主はハンドルネーム『匿名6』と書かれていた。
「ああ、知り合いが気づいて対応してくれたみたいなんだ」
持つべきものはなんとやら、である。
自分だけでもなんとか出来るように証拠は集めていたものの、人の手を借りると簡単に解決できてしまう。
(本当に、感謝しかないな)
○○
自室へ逃げ帰った井澄兄はスマホを眺めながら呆然としていた。チャンネルBAN、呟きSNSは炎上。
酷い有様だ。
そして、時々かかってくる無言、批判電話。
「どうなってんだよっ」
スマホをベッドへ投げつけた。
「くそぉっ、なんなんだよ、あのクソガキ!!」
頭を抱えていると、メッセージが入っていた。
『どうしてくれるんだよ、クビになったぞ!?』
「知るかよ!」
今はチャンネルの仲間の話などどうでもよかった。
「今までの努力無駄になるじゃないかよ。登録者増やすためにどんだけ苦労したと思ってんだよ」
やはり、人を騙したり陥れたりする動画は再生数が伸びて金が入る。そちらへ流れるのは当然なのだ。
と、自室のドアが開いた。
「兄貴」
「んだよ、今は……」
井澄弟の隣には母と父が険しい顔で立っていた。
「ちょっとこっちへ来なさい」
直感でわかる。何年ぶりかかの説教が始まるようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます