第222話暴言を吐いて罵ってきた元クラスメート達に反抗してみた1
とある日の放課後。
奏介は真崎に誘われて、連火の家へ来ていた。
「頼んますっ」
緑茶を運んできて、湯呑を奏介と真崎の前に置いた連火はあぐらをかいて、頭を下げた。話の流れからして、
「つまり、新連載の漫画はバイト先での出会いを描きたいから、体験をしたい……と」
「はいっ。同時連載になるんでシュチュエーションがらっと変えてーんスよ。奏介の兄貴はスーパーでバイトしてるって真崎の兄貴に聞いてたもんで。なんとか一日だけでも職業体験? つーんスかね、それをやりたいんスよ」
「それは全然構わないですけど、連火さんはバイトしたことないんですか?」
連火は恥ずかしそうに頭を書く。
「バイトは漫画のアシやってただけで」
「なるほど。今度、人手が足りない日があるので、そのときに応援お願いしていいか店長に聞いてみますね」
「ん? 休みが多いのか?」
真崎が問うてくるので、奏介は頷いた。
「次の日曜日、理由は色々なんだけど、たまたまベテランのパートさんが3人休みなんだ」
「そりゃきついな」
「店長が困ってたから、喜ぶと思う」
「せ、責任重大っスか?」
「レジは無理ですけど、品出しとかてつだってもらえると助かります」
「いや、レジ以外なら。雑用でもなんでもやりますんで!」
「なんなら、オレも手伝いに行ってやろうか? 新人二人は大変か?」
「いや、俺的には助かる。人手があれば他の人のフォローに回れるし、教育係出来そうな奴はもう一人いるし」
奏介は少し考えて、
「履歴書はいるかも」
「マジっスか!?」
何やら焦る連火に、真崎は苦笑を浮かべる。
「高校卒業してんだから、大丈夫だろ」
「いやっ、でも卒業してから今まで漫画家一本スよ!?」
それはそれで凄いことである。
「超短期バイトなので、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
「う、うス。気合入れて書くっス」
いい加減な、もといち寛容な店長は二つ返事で許可をくれた。それでも履歴書を見せた上で短期バイトとしての採用だ。給料も発生することになった。
当日午前10時半。
休憩室にて、奏介と高平、真崎と連火は向かい合った。
「い、壱時連火っス。よろしくお願いします」
勢いよく頭を下げる。
「針ヶ谷真崎です。菅谷とは同級生で紹介してもらいました」
「お、おう。そうなんだ。俺はバイトリーダーの高平だ。よろしく。じゃあ、着替えてもらったら、このエプロンして出てきて」
畳まれたニ枚のエプロンをテーブルへ置く。そこで奏介と高平は廊下へ。
「おい」
隣を見ると、高平がぷるぷる震えていた。
「ん?」
「べ、別に見た目だから気にしないがな? しかし、なんつーか。他校に殴り込みとかしてそうな」
「ああ、してそうっていうか、やってるよ。この前三人で殴りこんだ。坪高に」
サッと高平の顔色が青くなる。
「……え、お前……え?」
「それより、二人ともスーパーのバイト経験ないからしっかり教えてやってくれ」
「お前もしかしてこの辺の不良牛耳ってるとかそういう?」
「んなわけないだろ。俺が喧嘩強そうに見えるのか?」
高平は少し考え、
「喧嘩……しかし、トータルで戦闘能力はカンストしてるよな?」
「何をトータルしてんだよ。俺をどういう目で見てるんだ」
と、着替えを終えた二人が出てきた。
「そ、奏介の兄貴。変じゃねぇっスか?」
「大丈夫ですよ」
「連火、ビビり過ぎだ。てか、スーパーって服の指定があるんだな」
真崎が興味深げに言う。
「ああ、上は黒のポロシャツを着るってだけだよ。後は店のエプロンするだけで」
ふと視線を感じ横を見ると、
「弟?」
「どう見ても連火さんの方が年上だろ」
「いやいや、何お前がドン引きしてんだよ? 兄貴呼びて。呼ばせてんのか!?」
と、連火が苦笑気味に高平を見る。
「オレが呼びたいって頼んだんスよ。恩人なんで」
「恩人……」
何故か高平がごくりと喉を鳴らす。挙動不審である。
そんなやり取りをしつつも、商品陳列を中心に作業をしてもらう。
