第225話ファーストフード店で騒いでいたクレーマーに反抗してみた

 とある日の放課後。

 奏介とお昼メンバーはハンバーガーのファーストフード店『バンバーガー』へ向かっていた。

「バンバーガーなんて久しぶりぃ」

 詩音がウキウキしながら、言う。

「私は最近近所の子を連れて行ったから、食べたけどね」

 水果の言う近所の子には心当たりがある。

「ほんと? 今、限定のとかある?」

「確か、バンチャーシュー麺チーズバーガーとか」

「それ、普通に美味しそう!」

 奏介は詩音の顔を見た。

(本気で思ってるな)

 微妙に合わないような気がするのは自分だけだろうかと。

「いや、その組み合わせって合うの……? 麺?」

 わかばが少し複雑そうな顔で言う。

「確かプラス味卵もあったから、ラーメンがテーマなのね」

 モモが納得したように何度か頷くので、わかばが不安そうな表情になる。

「あのお店、独特の新商品を創り出すよね」

 ヒナは苦笑いである。

「おれは一番、ポテトが好きだな」

「ああ、針ヶ谷はそうだよね」

 バーガーポテトドリンクのセットのところ、ポテトポテトドリンクで頼んでいたことを思いだした。

 やがて店に着いた。平日の夕方、意外なことに空いていたので一人づつ注文をする。

 奏介が最後だった。

 創作バーガーではなくて、シンプルかつ普通以上に美味しいバンチーズバーガー、ポテトとドリンクのセットである。

「奏ちゃん、先行ってるね」

「ああ」

 番号を呼ばれ、奏介は受け渡し台の前に立った。

「ポテトのLサイズとチーズバーガー、ドリンクはアイスの烏龍茶ですね」

 トレーの上の商品を確認し、頷いて受け取ろうとしたときである。

「はぁ? ポテトがねぇだと!?」

 隣レジに立つ中年男性の声が響き渡った。

「も、申し訳ありません。丁度切らしてしまいまして、3分ほどお時間を頂ければ揚げたてのご用意が出来ます」

 女性の店員さんが慌てた様子で頭を下げる。

「今すぐほしいんだよ。待ってられっかっ、大体切らしてるってなんだよ。客のために用意も出来ねぇのか、無能っ」

 とんでもない怒声である。

 客たちも驚いて固まっている。

「も、申し訳ありません」

 当たり前だが、店員は頭を下げるしか出来ないだろう。

 どうやら奏介のポテトで揚がっているものは終わってしまったらしい。裏方の店員が彼の頼んだバーガーとドリンクを袋に詰めて持ってきたが、ポテトはまだ用意出来てないようだ。

「おい、てめぇらの社長に電話すっかんな? 商品も用意できねぇクソ店舗だってな。……?」

 怒鳴り声に驚いて見てしまっていた奏介に気づいたらしい。

「あぁん? 何見てんだよ、クソガキっ」

「あ、ああ。すみません」

 非常識な客とは言え、ジロジロ見るのは失礼、のような気もする。

(クソ客はそっちだけど)

 奏介は視線をそらした。

「あー? なんだその態度は。文句でもあんのか」

「いや、ないです。すみません」

 適当に言って、トレーを受け取る。

「生意気なんだよ、ガキがっ。こ キモオタ野郎っ」

 奏介は動きを止め、商品を受け渡そうとしていたバイト店員を見やる。

「良ければ、こちらの方に俺のポテト上げてください。3分くらい待ちますんで」

 店内がシーンとなる。

「あ? なんだてめぇ」

「急いでるんですよね? 店員さん、ポテトだけこの方にあげてください」

 奏介は笑顔で言う。

 レジの店員は、ハッとした様子で、

「よ、よろしいのですか?」

「全然大丈夫です。そんなポテト揚がる時間くらい待ちますよ。子供として、大人の方に譲るのは当然ですし。お腹ペコペコで不機嫌にグズってる人を放っておけませんからね」

 バイト店員がピクッと顔を引きつらせた。恐らく、吹き出しそうになったのだろう。バレはしないレベルだが。

「しょ、承知いたしました」

 奏介のトレーからポテトLを男性の持ち帰り用の袋に入れる。。

「はぁ〜? 喧嘩売ってんのか!? てめぇのきたねぇ手で触ったポテトなんか食えるかっ」

「まだ触ってないですよ。触ってたのはトレーで、ポテト自体は店員さんの綺麗な手でしか触れてないです。というか、ポテト譲るんですから、喧嘩売ってるはちょっとどうかと」

 奏介は苦笑を浮かべる。

「余計なことしてんじゃねぇよ」

「怒鳴り散らすほどポテト食いたかったんでしょ? あげますよ、俺のポテト。余計なことじゃないでしょ」

「親に寄生してるガキが、偉ぶってんじゃねぇよ!!」

「……あの、ポテト冷めるんで早く食べてください。そんなお腹空いてるからって怒らなくても」

「てめぇ! バカにすんなよ!!」

「あのー」

 店員さんがセットをまとめた袋を差し出してきた。

「お待たせしました。チャーシュー麺チーズバーガーセットです。ポテトも入っていますので」

 店内がシーンとなる。

「はぁ」

 奏介は大きなため息を吐いた。視線をそらす。

「ただ文句言いたいだけだろ。クレーマーのくせにさっさと帰ってポテト食ってろ。下らない」

「! て、てめ」

「お客様」

 奥から、中年の男性が出てきた。困ったように笑っている。名札には『店長』とあった。

「他のお客様の迷惑になりますし、ポテトの方もご用意しましたので、お引取り頂けると。それとも何か他にご不満があるのでしょうか。もしそうならお伺いいたしますが」

「っ」

 男性は店員の持つ紙袋を引ったくると、走って外へ出て行った。

 奏介がため息をつくと、店員が揚げたてのポテトを持ってきた。

「おまたせ致しました」

「あ、ありがとうございます」

 トレーに乗せてもらったので席へ行こうとしたのだが。

「あの」

 店長が近づいてきた。

「柔軟な対応、ありがとうございました。お待たせしてしまって申し訳ございませんでした」

「いえ、ちょっとイラってしちゃって、騒ぎを大きくしてしまってすみません」

「……ごゆっくり」

 奏介は片手で手を振って、皆が待つ席へ。

「ごめん、待たせて」

 食べずに待っていてくれたようだ。それぞれいただきますをしつつ、手をつける。

「あんたはもう、ほんとに……」

「絡まれたんだから仕方ないだろ」

「……まぁ、確かに。隣であんなことになってたら見ちゃうわね」

 わかばはぼやくように言う。

「奏ちゃんが引き寄せてる可能性ありだよね」

「しお、食べながら喋るなよ」

「まぁ、おれは慣れたな。おれ自身もそうだし」

 真崎のトレーにはポテトが三つとドリンクが置かれていた。

「わたしも、菅谷の体質だと思ってるさ」

 水果の言葉にモモが考える。

「わたしも慣れるように頑張るわ」

「ボク、慣れとか慣れないとか以前に乱入して参加したい」

 ヒナ、真顔。

「やめなさい」

 わかばが顔を引きつらせながら言う。

 奏介はチーズバーガーを一口。

「まぁ、どんなトラブルもなんとか出来るように準備しておくよ」

 口には出さないが、解決させる自信はあったりするのだ。

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