天堂

@kongzhenming

第1話 序章

「うん、目が覚めたみたい」


がらんとした三次元の世界は深い紫に囲まれているが、遠くに星や雲がぼんやりと点在しているのが見える。


ふいに星がまばゆい光を放った。


彼は目をこすり、静かな闇から目を覚ました。


星の光が彼の目をまっすぐに刺した。彼は自分が刺されて見えなくなるような気がして、無意識にそれを手で隠した。


「少年。」


周囲で何かが自分を呼んでいるような声が聞こえた。


「少年。」


声が大きくなり、幻聴ではないことを確信した。


あたりを見回すと、病院ではなさそうだった。


目の前には老人がいた。老人は白い法服を着て、口髭を生やしていた。水色の瞳が眼窩に食い込み、頬を垂れた白髪が闇の中でひときわ目立っていた。


「あなたは誰?」少年は力のない声で言った。


「神様」老人は率直に答えた。


一瞬、少年の脳裏を記憶がよぎった。


「神様?」


記憶、一段ずつの記憶が頭を刺激し、何かを思い出しているようだった。


次々と人影が目の前を通り過ぎていく。


この人は,あんなによく知っているようだが,またあんなによく知らない


しばらく考えていたが、老人が口を開いた。


「少年、天国へようこそ。」


一瞬、少年は思い出し、次々と記憶が流れ込んできた。


……


涙が、つい流れてしまった。


「ドカンドカン」


遠くで炸裂するような音がして、星が砕け、深い紫までが崩れ落ちた。


空間は引き裂かれ、まばゆい光を放っていた。


老人と少年はゆっくりと割れ目に向かって流れていった。


「ここは、天国ですか?」少年はつぶやいた。


涙がまたこぼれた。


星の光は少年の涙の中を抜け、薄い云を抜けて、深い裂け目に向かって放たれた。


……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天堂 @kongzhenming

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る