28話 瞳に浮かぶ渚の色

 「ところであの女がどっちに行ったかわかんのか?」

 赤縞は走りながら紫薇に顔を向けた。

 「さあな、適当に奥に進めばいつかはばったり会うだろうが…」

 「…お前に聞いた俺が馬鹿だった」

 「においで追えないか?お前、野良犬なんだろう?」

 「馬鹿なことほざいてんじゃねえ。んなことを言ったらてめえのその姿の方が向いてんだろうが。鼻でもひくつかせてろ」

 「あの二人のにおいなんて覚えたくもないからな、断る」

 「てめえ…今どういう状況だと…」

 「それに、どうもこの場所はおかしい。鼻の代わりに耳を立てているが、何か妙な気配のせいで感覚がずれる。何かとても強い力が妨害しているみたいにな」

 「なんだそりゃ?あの女のせいなんじゃねえのか?」

 「いや、そんなものとは比べものにならない位のものだ。それにどこか…」

 その力は足もとから感じていた。どういう訳かその力は魔力を帯びていて、その感覚はどこか魔姫のものに似ていた。しかしその反応は僅かで、さっき紫薇が床に倒れた際に偶然に感じ取れたものだった。

 紫薇は胸のつっかえが取れないような気持ちを捨て去るように通路を走り抜けた。

 「広間に出んぞ!」

 目の前には太い柱が幾つも並んだ部屋が広がった。その中央には胡坐をかいて眠そうに欠伸をしている男と、その隣には正座をして本を読んでいる女がいた。

 「んん?とうとう来なすったよ。あーあ、他の部屋も幾つもあるってのに運がないねえ、サルマンちゃん」

 男は千鳥柄のズボンに黒い革靴、白いワイシャツの上にトレンチコートを羽織っていた。気だるそうにポケットから黒い手袋を嵌める。薄いオレンジ色の髪に目元には泣きほくろ、ほったらかした無精ひげ、見るも気品のない恰好だった。

 「実際に戦うのは隊長、あんたでしょ。あたしはもの作るので忙しいんですから、ちゃっちゃっと済ましてよね」

 パーマがかかった茶色い髪に四角い眼鏡をくいと上げ、油や錆で汚れた白衣の下にはホットパンツと赤いタイツ、無愛想な口の利き方だったが、男と同じ柄のシャツを着ていた。本を閉じてよいしょと立ち上がる。

 「その無愛想な口がまた可愛いねえ…」

 男は顔を赤らめながらにやにやと笑った。

 「きもい。ってかさっさと片付けろ」

 「手厳しい女ね…っと!」

 唐突だった。赤縞と紫薇は長いコントでも始まるのかと二人の様子を伺う中、男は笑いながらどこからか取り出したナイフを放り投げた。ナイフは赤縞の眉間に向けられ、はっとしながら赤縞はその刃を受け止めた。

 「あら、一応…奇襲のつもりだったんだけど、奴さんも手練みたいだわ。サルマンちゃん危ないからどっか行ってたら?」

 「ご心配なく、その辺りで本でも読んでますから」

 「…あっそ」

 そういってサルマンは傍にあった柱に凭れかかって再び本に読み耽った。

 「野郎…」

 ナイフは確かに掴んだが、その勢いと鋭さから赤縞の指の間からは血がぽたぽたと流れ、手の平はべっとりと血で汚れてしまっていた。

 「大丈夫か?」

 「絵導…お前、こっから一人で行け。あの野郎、俺の手を傷物にしやがったんだ。その借りは返さなきゃならねえ…」

 「なら引き返して別のルートで先に進む。ここは任せたぞ」

 「ここを突っ切っても良いんだぜ?」

 「ご免だな。あの男…飄々として鹿之介と同じにおいがする。へらへらと笑っていても、こっちの出方を機敏に伺って性質が悪い。ああいう面倒なのを相手にしたくないんでね、遠回りさせてもらう」

 「はっ、小心者が」

 「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや。太史公の先生もそう仰ってるさ」

 別れ際にいい放ったその言葉を聴いて、赤縞はけっと悪態を吐いた。

 「良いのかい?お連れさんと一緒にかかって来なくて?ま、男に言い寄られても嬉しくはないけどね」

 「端からそれが狙いの癖してよく言うぜ…。隊長格が倒されて、上からの命令かてめえの判断か知らねえが…今になって焦り出したんだろ?」

 そういうと男は一瞬だけ顔を強張らせたが、すぐに顔を和らげた。

 「…やだね坊主の癖に勘が鋭くて。子供のうちからそんなんじゃ、大人になってから詰まんなくなるぞ?」

 「てめえの経験からか?その臭え説法は」

 「ま、そんなとこだ。俺はデイサン・コールポージュ、んであっちでつんけんしてるのがサルマン。同じ王宮守護兵団をやっている。ところでさ、悪いんだけどそのナイフ返してくんない?」

