İstiklâl ne? ~テュルク陸軍特殊部隊~

Fafs F. Sashimi

第1話 新人アリ・ウルス


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この小説は2021年2月に創作世界観『大宇宙』のメンバーと共に行われたクトゥルフTRPG第六版セッション「İstiklâl ne?」のログを小説化したものです。


GM・シナリオ:Fafs F. Sashimi

ケマル・ギョクチェン:えかとん

ファルク・パラミール:フリートン

セリーム・エヴェレン:Lefe

アリ・ウルス:Guien

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 ケマル・ギョクチェンは浮足立っていた。長い検問所での任務を終えて、別部隊と交代の時となっていたのだ。彼は本部の分室にあるベンチに座り、紫煙をくゆらせていた。銘柄はサムスン、軍のしがない支給品だ。


 西アジアに位置するテュルク共和国は地域大国の一つであり、地政学上の要求によって特殊部隊の常時運用が必要であった。そのためにケマルの所属している狼部隊ベーリュ鷲部隊カルタルは定期的に交代しながら長い運用と長い休暇を繰り返していた。


「ああ、まだだ。まだ、終わっては居ないぞ……」


 分室で緊張を解していたのはケマルだけではなかった。声を上げたのは同じく狼部隊の敏腕戦闘工兵、ファルク・パラミールだ。彼は個人用ロッカーを開けながら、何やらぶつぶつと呟いていた。


「仕事を終え、酒を禁じ、己を正すところまでが信仰なのだ。神は全てを見ておられるのだ。しかし、私は……」


 ケマルは口角を上げた。いつものこととはいえ、ファルクのこの癖は見てて笑える。


「今日も負ける‼」


 ロッカーからファルクは蒸留酒ラクのボトルを取り出し、ラッパ飲みし始めた。ケマルはその様子を見てから、ニヤケを顔に満たした。ベンチから立ち上がって、ファルクの肩を叩く。


「いつも通りだな、ファルク! だが、飲みすぎるなよ! 今日はな、隊長の誕生日なんだからな」

「根性さえあれば、蒸留酒ラク一本くらいでぶっ倒れん」

「祝う気あんのか、おめえ?」

「そうですよ、ファルクさん、飲み過ぎは信仰深いとは言えませんね」


 二人がじゃれ合っている様子を見ながら、もう一人が声を上げた。機械偵察・狙撃兵のセリーム・エヴェレンだ。彼はケマルと同じイズミルの出身である。


「おめえは世俗主義者だろうがよ」

「あうっ……」


 セリームは手元からお手製のプラスチックで出来た「ドローン弾」を床に落としてしまった。ドローン弾は床に激突し、バギバギに破損してしまった。


「あぁ、俺の11,000テュルクリラが……!」


 一方、ファルクはロッカーからおつまみまで出し始めた。分室で酒盛りを始めるのは彼くらいだろうと内心ケマルは思いながらも、その豪快さが彼の憎めないところだと知っていた。


「こんな、こんな西側の、こんなもの……」


 ベンチに戻りながら烟が昇っていくのを眺めていると、分室のドアが開いた。部隊の別の人間が入ってきたのだろうと思っていたが、その顔は見たことのないものだった。


「失礼します、この度狼部隊に配属されました、アリ・ウルスと申します。よろしくお願いします」

「例の新人か」


 ファルクがその顔を直視すると、アリと名乗った男は敬礼の後に部屋に入ってきた。そして、体をくねらせながらケマル達のことを舐めるような視線で見回した。


「アラ! いい男がいっぱいじゃないの~‼ 私、特技は大型トラックの運転なの。よろしくお願いしますね、先輩方♡」

「俺はセリームだ。宜しく頼むって……あっ……」


 セリームは何やら察した風の反応を示しながら、目を逸らして小声でぼやいた。


「そこのイェニチェリに叱られるなよ」


 ケマルは顎をさすりながら、アリの目の前に立った。


「よう新入り、なかなかお前面白いヤツじゃねぇか。この狼部隊で生き残ろうってンなら、根性も見せてくれねェとな! 俺はケマル・ギョクチェン――もし、間違っても『オッタテュルク』などとは言うなよ」

