第37話父親の説得を頼んでみた2
驚いた顔をしたものの、イリカはすぐに睨み付けてくる。
「もう一回言ってみなさいよ」
「会社の経営に携わってない癖に、優秀な父親が稼いだ金をまるで自分のもののように、勝手に見せびらかしてお高くとまって人を見下してるの、ダサいって言った。聞こえなかったの?」
わかばとヒナがお互い、一瞬だけ顔を見合わせた。
「増えてる」
「増えてるわね」
モモは呆然とする。喧嘩を吹っ掛けることに一切の躊躇いがなかった。
イリカは腕組みをして息を吐いた。
「無礼ね。そこの薄汚い不倫女の娘が何か吹き込んだのですわね?」
「薄汚いのはお前の父親じゃない?」
「……は?」
「なんか全部須貝の母親のせいにしてるみたいだけどお前の父親が襲ったんだろ」
「どういう、意味」
「好みの家政婦雇って隙を見て部屋へ連れ込んで襲って子供作らせたんだろ。薄汚いのはお前の父親な。金で性的暴行をもみ消したってとこか。最低だな」
イリカは怒りに震えていた。
「お父様を、侮辱しましたわね?」
「侮辱されるようなことしてるからだろ? 一つ屋根の下に正妻がいるのに家政婦に手を出すとか非常識なんだよ。ああ、そうかお前の母親に魅力がなくて家政婦に走ったのかな?」
「っ!! あなた、いい加減にしないと」
奏介は息を吐いた。
「腹立つだろ?」
「……え?」
「お前、須貝に同じことしてるんだぞ。須貝の親を馬鹿にしまくってんだろ? お前の今の気持ちを、須貝はずっと味わってきたんだよ。それを言い返されたくらいで、何むきになってんだ? 俺は須貝の代わりに言い返しただけだ。最初に侮辱してきたのはお前だから」
「っ……」
「やったことやり返されて激昂するとか、やっぱりダサいな」
奏介は肩をすくめる。
「で、須貝。父親はいつ帰ってくるの?」
「え、えと、多分夜だと思うわ」
「それなら須貝の部屋で待たせてもらおうかな」
そんなやり取りをしていると、
「あなた、お父様の前で断罪してあげますわっ! 絶対に」
そう言って奏介達に背を向ける。
家政婦は脅えたように奏介を見、お嬢様の後を追った。
プチ女子会+アルファ二日目。
四人はモモの部屋にて、ペットボトルの炭酸を飲みながら、開いた袋のポテトチップスを囲んでいた。
「まったく、期待以上の働きをしてくれるわね、あんた」
「菅谷くんが言うことって、悪口とか罵倒じゃなくてド正論なんだよね。普通の人じゃ言い返すのは無理だよねぇ」
「正論に言い返せない奴に、ろくなやついないよ」
奏介はクールにそう言って、炭酸ジュースを一口。
モモは三人のやりとりを見ていて、なんとなくわかった。二人が彼、菅谷奏介に頼った理由が。
「ありがとう」
気づいたら言葉が出ていた。三人が一斉にこちらを向く。
「なんだか、ちょっとスッキリしたわ。私の気持ちもちゃんと言ってくれて、嬉しかった」
「ああ、お礼は橋間と僧院に言って。俺は頼まれただけだし、報酬は橋間にもらう予定だから」
「報酬!? 聞いてないけど!?」
わかばが声を上げる。
「学校の自販機のパック牛乳一本ね」
「ねぇ、それなんなの? 嫌がらせ? 微妙に意味が分からないんだけど」
わかばが顔をひきつらせる。
「あははははっ」
何故かツボに入ったらしく、ヒナが笑い転げている。
モモは二人と奏介の関係を、羨ましく思った。
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