 「…なんだってこんな業物を放り投げた?こりゃ相当なもんだろ」

 赤縞は手を開いてまじまじとそのナイフを見た。刃が途中で緩やかに曲がった形をしていて、その表面に施された鉄鋼技術は優れたものだった。

 「うちの家訓なのさ。奇襲や暗殺で用いる武器は最上のものでなければならない。下手なもので殺されちまったら無念だろう?だからさ、そのナイフは家宝なんだ。返してくれると有り難いんだけど…」

 赤縞は初めそのナイフを目の前で叩き割ってやろうかと考えていたが、その余りにも美しい造形に心を奪われてしまっていた。たくさん人を殺してきたのだろう。鋼は血を啜っていたが、その淀んだ輝きにはどこか華があった。

 「そらよ」

 赤縞はぶっきら棒に投げ返したが、それでも刃を傷付けないように投げた。

 「こりゃどうも。悪いね、手間かけて」

 「良いものは後世に残して置かなきゃならねえ…うちのジジィの口癖だ」

 「へぇ、良い爺さんだな。その人も鍛冶をやるのかい?」

 「やるにはやるが…ジジィの作ったもんは駄作ばっかりだ。鍛冶の才能がねえんだよ、口は達者な癖してよ」

 馴染みがあるように会話を投げ交わしているが、既に戦いは始まっていて二人の目には殺気が迸り始めていた。

 「じゃ残念だな…その爺さん、お孫さんの生首でも見たら引っ繰り返るんじゃないか?」

 「その生首がてめえのもんじゃなきゃ良いがな」

 牙を剥き出しにして笑い合い、お互いの武器を握り締めてじりりとつま先を動かし合った。まるで飢えた狼の縄張り争いのように唸り声が低く静かに木霊する。その声が反響するほど辺りは静まり返っていた。



 何十本もの腕の波濤がうねりを上げる。伸びた触手はその体を伸ばしながら右からと左からと、そしてその間から手を伸ばしてクレシェントを押し潰そうとする。その間隙をクレシェントは床を縦横無尽に駆け回っていた。

 伸びた触手がクレシェントの行く先を阻み、そこから曲がって近付いた。それを見るとクレシェントは走りながら人差し指と中指の爪に血を溜めて宙で払った。すると爪の先から赤い軌跡が道となって現れ、クレシェントはそのか細い道に乗って走る方向を曲げた。まるで重力など無視したかのように足裏が張り付いて宙を駆け巡る。

 「(数が多過ぎる…!)」

 必死に走り抜けていたが、その疲れを知らない追走は段々とクレシェントの進行を予測し始め、数にものをいわせて襲いかかってきた。

 クレシェントは途中で道をループさせるよう天井に向かって線を曲げ、上昇していった。それでも尚、腕はしつこく追ってくる。そして後少しで天井に辿り着くといったところでクレシェントは足を蹴って宙を飛んだ。アクロバティックな動きに反して着地はいい加減で、四つん這いになって降り立った。

 その行動を読んでいたのか、自閉的概念はクレシェントが降り立ったところへ腹の口から血玉を吐き出した。その血玉は途中で蜘蛛の巣のように広がった。逃げ場をなくそうと触手は周りを覆うように手を広げながらクレシェントに向かった。

 「仕方がないわね…」

 クレシェントは逃げ場がないと観念すると、一度目を閉じて自分の醜い姿をイメージした。壊乱の魔姫になった自身の姿は皮肉となり、拒絶の精神となって彼女の体に放出される。しかし今回はその力を盾ではなく、攻めとして使った。

 アイロニーの矛。拒絶する力を壁としてではなく、他人を傷付ける皮肉の剣として概念に膜を張って具現化させる。元々はアイロニーの盾を突破する為に生み出された盾の応用だが、それは自らの醜態を外部に曝け出してしまう恐れがあった。同様にそれはクレシェントが魔姫になってしまう可能性も秘めていた。

 『ディオレ・ジェネフィリア・ザード(我は惨劇を呈して)』

 ふらりと立ち上がり、通常は手の平から放出するときと違って、魔姫のように口内に奏力を溜めて一気に放出した。解き放たれた閃光は血玉をあっという間に退け、忍び寄っていた腕を巻き込み、本体である自閉概念を吹き飛ばした。

