第105話作戦終了後

 風紀委員会議室にて。


 パイプ椅子に座った奏介はとりあえず破れたブラウスの前をネクタイピンで留めた。


「……あんた、恥ずかしくないの?」


 見ると、わかばが目の前に立っていた。


「何が?」


「女の子の下着つけてスカート履いて。しかも思いっきり人前に出たんでしょ? 男のプライドとか羞恥心ないわけ?」


 呆れ顔だった。


「甘いな、橋間。俺は土岐を潰すためならどんなことでもやるぞ? 奴の人生をぶっ壊せるなら、プライドとか羞恥心なんてどうでも良い。最悪道連れだ」


「執念凄すぎない? ……って、それはそれとして、いつまでその格好でいるつもり?」


「男の女装見て何顔を赤くしてんだ」


「いや、あんた、その特殊メイクの美少女顔でそんな際どい格好だと目のやり場に困るのよ。見なさい、針ケ谷がさっきから視線をそらしてるじゃない。友達を微妙な気分にさせて申し訳ないと思わないの?」


 奏介は真崎の方へ視線を向ける。


「針ケ谷…………なんかごめん」


「まぁ、気にすんな」


「ほらね。大山先生の技術嘗めるんじゃないわよ? あの人、有名なゾンビ映画で特殊メイク班だったんだから」


「へぇ、そうなのか」


 大山華花おおやまはなか、以前痴漢冤罪事件の解決のために協力してもらった特殊メイク技術を持つ非常勤の教師である。


「見覚えがあったから聞いてみたの」


 奏介は少し考えて、


「大山先生には悪いことしたな。目的も話さず利用するようなことして、ちょっと申し訳なかった」


「ああ、大山先生、目茶苦茶喜んでたぞ? 男子に女子メイクさせるの好きらしい。いつでも声かけてだとさ」


 真崎が笑いながら言う。何か誤解されている気がしてならないが。


 と、そこで詩音とヒナが戻ってきた。


「いやぁ、凄い騒ぎだよ」


 ヒナが苦笑を浮かべる。


「女子更衣室の前で土岐先生が怒鳴り散らしててさ」


「警備員さんまで来てたね……。ていうか奏ちゃん、よくあそこから逃げてきたね」


「皆、パンツ被った土岐に呆然としてたからな。まぁ、軽い先制攻撃だ。向こうがどう出るか見物だな」


「ねぇ、これもうトドメじゃないの?」


 わかばが言うと、真崎が腕を組んだ。


「男の教師なら一発だけど、菅谷が逃げてきてるからな」


「うん。被害者がいないと被害届も出せないし。あと、荒らしたように見せてた下着は買ってきてもらったやつで全部新品だから、そこまで大きな罪に問われない気がする。土岐が女装した俺のことを悪く言うだろうし。最終的に不名誉な噂が残る程度だろうね。学校側は問題を起こしたくないだろうし」


 奏介は薄い笑みを浮かべる。


「まぁ、その噂を立てるのが目的なんだけど」


「噂かー。つまり、女子更衣室荒らして女の子襲った痴女教師っていうレッテルを貼ったってことかな?」


 ヒナが言うと、奏介は頷いた。


「噂を流してからが本番だ」


 奏介はここにいる全員を見回した。


「皆、今回はありがとう。協力してもらって助かったよ」


 あまりよろしくないこととは言え、付き合ってくれる友人が増えたのは喜ばしいことだ。


 喧嘩は買った。本番はこれからなのだ。

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