「どうしてなの?」

「言えば、俺がお前の体をくり抜いて立派なズルナにしてやるからだ」

「あぁらやだ、こわぁい」

「冗談だ」


 ケマルはガッハッハと豪快に笑う。アリもそれを見て、冗談で迎えてくれるチームに信頼を感じ始めていた。


「ファルク、おめえが二日酔いになる前に酒場行くぞ。今日は新入りが入った日だ、ここは一つベテランの俺がオゴリでどうだ?」

「キャー! おじ様太っ腹ぁ」

「いいですね、ケマルさん」


 セリームとアリが顔を明るくしていると、「オゴリ」の言葉を聞いたファルクもロッカーから顔を出してケマルの方を見た。


「いいのかい? この世は誘惑で満ちているな」

「お前は自腹だぞ、ファルク。お前にオゴっちまったらすぐに借金しちまうからな! ガハハ!」

「正しい」

「ファルクさん、それで良いのか……」

「エヴェレン、お前がおごってくれるのか」

「イヤです」


 セリームの回答にファルクは肩をすくめて答えた。

 その瞬間、また分室のドアが開いた。今度入ってきたのは部隊の顔なじみだった。黒髪のロングで、美しい黒い瞳を持つ美少女といっても過言ではない女、エミーネだ。

 彼女はその容姿の上に部隊の最低年齢である20歳で陸軍特殊部隊課程を突破したエリートだ。部隊のマドンナであり、皆から慕われている。


「あらあら、今日も騒がしいわね」

「あら、どうもぉ」

「お疲れ様です、エミーネさん」


 エミーネはセリームにニコっと微笑むと、アリの方へと向き直る。


「私はエミーネ・ギュルチェク、新人さんは私の名前も覚えてね」

「アリ・ウルスですわ。よろしくお願いしますね♡」

「俗な格好しやがって」


 ファルクは伝統主義者らしくそうぼやいていたが、内心呆れながらもエミーネを仲間として認めていた。

 そんなエミーネの後ろから、更にもうひとり男が分室に入ってきた。隊長のスレイマン・アイドアンだ。ファルクはその姿を認めると適当に敬礼した。


「ケマルの奢りで俺を祝ってくれるらしいじゃないか」

「おっと、隊長じゃねェか。悪ぃが今月は嫁の稼ぎが悪くてな、新入りのアリにしかオゴれねぇ」

「しょうがねえ、全部俺のオゴリにしてやるよ!」


 部屋の中にいる皆がその言葉にわっと沸き立った。ファルクも「え、隊長が奢るの?」と目を丸くして驚く。


「ガハハ!!良かったな新入り!頼める酒の種類が増えたぞ!」


 ケマルは安酒しか奢れないほどの自分の経済力を晒さなくて良かったと安心していた。


「さすが、独立戦争や島嶼紛争で戦ってきただけあるわ。気が大きいの」

「やめてくれよ、もう。このファルク・パラミール、負けるしかないじゃんか」

「任せとけ、俺が居る限りこの部隊に敗北はない!」

「あらやだ頼もしい」

「頼りになるぜェ隊長さんよ!」


 スレイマンは胸を張って、称賛の言葉を受け取る。そんな言葉を聞いたセリームも目を輝かせていたが、スレイマンは先に彼を指差して切り出した。


「セリーム、11000リラは経費に計上するなよ。自腹だ」

「流石に、ライセンス料ぐらいは……」

「何だ、文句でもあるのか?」

「かなしい……」


 セリームが悲しんでいる一方で、エミーネは部屋から出ていこうとしていた。


「じゃあ、私、更衣室で着替えてくるわね」


 エミーネは分室から出ると、女子更衣室の方へと歩いてゆく。それを見送ってから、ファルクはまた一つぼそっとぼやいた。


「ちゃんと黒で統一するんだぞ」

「少しくらいいいじゃないですか、俺たちゃ東部の人間じゃないんだし」

「エヴェレン、人生はいつだって神に見られているんだぞ」

「さいですか」

「俺達も着替えるか、オフにはオフの服だ」


 スレイマンがそういうと、隊員たちは自分のロッカーに手を伸ばした。しかし、ファルクだけは違っていた。彼はその日常では聞くことのないような音を耳にして、ガラス窓の向こうを見つめていた。


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