 クレシェントの放った概念は普段よりも遥かに強力で城の外壁まで貫通していった。その反面、クレシェントの目は赤と銀色に交互に入れ替わり、今にも遠吠えをしてしまいそうなのを必死に耐えた。

 「お願い…今は黙って…!」

 手で頭を抑えながら本能のうねりに反抗するもその侵食は凄まじく、歯が少しずつ鋭利になりつつあった。そんなクレシェントの抵抗などお構いなしに体の殆どを失った自閉概念が再生を始めた。よたよたと足を縺れさせながら少しずつその体を元に戻し、その力を集めてクレシェントに一矢報いろうとしていた。

 「(汚れた奏力を…放出しないと…!でも…加減をしなければ完全に消滅させてしまう…)もう、誰かの命を弄びたくないの…!」

 クレシェントは心の中で魔姫の力に飲み込まれてしまわないよう必死に戦っていた。だが相手にとってはそんなことなど蚊帳の外で、集めた体を槍のようにして突き出した。その切っ先は集中していたクレシェントの腹部に突き刺さる。

 「魂奏歌に…飲み込まれる…!」

 頭の中では理性と本能の濁流が渦巻いて、クレシェントの精神はどうかしてしまいそうだった。そこに痛覚も横やりを入れはじめのだから堪らない。悲鳴を上げそうになる、それでもクレシェントはぐしゃぐしゃになった心の中から一筋の光を見付け、魔姫に犯されてしまった奏力を放出した。

 『リオール・ジェネフィリア・エード(手形は哀傷を置いて)』

 床から一斉に血の腕が天井に向かって上昇し、部屋の三分の一を埋める。その勢いは蛇が狂ったかのように蠕動し、自閉概念を捕まえるとそのまま飲み込んで消滅させていった。クレシェントは自閉概念の中に篭っている女性兵士まで傷つけないよう力を隔離した。

 赤い腕が天井を吹き抜けにして消滅していくと、クレシェントは腰を落として肩で息をした。女性兵士を見ると、僅かに残った自閉概念が魚のようにびちびちと跳ね、その最後の力を失うまいと女性兵士の体の中に帰っていった。

 「…良かった」

 女性兵士はもとの不気味な格好に戻り、静かに呼吸をして眠りに着いている姿を見るとクレシェントはほっと溜め息を吐いた。体も奏力を放出したお陰で正常な状態になっている。

 「あれがゼルア級か…。確かにどう足掻いても勝ち目はなさそうだ」

 その一部始終を眺めていた男の兵士は呟いた。

 「仮に嘆歌者であろうともあの方が負ける筈がない。あちらが片付いたのだ、今度はこっちを片付かせて貰うぞ」

 「少し待ってろ」

 プランジェが奮起して短刀を握ったが、男はそれを無視して女性兵士に近付いていった。

 「おい!どこへ行く!?敵に背を向けるなど無礼だぞ!」

 それすら無視して男は女性兵士の傍にやって来ると、腰を落として彼女の顔を伺った。

 「こいつは驚いたな…。いつもあんだけざわめいてたのが、今じゃ消えそうな位に大人しくしてらぁ…。これで少しはゆっくり眠れるだろう」

 「貴方にとって大事な人なのね」

 「そんなんじゃねえ。こいつの行き場所がねえから拾ってやっただけだ。だが…礼だけは言って置いてやるよ。これで自我に余裕が出来る」

 そういってティーレクークの体を抱かかえると、その場から飛び跳ね、二階に降り立って出来るだけ広間の中心から離れた場所にそっと寝かせた。そして寝静まった彼女の体を見ると再び足に力を入れ、プランジェの目の前に降り立った。

 「やっと戻って来たか…」

 プランジェは自分だけ蚊帳の外のようで頬を膨らませていた。

 「あれだけ矢を放っても掠り傷しか着いてねえのは褒めてやるが…その受けに使った短刀は見るも無残なもんだな。そんな状態で俺と戦おうってのがお門違いなんだよ、笑わせんな」

 見ればプランジェの短刀の刃はぼろぼろで、片方は大きく欠けてしまっていた。体も貫いた跡はなかったが、体には無数の掠り傷が広がっていた。

 「ふん、こんな姿になってしまったものなどに用はない」

 そういってプランジェはその二つの短刀を手の平から消滅させた。すると男は目を見開いて驚いた。その理由はその短刀が奏力から出来たものではなく、完全に形而下の物質としてそこに存在していたからだった。

