第194話悪質転売ヤーに反抗してみた2

 詩音がおろおろし始める。

「そ、奏ちゃん、今はとりあえず落ち着いてさ。ほら、人がいっぱいいるし、あいみちゃんも一緒だし」

「無策のまま、突っ込むわけないでしょ」

 奏介はスマホを取り出した。

「ちょっと電話かける。しお、悪いけど、あいつの手元だけ写真撮ってもらえる? 顔映さないで」

「う、うん」

 奏介は不思議そうなあいみの頭に手を置いた。

「ちょっと待っててね」

「うん」

 奏介はショッピングモールの入り口へと移動した。アドレス帳から引っ張り出した番号、それは。

 奏介が耳にスマホを当てる。

 数回のコール音の後、相手が出た。

『はい、もしもし……』

 完全に寝起きの声だった。休みなのでだろう。

「菅谷だけど」

 そう名乗った瞬間、すごい音がした。恐らく、物が落下したか、ベッドから本人が落ちたかだろう。

『す、菅谷くん!?』

 叫ぶような声。電話の向こうの根黒は何やら慌てた様子だった。

「……」

『や、ごめっ、まさか君から電話が来るとは思わなくてさ。久しぶりだね』

 興奮気味というか、嬉しそうだ。

「なんかお前の反応、ちょっと気持ち悪いんだよ。……まあいいや。根黒さ『魔法使い柚』ってアニメ知ってる?」

『! 知ってるどころか今大ブームだよ!? 小さい女の子はもちろん、アニオタとか腐女子の間でもめっちゃ流行ってるから!』

「そう、なんだ」

 奏介の予想以上のようだ。それにしても、

(腐女子?)

 そんな要素あるのだろうか。

「魔法使い柚ってカードあるよな?」

『あー、人気過ぎて買えないんだよね。って言いたいところなんだけど、転売ヤーの標的でさ、ぜーんぶネットのフリマサイトに流れてるよ』

 さすが詳しい。

「根黒、呟きメッセージアプリのアカウント持ってる?」

『あ、ああ。アニオタジャンルのアカなら』

「フォロワーは?」

『今は三百人越えてるね!』

「ちょっと頼みたいことがある。俺のアカウント教えるからさ、今からの更新する呟きをフォロワーに共有してほしい」

『え、菅谷君のアカウント? 教えてくれるの!?』

「食いつくとこそこか……?」

 ちなみに 奏介のアカウントは情報収集用なのでほとんど呟かない。

 手短に状況と事情を説明し、通話を切った。

「姉さんには後で報告するとして、まずは軽く一発」




 ショッピングモールを出た籠目は上機嫌だった。後輩とも言うべき宇津のベタ褒めに気を良くしたのだ。

 このまま、近くのカードショップへ向かうことにしたのだ。

「ま、あんなキモいアニメ興味はねぇが、金になるしな!」

「あ、ははは。カゴさん、興味なかったんすか」

「当たり前だろーが。オタク共から金をふんだくるための道具だっつーの」

「割り切り方半端ねぇっすね」

「お前は甘過ぎなんだよ。ガキが可哀想とか言ってたら売れねぇだろ」

 籠目はスマホを取り出した。

「さっそく売り出すか。一パック二千円でも売れんだろ」

「うっわ、ぼった」

 宇津がカラカラと笑う。

「そんだけこのカードは金づるなんだよ」

 スマホを操作し始めた籠目だったが、

「んあ?」

 フリマサイトのアカウントのログイン画面に警告と出ていた。


『ご利用ありがとうございます。

この度、カゴマツ様のご利用状況を確認しましたところ、当サイトにおける禁止行為を発見いたしました。すぐに改善を行わない場合、こちらのアカウントは永久凍結となります。ご注意下さい。

○違反内容○

他社サービスにおける重複出品。


ご検討、よろしくおねがいします』


 籠目は目を瞬かせた。

「は? なんだこりゃ」

 フリマサイト、他社を利用したことなどないが。

「どういうことだ、こりゃ」

 宇津が覗いてくる。

「ほへー。カゴさん、他んとこも使ってるんすか」

 籠目舌打ち。

「ねーよ。バカAIに目ぇ付けられたみたいだな」

 と、宇津が歩きながら自分のスマホを取り出す。

「ありゃ? これ、カゴさんのアカウントなんじゃ?」

 見せられたのは設立五年、中堅クラスのフリマサイトだ。カゴマツの名前で魔法使い柚のカードパックが売り出されていた。しかし、全てSOLD OUTになっている。

「……はぁ? 俺じゃねぇよ、これ」

「そうなんすか?」

 どうやら、よく調べもしないで、現在使用中の同じサイトネームを勘違いしたらしい。

「ちっ、ざる運営が」

 アカウント復活させねばせっかく手に入れたものが無駄になる。運営にメールを送ることにした。


 数時間後、籠目はようやく気づくことになる。

 

 とある一つの呟きがバズっていたのだ。

『転売ヤーカゴマツ発見! 魔法使い柚のカードパックを大量に手に入れてご満悦の様子www ちなみにキモいアニメで興味ないってさ。全力でオタク煽ってんだけどー! 色んなフリマサイトで売ってるから皆通報しようぜ』


 顔は写っていないが、ショッピングモールで魔法使い柚のカードパックを持った籠目の姿の写真付きで。




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