第146話丸美の仕返しに反抗してみた1
『うちの学校中、大騒ぎになってるわ。あれって、コラか何かなん? 見たけど、がっつり制服で入って行ってるやん』
ヒナに教えてもらった野久保つかさのIDからメッセージが送られてきていた。
昼休みである。
気落ち気味の奏介を心配してか、いつものメンバー全員集まっている。
すでに八割以上は回復しているが、気にしてくれているようだ。小学生の頃と違い、今は友人がいる。それを確認出来ただけで奏介の意識は丸美へのお返しにむいていた。
「あ、そういえば菅谷くん、つかさから連絡きた?」
おにぎりをもぐもぐしながらヒナが問うてくる。
「ああ、学校が騒然としてるって」
「え!? 奏ちゃん早速何か仕掛けたの?」
サンドイッチを持った詩音に聞かれたので、奏介は頷いた。
「あいつが彼氏とホテルに入ってくところを隠し撮りして、聖ナリアのネット掲示板に貼りつけた」
「へぇ、あいつらそんな堂々と入って行ったのか」
と、真崎が焼きそばパンを食べながら言う。
「うわっ」
スマホをいじっていたわかばが声を上げる。
「これ、制服着てるじゃない。バカじゃないの?」
隣のモモが覗き込んで、眉を寄せた。無言だが引いているようだ。
「ちょっと、警戒心なさすぎだね」
水果も呆れたように言う。
「奏ちゃん、これってさ」
「未成年で入ったことにかわりはないからな、制服っぽく加工した」
「あんた、復活するとほんとに容赦ないわね」
「容赦ないって、殴られたんだし、これくらいのやり返しは軽いものでしょ。そもそも、喧嘩売ってきたのあっちだから」
「……うん、いつもの菅谷だわ」
「こっちは尻に蹴り四発、顔に拳一発くらってるからね」
「改めて聞くと、酷いことするね」
ヒナが眉を寄せる。
「そういえば、あの彼氏のことは奏ちゃん知ってたの?」
「あ、もしかして、菅谷の小学校時代の同級生だったのか?」
詩音と真崎の問いに首を横に振る。
「知らない。忘れてることは絶対ないから、面識ないと思う」
「彼女に言われたからって、見ず知らずの人を殴るなんて……」
モモが相変わらず引いた様子で呟く。
奏介はつかさにメッセージを送った。学校内の状況をもう少し詳しく聞くことにする。
その日の放課後、つかさから返信があった。
どうやら、丸美カナエは、一週間の自宅待機を命じられたらしい。いわゆる停学だ。
○
駅ホームにて。
「はぁ?」
先日一緒に行ったホテル、そこに入るところを写真に撮られていて、それがバレて停学になったというものだった。
「おいおい」
岡目は二十歳の大学生なので、そういった場所に出入りすることは違法ではない。しかし、高校生の丸美は違う。
真っ先に浮かんだのは自分にも責任が発生するのでは? と言うものだ。連れ込んだと言われてしまうと、自分が悪者になってしまうだろう。
「やばいだろ、それ」
慌てて返信することにした。
心配の言葉、励ましの言葉を並べ、遠回しに自分の名前を出さないようにと伝える。
返信はすぐに来た。
『うん、ありがと。大丈夫! 藤君のことは絶対言わないから』
「よっし」
ひとまず巻き込み事故だけは避けられた。
そんなことをしていると、ふと視線を感じた。
「……ん?」
横を見ると、
「!」
ロングヘアの可愛らしい少女が不思議そうにこちらを見ていた。
同じように電車を待っているのだろう。しかし、岡目が気になるらしい。ついつい、声が出ていたのかもしれない。
「あー……。すんません」
へらっと笑って頭を下げると、彼女はくすくすとおかしそうに笑った。それからすぐに、頭を下げ、ホームから出て行ってしまった。
「メチャクチャタイプだ」
丸美が一緒なら肘で小突かれていたところだが。
翌日。
停学中の丸美は昼近くに来た郵便物を回収していた。親にも散々叱られ、休んでいる間は家事をすべてやらされることになってしまった。
「なーんであたしが主婦みたいなことしなきゃならないのよ」
家族宛のはがきに混じって、自分宛の封筒があるのに気がついた。
「何よ、これ」
流れで、玄関先で開封する。
「…………は!?」
中に入っていたのは写真だった。駅のホーム内。写っているのは間違いなく彼氏の岡目であり、見知らぬ少女と笑顔で会話しているようだ。
「誰!?」
胸の奥がざわついた。そこで気づいた。封筒の中には手紙が一枚。そこには、短い文章が書かれていた。
『お前、今回のやらかしで捨てられるんじゃね?w』
写真の中の二人は立ち位置に距離があるので、そう見えなかったが、これはやはり浮気現場ということなのだろうか。手紙を読んだことで、そう思ってしまった。送り主が誰だかは知らないが、今回の件での嫌がらせだろう。
「しんっじられないっ」
彼女が大変な時に他の女とデートをするとは。
丸美は怒りに任せて、メッセージを打ち始めた。
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