 「鳩が豆鉄砲を食らったような顔だな。まあ、無理もない。これを実戦に投じるのは今回が初めてだ」

 そういってプランジェは再び短刀を生み出すかと思いきや、今度は小さなピストルを両手に実現させてみせた。紫薇の世界ではその拳銃はショートリコイルと呼ばれる方式を採用し、スライド作動式で出来ていた。部品点数は最小限に作られ、ハンマー式の発火ピンと珍妙な作りだった。

 「世界を渡って学んだことが二つある。一つは私には剣術と同じように銃術の才能があること。二つ目は、どうも私には…この重い鉄の塊が良く馴染む。どういう仕組みか知らないが、あの世界に触れれば触れるほど、私の力(キャパシティ)は増大する。気を付けろよ?この飛び道具、見た目よりもずっとじゃじゃ馬だ」

 その言葉をいい切った瞬間、男は手にぶら下げていた弓をプランジェに向かって水平に掲げ、腰から矢を取り出して撃ち出した。

 が、プランジェはその猛攻の中から勝機を既に見出していた。発射の癖、矢の速度から溜めの時間を緻密に目で記憶し、体に刻み付けながら覚えていた。そして最小限の動き、体を真横に傾けて矢を素通りさせ、新たに手にした拳銃の引き金を引いた。炸裂音の後に男の脇腹の肉が飛び散った。

 「…がっ、糞がっ!」

 弾丸の反動はお互いに凄まじいものだった。プランジェはしっかりと予行演習をしてきたというのに反動によって狙いは大きく外され、男は弾の反動によって大きく仰け反らされた。お互いが次に取った行動は同じだった。その場から素早く身を引いて建物の影に隠れる。二人はその場から急いで離れると、プランジェは傍にあった柱の影に、男は二階に飛び上がって身を屈めた。

 「あんな武器…見た事がねえ…。弾の速度は矢よりも速かったが…」

 即座に穴の空いた箇所を布で縛り上げた。

 「(あの状態から察するにまだあの餓鬼はあれを扱い切れていねえ…。精度は弓の方が上だが、威力が桁違いだ…簡単に体に風穴開けちまう…。金属の弾を飛ばす道具か…どうする?走り回って向こうがバテるのを待つか?いや、足を撃たれりゃ終わりだ…だったら…)」

 プランジェは柱の影に隠れて腰を落とした。手がまだ痙攣している。

 「やはり調子に乗って二丁も具現化したツケだな…それに片手では無理か」

 不満そうな声を出しながら二つあった拳銃の一つを消滅させた。

 「(しかし飛び道具の経験は断然にあちらが上…弾速こそ勝っているが、精度はこちらの比ではない。流石に過去のオーバーテクノロジーなだけはある。やはり決めては手馴れた剣でなければ駄目か…反動に体が追い付かない…。悔しいが、銃で奴を倒すことは不可能だ…)」

 プランジェは拳銃の他に短刀を具現化し、腰に括り付けて柱の隅から二階を覗いた。

 「ちっ…先手を取られたな…。飛び道具相手に上を取らせるとは…」

 その時だった。一瞬だけ相手の姿が見えたかと思うと、プランジェのすぐ真横に矢が飛んだ。プランジェは慌てて身を捩じらせ拳銃の先を向けたが、既に相手の姿はいなかった。そのことを確認するとプランジェは身を柱の影に戻した。

 「正当なやり方で来たか…これも経験の差だな…」

 そうこうしている内に柱の影の両端に数本の矢が放たれた。咄嗟にプランジェは身を屈めてしまう。わかっているのだ。これは心の動揺を突こうと、自分の目が傍まで迫っていると真理的に追い込む為に放ったものだと。そうと頭でわかっていても、緊迫した戦場では自然と体は動いてしまっていた。

 プランジェは今度は手鏡を具現化した。赤い装飾の小さな鏡を柱の影にそっと近付け、角度を変えて辺りを窺った。

 右方向、姿が見えない。左方向、姿が見えない。中心、姿が見えない。ふとプランジェは相手が一階に降りて今正に傍まで迫っているのではないかと勘繰った。手鏡を引っ込め、辺りを視認する。だが誰もいなかった。

 ほっとして再び手鏡を掲げようとした時だった。プランジェの体が咄嗟にその場から飛び跳ねる。いつの間にか傍までやって来ていた男の殺気は無意識に彼女の体を突き動かした。後ろの髪を矢が通り抜ける。間一髪だった。プランジェはそのままくるりと前転して銃口を男に向ける。しかしそこに男の姿はなかった。