「じゃあ、次、連火さんは俺と一緒にペットボトル並べますか」
「うっス」
真崎は高平に任せ、裏方から台車でダンボールを店内へ運ぶ。飲料用五百ミリペットボトルは冷蔵棚へと陳列するのだ。
「じゃあ、お茶はこっち。炭酸は左端で」
そこまで説明したところで、真崎が少し慌てた様子で駆け寄ってきた。
「悪い、菅谷。お客さんが野菜棚ひっくり返して、高平さんが片付けやってるんだけど、人手いりそうだ」
「え、あ、じゃあ、連火さん行って下さい」
「了解っス」
ふうっと息を吐く。やはり、仕事の内容を分かっている人が少ないと大変だ。人手はあっても彼らを動かすのは分かっている人間なのだから。
数時間後。
「ありっした!」
帰り支度を終えた連火が奏介と高平に頭を下げた。
「なんか、手伝いってより迷惑かけに来た気がするっス。高平さんにはメチャクチャフォローしてもらって。ほんとすんません」
「ああ、いや。人の手があっただけでも助かったからな。そうじゃなかったらもっとヤバかった」
疲れた様子の高平の言葉に、奏介も頷く。
「こちらこそ、大変な時にありがとうございました。針ヶ谷もありがとう」
「あぁ、結構楽しかったぞ」
真崎は真崎でそつなくこなしていて、さすがだった。
「ま、店長も同じこと言ってたし、またピンチヒッター頼むわ」
「はい!」
二人には先に帰ってもらうことにして、そのまま閉店までバイトをこなし、スーパーを出たのは八時半過ぎだった。
上がったのは高平と同じ時間。なんとなく二人で裏口から外へ出る。
「いっや、つっかれたー。小川さん達がいないだけでヤバかったわ」
「人材ってのがいかに大事かわかったろ?」
「うっ」
言葉に詰まる高平。
「定期的に煽ってくんな、お前は」
「連火さん達、お前のこと、仕事ができる人って言ってたよ。良かったな」
「……!」
まさか新人にそんなことを言われる日が来るとは。
「まぁ、調子に乗るなよ」
「ガチガチに上から目線だな!!」
そんな話をしながら店前の通りに出た時。
「!」
「ん? どうした」
奏介が後ろを振り返って眉を寄せたのだ。
「いいや、なんでも。……じゃあ、お疲れ様」
「お、おう」
奏介は小走りに高平から離れた。スマホを取り出し、操作を開始。しかし、曲がり角に差し掛かった時である。三人の少年達がわらわらと出てきた。
「よーっす。菅谷」
見覚えがある。先日のパーティで見た面々である。
とくに制服を着崩している海堂、野月は先日の上嶺のパーティで強気だった面々である。
奏介は怯えた表情を浮かべる。
「え、え?」
「バイト終わるの待ってたんだぜ?」
ニヤニヤ。
「この前のパーティのあれさぁ、なんだったの?」
「パーティ?」
「いきなり乗り込んできて、イキりまくってたじゃん。もう同じクラスでも同じ学校でもないから、強気で行くーみたいは?」
「マジでウケたんだけど」
「高校生になって調子乗ってんじゃねぇよ。わざわざ来て恨みつらみを解消してやる!みたいな? キモオタのくせに気色わりいんだよ。死ねよ」
「!」
吐き捨てるように言われ、奏介は一歩後退。
「ほんと、くたばれ。小学生の頃から思ってたんだけどさ、なんで生きてんの?」
「消えてほしかったよな。クラス中から嫌われてんのに檜森に告白なんかしてさ。イタ過ぎ」
「そんなっ、俺はただ、呼ばれたのに席がなかったから」
胸ぐらを掴まれた。
「席あるわけねぇじゃん。お前に生きてる価値ねぇんだよ」
と、手にしていたスマホを取り上げられた。
「これ預かってやるよ」
「あ、返してっ。俺の」
「後で家に連絡してやるからさ、そん時に取りに来いや」
「ま、待っ」
勢いよく胸ぐらを離された。ゲラゲラと笑いながら、去っていく。
奏介は無表情で、彼らの背中を見ていた。
少年達が不自然に奏介の後を追ったので、気になった高平は陰から一部始終を見ていたのだが。
「……えぇ……」
一言、それだけ呟いた。
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