第149話丸美の仕返しに反抗してみた4

 いつもの風紀委員室。昼休みが始まって五分ほど。ここにいるメンバーは奏介、詩音、ヒナだけである。

「うわぁ、丸美さん、奏ちゃんにそんなこと言ったんだ」

 電話の向こう側から聞こえてきた言葉を一字一句正確に伝えると、二人は顔を引きつらせた。

「停学にまで追い込まれた相手によく暴言吐けるね。菅谷くんの恐ろしさ伝わってないのが怖いよ」

 ヒナが腕を組む。

「そ、それでどうするの?」

 詩音、恐る恐る。

「今考え中。真っ向から喧嘩売られたからね。緩い制裁にはしないと思う」

「とりあえず、聖ナリアに乗り込むんだよね? ボクもお供するよ! 案内はつかさに頼もう」

 ヒナ、気合充分である。

「いや、女子高でしょ。丸美のために不法侵入の罪を犯したくないよ」

「奏ちゃん、変なこだわりあるよね……」

 ふと視線を感じ、入り口の方を見ると、戸の隙間が開いていて、誰かがこちらを覗いていた。

 目が合った瞬間、勢いよく戸が開く。

「女子校に潜入作戦? わたしの出番てわけね」

 大山が興奮した様子で中へ入ってくる。

「いや、あの、それは今却下したところで」

「いや、乗り込んだ方が手っ取り早いじゃない」

「先生、俺に女装させたいだけでしょ?」

 大山は胸を張る。

「当たり前でしょ。それ以外にわたしが何を望んでると思ってるの?」

「ごもっともです」

 それはそれとして、今回は、大山のおかげで作戦も練りやすかった。いっそ最後まで協力してもらうのもありだろう。

「ねぇねぇ、しおちゃん。菅谷くん、目覚めちゃうかもしれないよ」

「……幼なじみとしてどう受け止めればいいのかな……」

「いや、絶対ないから」





 電話の向こうに用件を伝えると、相手に躊躇うように黙った。

「リリ?」

『すみませんけど、そういうことしてる余裕はありません。うちもテストが近くなって来たので勉強したいですし』

「え、いやいや、ただ菅谷を呼び出して思わせぶりな態度取ってくくれればいいんだよ? ほら、前にやったみたいに」

『気が乗らないのですみません。……カナエ、あの人とやり合うのは止めたほうが良いですよ』

 ため息混じりに言われ、通話が終わった。

 丸美はスマホを見つめる。

「……なんで……?」

 こういう人をからかう遊びは好きなはずなのに、様子がおかしい。

「えー、テストじゃ味澤達もダメ? じゃあ、安登しかいないじゃん」

 彼のスマホにかけてみる。 

『うぃー。もしもーし』

 気の抜けた声に丸美はほっとした。彼もこういう遊びは好きなはずだ。

『丸美? どうした?』

 一緒に奏介をからかわないかというようなことを言ってみると、

『あー、俺パス。次なんかしたら消されるかもしんねぇし。お前も止めとけって』

 二人との電話を終え、丸美はぽかんとしてしまう。

「なん、なの? だってあいつだよ? ぴーぴー泣いてた菅谷。運良く友達ができてちょっと調子に乗って強気になっているだけで」

 丸美は息を吐いた。と、廊下の壁によりかかっていた丸美の前を二人組の生徒が通りかかる。 

「あの方が?」

「そうですわ。はしたない」

 丸美は内心で舌打ちした。

(さっさと帰ろ)

 丸美は通学カバンを肩にかけ、廊下を歩き始めた。復帰一日目とあって周囲の視線が痛いが、その内消えるだろう。

 ふと前方を見ると、

「え?」

 制服姿の女子生徒と何故か私服の女子が歩いてくる。隣には生活指導の教員も付き添っていた。

「あい、つは」

 その顔には見覚えがあった。中々見ないほどのロングヘア、整った顔立ち。

 三人が通り過ぎる際、少女の口が開いた。小声で、

「この学校なんですね。藤隆さんの愛人さん」

 カッとなって、彼女の手首を掴んだ。

「!」

 彼女は驚いたように丸美へ視線を向ける。

「えと、なんでしょうか」

 やや声を出しづらそうにしている感じがある。しかし、今の丸美は気にならない。

「愛人? それはあんたでしょ」

 ふつふつと沸き上がる怒りを抑えながら言う。付き添いの二人は驚いたように目を瞬かせている。丸美はそれを気にしている余裕がなかった。

「私が?」

 彼女は首を傾げる。

「藤君はあたしの彼氏よ」

 胸元に手を当て、『あたし』を強調する。

「ああ、そうなんですか。なら、あなたとお付き合いされているせいで逮捕されてしまったんですね」

「なん、ですって?」

「高校生に暴力を振るって現行犯逮捕。その高校生との関わりはなく、恋人であるあなたの元同級生というだけ。藤隆さんに、元同級生に暴力を振るえと命令したのは、どこの誰ですか?」

 彼女は静かにそう言って、すっと目を細めた。

「あなたでしょ?」

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