 「やられた…」

 それは完全な経験の差だった。実は一階にやって来ていると錯覚させ、その確認を取った一瞬の油断を突いた作戦だった。柱の両端に矢を放った時からその男、ボルクス・インフェラートの妙案は始まっていたのだ。そしてそれが次の一手にも繋がっていた。今のプランジェの状態は最悪だった。それもその筈、今の彼女にはボルクスが一階にいるのか二階にいるのかわからなかったのだ。

 兎に角プランジェは柱の影に隠れて周囲に気を配った。だが辺りはしんとするばかりで音も臭いもなかった。ただ薬莢の残り香だけがプランジェの鼻をくすぐっていた。するとどうだろうか、不思議なことにあれだけ慌てていた心臓が妙な安心感を取り戻したのだ。薬莢の臭いがそうさせるのか、プランジェは自然と意識の半分を持っていかれてしまっていた。


 それは奇妙な記憶だった。


 おぼろげで、鮮明な映像などないノイズがかかった景色。辛うじてわかるのは傍に一人の女が倒れていることだった。顔は知らないと、プランジェは自分にいい聞かせた。だがその半分も映らない女の顔を見ていると、何故かプランジェは胸を締め付けられる気持ちでいっぱいになった。

 そのときだった。首筋に鋭い痛みが走った。と同時に急に瞼が鉛のように重くなり、プランジェはその景色から段々と遠ざかっていった。どう足掻いてもその魔性の眠気には逆らえず、ただただその景色から遠ざかってしまうだけだった。そして最後にプランジェが見たもの、それは一匹の白い蛇だった。


 「プランジェ!」


 温かい赤い光が体を過ぎった気がした。その後にプランジェにとって耳慣れた声が鳴り響いて彼女は覚醒した。

 いつの間にかプランジェは広間の真ん中に呆然と突っ立ってしまっていた。クレシェントの呼び声に反応したは良いが何が起こったかわからず、辺りを見回したが時既に遅し、放たれた矢はプランジェの太股に突き刺さってしまった。

 幼い悲鳴が部屋の中に鳴り響いた。痛いと心の中で叫ぶ。その泣き叫ぶ姿に容赦なしに次の矢をボルクスは解き放った。苦しむ中、プランジェは必死に手を掲げてアイロニーの盾を繰り出した。

 矢が音を立てて崩れた。しかしプランジェのアイロニーの盾はまだ未発達で、一度の衝撃でその場から消滅してしまった。続けて二度目の矢が迫る。プランジェは拳銃から短刀に変えて矢を弾いた。

 「プランジェ、意識を足に集中させてそこから逃げなさい!」

 まるでプランジェを指導するかのようにクレシェントはいった。手は出さず、ただ言葉だけで導かせる。

 プランジェは三度目の矢を防いだ後に意識を太股から足全体に集中させ、死に物狂いで柱の影に走った。その隙をボルクスが狙う。矢を一本から五本に代えて一片に射出した。

 「跳びなさい!」

 いわれるままにプランジェは歯を食い縛りながらその場から跳び上がった。その次はいわれなくてもわかっていた。ただ背を向けて相手から逃げるだけが回避ではないのだ。ときに逃げは攻めの一手に繋がる。プランジェはそれから体を反転させて銃口をボルクスに向け、引き金を引いた。

 反応はボルクスの方が早かった。手甲で銃弾を防いで致命傷は避けられてしまったが、弾は肩と二の腕を掠めていった。

 「奏力で辺りを感知しなさい!」

 プランジェは顔をボルクスに向けたまま体中から微弱な奏力を放出させ、辺りの様子を探った。波状に広がった奏力から建物のイメージが伝わり、プランジェは目で見なくてもこれから降り立つ先が二階の床だということがわかり、傍にあった壁の影に隠れた。

 「良い子ね」

 クレシェントはそこで初めてほっとした顔を見せた。

 プランジェは荒い呼吸を整えながら、今さっき起きたことを思い返していた。見たこともない鋭利な刀に見知らぬ女の姿。それと右目がぼんやりと熱を持っていた。そのことに気を取られないよう頭を振り払って意識を元に戻した。

