身寄りの無い半グレが異世界で魔王を倒した

スリムあおみち

第1話 塀の中から異世界へ

 特別少年院からそのまま少年刑務所に送致されたと言えば、初犯ではないと分かる人にはバレてしまう。その通り。敵対グループメンバー拉致監禁は大して問題視されなかった。だがオンラインカジノ運営で大事件に繋がってしまった。


 海外のマフィアがヤバいブツを売って儲けた仮想通貨をオンラインカジノにつぎ込んでわざと負ける。だがその負け分はしっかりマフィアの別部門に流れ込むという錬金術。資金洗浄の手口の一つだが国際犯罪として僕の名前が新聞に載ってしまった。


 自分が人身売買の片棒を担いでいたと知らされたのは日本で逮捕されてからの話。まさか人間を冷凍車で運び凍死が続発していたなどとは夢にも思わなかったが、知りませんでしたは通らない。


 少年刑務所に収監され2年と少しが経ち、品行方正ということで半年ほど我慢すれば出所と聞かされて不安になった。今21歳。上手くいけば22歳の誕生日前に娑婆の空気が吸える。ただ、両親からは絶縁を言い渡されている。帰る家など無いし、所属していた半グレグループは壊滅状態、学歴は高校中退。


「僕、将来が不安で」

 信頼している刑務官の曽我部さんに相談。すると「魔法に興味があるか」と質問された。「ありません」と答えられる立場ではないので「あります」と返答。


 すると曽我部さんは「教戒師の笹野さんに話通しておくから」と事務的に僕に伝えた。笹野さんはお坊さんだよなと疑問に思ったが、彼に会う日を待つしかなかった。


「春野ケンタくん、私の下で魔導士修行をしたいということだが覚悟はあるのかね」

 さすがに考え込んだ。僧衣を着ているごっついおじさんに魔導士と言われても困る。


「覚悟と言いますと?」仕方なく素直に質問。

「これで魔王ゲインの首を刎ねてくれば入門を認める」

 笹野さんが僧衣の懐から大ぶりのバタフライナイフを取り出した。ちょっと、ここ刑務所の中なのになにやってんだよ。


「出所が近いので物騒なことは」

「仏道に外れた外道を退治するのは善行だ。出所は早くなる」

 狼狽し混乱する僕の背中を刑務官の曽我部さんがポンと叩いた。

「春野、ナイフを受け取るんだ」


 いいのかなと思いつつバタフライナイフを手にした。通販のものとは違う重さ。


「オンキャラコウコウ」

 数珠を持った笹野さんが呪文を唱えると足元に黒い影が差した。その影が大きくなり僕をひょいと床下に引っ張り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る