しょっぺぇ恋バナさせてくれ

Shino★eno

第1話/会社員

 失恋をした。


 とある想いを秘めていたので想像以上に傷は深く、誤魔化すように仕事に没頭する。

 残業を終え帰宅。

 部屋に光は要らない。

 見渡したくない。

 彼女の気配を探してしまうから。

 暗がりの中でスマホを弄り、発泡酒を一気に煽り、やめた煙草に火をつける。

 あぁ、くそ不味い。


 それでも。

 張りつめた糸はいつかは切らねばならない。


 ◆ ◆ ◆


「泥々に眠るまで仕事するな!」

 物静かな奴がらしくなく声を荒げて叱る。


「いま持論を展開しないでどうするの?」

 飄々とした奴がらしくなく神妙に説教する。


 俺が編み出した――って言ってもたいした話じゃない――溜め込む前に吐き出せ理論。


 ようやく涙が溢れる。

 つらい。

 つらいな。

 つらいよ。


 ◆ ◆ ◆


 情けない、女々しい、みっともない。

 好きなだけ言うがいい。

 男だって泣くんです。


 彼女と過ごした時間が、抱きあった温もりが、見つめあった眼差しがそれだけ大切で、いとおしくて、かけがえのないものだったという証拠だろう。


 そしてこんな時でも腹は減る。

 やっと泣けたのに、もう少し浸らせろよ。

 生きてるからしょうがないか。


 きっと死ぬまで奥底に住まう面影。

 ならば今こそ顔洗ってサッパリして一歩踏み出すか。


 ―――って、外すげー雨。

 いたっ、雹降ってんじゃん、マジかよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る