 「私としたことが戦闘中にうつつを抜かすなど…うっ…!」

 痛みで落としそうになった拳銃を握りながら太股を押さえた。細い矢が肉を貫いてその途中でぴったりと止まっている。プランジェは短刀でその間を切って矢を取り除いた。

 見た目の割りに出血が収まっているのはクレシェントから譲り受けた血のお陰だった。響詩者でないものが抽象種として覚醒するシンボルの共産は、純粋種の心臓の心的投影を相手の処女の庭園に植え付け、そして鍵となる血液を体内に含ませることによって執り行われる。プランジェが響詩者として覚醒したと同時に、彼女は壊乱の魔姫である因子を受け継いでしまっていた。故にその力はクレシェントに劣るものの、超人的な体の再生能力は確かにその小さな体に刻まれていた。

 「さて…状況はあちらに分があるが…どうする?」

 プランジェが凭れかかっている場所は二階の通路の壁で、通路は左右に伸びて両方とも相手側の場所に繋がっているようだった。通路の壁は途中、幾つか穴があってそこから辺りを見回せた。

 試しにプランジェはその窓ガラスのない穴から様子を伺ってみた。ボルクスの姿が壁に沿って見える。その格好はプランジェが隠れている壁に向かって矢を定めていた。

 ふとプランジェはこちらの居場所もわからないのにどこを狙っているのだろうと思い、そして電撃のような閃きが脳裏を過ぎると、そこから一目散に走り出した。

 弓には同時に最大七本まで矢が装填できるように窪みがあった。その窪みに矢が備え付けられると、矢の先っぽはオレンジ色の炎に包まれてそのまま通路の一番左に向かって先ずは一本が放たれた。

 『バステマイア・ラディオール(冷めた踊り子よ)』

 一本の矢が放たれると、それに続いて指先から流れるように矢が弦から離れていった。放たれた矢は通路の壁を貫通して内側の壁に減り込むとそこから間欠泉のように火を噴いた。その光景が通路を命からがらに走り抜けるプランジェの後を追いかける。

 「(直撃でなくても構うものか…!)」

 衝撃と上から落ちてくる瓦礫を避けながら、プランジェは足を動かして窓に向かい、水平に拳銃を差し出して引き金を間隔を持って引いた。

 弾丸が窓の中から飛び出して緩やかな弧を横に描いて突き進む。それでもボルクスは避けようともせずに弓の先を光った場所に向かって曲げ、その予想進路に残った二発の矢を射った。ボルクスの右耳が破裂する。と同時に通路の残った場所は粉塵と火の粉を上げた。他の弾は外れて床を跳弾していった。

 火煙が天井に向かって舞い上がる中、通路の真ん中より少し左から起きた煙を掻き分けてプランジェがその手に開花の概念を携えて飛び出し、その先端をボルクスに向けて突き出した。

 『ジュブネ・パラール・エドナス(無骨な指先が開いて)』

 青い刃を重ねて作り上げた一本の棘がプランジェの体と共に宙を滑走する。その光を見た途端、ボルクスは即座に一本の矢を取り出してそこに強い奏力を込めた。

 『パラデュエイト・ラスカル・ラディオール(気狂って喜ぶ踊り子よ)』

 矢から青い暗闇が捻れながら現れ、矢尻に纏わり付きながら笠の形になってその棘に向かって放たれた。棘の先と青い闇がぶつかり合い、プランジェは宙に留まりながら腕に力を入れた。と同時に概念と概念を通してボルクスの隠れた意思が彼女の脳に響いた。

 その女はかつて踊り子だった。音楽の代わりに概念を使った煌びやかな踊りは見事なもので、それに合わせた奇抜な服装や髪型は見るものを魅了した。美しい踊り子だった。誰もが喝采を送り、称賛と名誉を彼女に捧げた。しかし本当は誰も彼女の本当の姿を見ていなかった。その踊り子が身に着けていたものはどれもまやかしで、概念が解けてしまえば女は火が消えたかのように自分の中に閉じ篭ってしまうのだ。そうして自分を偽り続けた結果、いつしか彼女はどちらが本当の自分なのかわからなくなってしまった。やがて人の目から逃げる為に部屋に閉じ篭り、自分の姿を見たくないが為に傍にあった鏡を壊していった。いつしか自分を解き放った概念は自らを閉じ込める為のものに変わり、もう二度と偽りの自分を見ないように目玉を刳り貫いた。踊り子は喜び、外に出てみたがもう誰も彼女に熱を送ることはなかった。気付けば踊り子は口も効けなくなっていた。そして自分の居場所すらどこにもなくなった。踊り子は良しとした。居場所がないのならまた着飾って踊れば良い。しかしもうそれは出来なかった。偽ることは出来ない。何故ならもう彼女の体は踊る為の体ではなかったからだ。女はそれも良しとした。良しとしたのだ。結局の所、彼女にとってはもうそうするしかなかった。

