第6話小さい子が理不尽な目に遭ってたのでその母親に反抗してみた2
マンションのロビーで続く緊張状態。
奏介は怒りにぶるぶると震える母親に対し、毅然と構えていた。育児疲れで不安定になっているようだが、優しい言葉をかける気はなかった。何しろ、抵抗できない小さな子供を殴ったのだから。
「あの時は?」
「仕方なかったのよっ。あの人が大丈夫だって言ったからっ」
「だから、大丈夫なわけないって言ってるじゃないですか。バカなんですか? お相手の上司の方も相当頭悪いですよね?」
「っ……!」
今にも飛びかかってきそうだ。肩で息をしながら凄い形相で睨み付けてくる。
「まぁ、それは良いとして、産まなきゃよかったなんてよく言えましたね。勝手に産んどいてこの子のせいにするってどういうことですか? 全部あなたの責任だし、一人で子育て出来ないならそういう施設に預ければ良いでしょう。毎日怒鳴られて殴られる子供の気持ちも考えて下さいよ。自分だけが辛いみたいな言い方してますけど、この子の方がよっぽど辛いですよ」
「うるさい……うるさいうるさいうるさいっ、あなた何様なの!? なんでそこまで言われなきゃ行けないの!?」
奏介はにっこりと笑う。
「俺の前で子供を殴ったからです。そういうの、ほんと許せない質なんで」
「関係ないのにしゃしゃり出てきて、偽善者気取り!? うざいのよっ」
「偽善者だなんて心外ですね。ていうか、口出しされたくないならおうちでやって下さいよ。ここは公共の場なんですよ? あなたのプライベート空間じゃないんです。少し考えればわかるでしょう?」
母親は血が出るほど唇を噛み締めるとうつむいた。
「死ね……」
呟く。そして、
「死んじゃえぇー」
突進して来ようとした母親だったがすぐに後ろから羽交い締めにされた。もちろん、駆けつけてくれたお巡りさんに、だ。
「お、落ち着いて。暴れないで下さい」
「いやぁっ離してっ離してよぉ」
管理人さんも一緒になって押さえつけると、彼女はようやく大人しくなった。床に座り込み、ぶつぶつと独り言を口にしている。
「お、お母さん」
奏介にしがみついていた女の子が不安そうに呟いた。
それからは思った以上に大騒ぎになってしまった。母親は救急車で病院に運ばれて行き、野次馬がマンションのロビーを埋め尽くしたのだ。
奏介はと言うと、お巡りさんに許可を取って、女の子を自宅に連れてきていた。
落ち着いたら警察が母親の病院に送って行くそうだ。
菅谷家にて。
リビングのテーブルについた女の子はコップに注がれたリンゴジュースを飲んでいる。
「美味しい?」
パートから帰宅していた母親が対応してくれたのだが、小さい子が家にいることが嬉しくて仕方ないらしい。
「おいしい。あの、ごちそうさま」
「ふふ、よかった。あ、奏介。ちゃんとこの子見ててね。母さん夕飯の支度するから」
「うん」
キッチンへ入っていったのを確認し、女の子へ視線を向けた。
「ぶつけたところ痛くない?」
「だいじょうぶ」
「そっか。名前はなんていうの?」
やや警戒気味に上目遣いで見つめてくる。
「……こうさかあいみ」
「あいみちゃんか。もう少ししたらお母さんのところに行けるから待っててね」
「おなまえ、なんていうの?」
一瞬なんのことか分からず首を傾げた奏介だが、
「あ、俺?」
自分に聞いているのだと気づく。
「うん」
「菅谷奏介、だよ」
「そうすけ君。さっきはありがとう」
「あぁ、良いんだよ。怪我なくてよかったね」
母親については深く聞かない方が良さそうだ。
「おうちにね」
「ん?」
「ウサギさんがいるの」
「飼ってるってこと?」
首を横に振るあいみ。
「ぬいぐるみ」
「そうなんだ」
「取ってきてもいい?」
どうやら自分の家に帰りたいらしい。心細いのだろうか。
「んー……。じゃあお巡りさんに聞いてみるね」
スマホを取り出したところで、リビングのドアが勢いよく開いた。
「奏ちゃん、大丈夫!?」
見るからにずぶ濡れの、詩音だった。
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