 「それが傍から見れば幸せなのか…それとも不幸なのかは誰にもわからない」

 プランジェは右肩に浅い風穴を負ってしまっていた。それに対してボルクスは脇腹を完全に貫かれて片膝を着いてしまっていた。お互いの概念は消滅して同じ土俵に立っている。

 「哀れみか同情か…どちらにしろ、それが貴様があの女を手もとに置いた理由か…。本来ならば誰であっても寄せ付けてはならないだろうに…」

 「惚れた訳でも恋焦がれた訳でもねえ…。俺は踊っていた、嘘を着飾っていた頃を知らねえ。だがあれには存在できるだけの…最低限の居場所が必要なんだよ。化け物でも役に立てば飯は食える。何も知らねえ余所者に、好き勝手される訳にはいかねえんだよ!」

 そういって脇腹からの出血などお構いなしに立ち上がり、右手の甲を脱ぎ捨てた。

 「まさかそれは…!」

 右手は辛うじて人の形を保っていた自閉概念と化していた。既に腕の関節の辺りまで侵食され、皮膚の表面は自分勝手に動き回っていた。

 「やはり無事ではないと思っていたが…」

 「あの女のお陰で普段よりは大分マシな方だがな。それよりもさっさと逃げた方が良いんじゃねえのか?こっからは狩猟じゃねえ、ただ獲物を貪る…捕食だ」

 プランジェははっとしたようにその場から飛び退いた。

 『ニーダレット・エステランザ・ラディオール(不幸を繕った踊り子よ)』

 腰から矢を一本取り出して弦にぴたりとくっ付けると、矢は光を点しながら揺らめいた。そしてその大きさは弦を越えて一本の矢から波紋へと成り代わった。

 「異なる概念が組み合わされて…それも響詩者と嘆歌者のものを…。いけない!プランジェ、私と代わりなさい!それは…アイロニーの矛を凌いだものよ!」

 言葉の途中でクレシェントは概念を繰り出そうとしたが、魔姫化による後遺症の為かぐらりと頭が揺れて尻餅を着いてしまった。

 「こんな時に…!」

 弓に装填された概念が嘆歌者の自閉概念に覆われ、それは宛ら響詩者が自らを皮肉って生じる盾と似ていた。しかしそれは矛であり盾であり、それ自体が拒絶の他に自己の絶対的な肯定を兼ね備えた『ノエシスの矛盾』と呼ばれた現象だった。そして嘆歌者になかった自己の解放が付け加わり、その現象は後に『アポリアの槍』として語り継がれる。だがその光景は蛭のようにびろびろと蠢きながら矢が犯されているかのようだった。

 「二対一だと…卑怯だと言わせねえぞ…。これでも体張ってんだからよ…なぁ、ティーレクーク…」

 その異様な概念を前にプランジェは奏力を溜めながらも目を瞑って左足を半歩下がらせ、両手を腰に回して宛ら目に見えない刀を拵えた格好を取った。

 「駄目よプランジェ…貴女はまだ盾を使うことに慣れていない…逃げて…!」

 事実、プランジェは盾を扱うことですら容易ではなかった。

 しかしそのことに気遣いをかけるつもりもないようにボルクスは弦からは手を離した。女性の悲鳴のような鳴き声を上げて自閉概念に覆われたボルクスの概念が伸びる。それは矢とはかけ離れ、一つの生物のように宙を駆け巡りながらプランジェに牙を剥いた。その方向は目を開けていなければわからない、真上からの強襲だった。

 一刀両断、そう心の中で念じた後にプランジェは目を見開いた。その一瞬、右目が輝いた。

 『ベレチア・ジュブネ・パラール(戦死者の指を集めて)』

 無数の刃が一つに収束し、一本の刀となってプランジェの手に握られる。その刀を下から切り上げ、ボルクスとティーレクークの概念を真っ向から切り裂いていった。尚も矢は進撃を続けるが露すら切れる名刀の前では歯が立たず、そのまま矢の最後まで真っ二つにされていった。

 その光景に誰もが絶句した。年端のいかない少女が巨大な蛇の化け物を叩き切った。そんな風に見えてならなかった。切られた矢の断片は床にのた打ち回って虫の息になっている。同時にボルクスの体からは大量の汗が流れ、必死に腕の痛みに耐えていた。

 「糞がっ…!大人しく、してろ…!」

 その言葉に反抗するように嘆歌者の断片はボルクスの腕から離れ、悲鳴を背中に横たわっていた本当の持ち主の下に迫っていった。強い心の解放に当てられて拠り所を失った自閉概念は声にならない苦痛の叫びを上げながらティーレクークの体の中に入り込んだ。

 「畜生が…」右腕を失い、膝を落として二階を見詰めた。

 その途端、声にならなかった苦痛の叫びが肉体を得たことによってティーレクークの口から叫ばれる。だがその悲鳴はやけに甲高く、機械音のようにも電子音のようにも聞いて取れた。自閉概念が仕切りに頭を抑えながらふらふらと足をもたつかせている。そして大きな悲鳴を上げてティーレクークの体が手摺から転げ落ち、床に落下していった。

 「何が起こっているというのだ…」

 「彼女の自閉概念が苦しんでいるのよ…。貴女の開放的な概念に当てられて、日の光に焦がされるように…」

 やっとのこと体を動かせるようになったクレシェントはプランジェの傍に寄った。

 「一部なら兎も角、核を傷付けられた自閉概念は自らの防衛機能として自我を無意識に追いやってしまう。それは人格をすり減らし、あるがままの認識を捨て去って更に心の闇に埋まっていく。やがて歩く植物人間となってしまい、その苦しみを知らぬまま永遠を生き続ける…」

 「ふざ…けんじゃねえぞ…!」

 絶望に打ちひしがれている二人を他所に右腕を失ったボルクスが体を引き摺りながら前に進んでいった。

 「生きながら…そのことを気付かねえなんざ…あって良いことじゃねえんだよ…。その為に…俺がいるんだろうが…!」

 「…止せ!そんなことをしてはお前の体が…」

 「知ったことかよ…俺は…あいつに居場所を与えてやらなきゃならねえ…ごみ溜めみてえなところで、馬鹿みたいに踊ってる奴には…そういう場所が必要なんだよ…」

 プランジェの説得を投げ捨てながらひたすらに前に進んでいく。その姿を見てプランジェは居た堪れない気持ちになった。それはクレシェントも同じだったが、どうしようもないのだと自分にいい聞かせていた。それは嘆歌者の、彼女自身がそう望んでしまっているからだった。何が起きてああなったのかはわからない。しかし日の光を捨て、闇を望んでしまった以上もう誰にも止められなかった。

 「…プランジェ、行きましょう。私たちに彼女の…二人の合間に入る資格はないわ。辛いことだけど、あれは彼女が望んだことなのよ」

 「しかし…」

 「あの状態にまで陥ってしまったらもう…元に戻ることは出来ないわ。あの人が自分の肉体を犠牲にしてやっと彼女の精神が維持される。この世界の灰色の定め。具現化の木の実を貪った私たちのツケよ…」

 そっとクレシェントはプランジェの肩に手を寄せた。

 「それは本当に…彼らが望んだことなのでしょうか?」

 その言葉と、初めて自分の指示に従わなかったプランジェにクレシェントは驚いた。寄せていた手が離され、クレシェントの視界からプランジェの姿が縮小していく。そしてクレシェントはヒトが成す奇跡を目の当たりにした。

 プランジェは紫薇の世界に渡ってから実に様々な書籍に目を通した。それらは彼女に多大な刺激を齎し、取り分け悲しい結末で締め括る純文学はプランジェの心を掻き乱した。手は触れられない。それはわかっている。しかし救いのない、希望を失ったものに対して何か出来ることはないのか。そう思えば思うほど胸が痛くなる。その胸の痛みは何故かどうしようもなくプランジェの心に響いていた。

 「せめて触れさせろ、お前たちの不幸が少しでも和らぐように…」

 ボルクスとティーレクーク、二人の前でプランジェは静かに目を閉じた。深い闇が広がる。ふとその中でプランジェは黄昏を見た。橙色に染まる渚、その海と砂浜の真ん中に一本の枝が刺さっていた。その枝には夕日に染まった儚げな薄い桃色の花が開いている。小さく、今にも消えてしまいそうな花だった。そしてその花がぽつりと落ちて引き潮に飲まれると、プランジェはじわりと胸に痛みを感じた。

 黄金の光が肩から滑り落ちる。その光はプランジェそのものから発せられていた。燐粉にも似た黄金の光がプランジェの体を包み、辺りを照らし出すと閉じていたプランジェの右目がゆっくりと開かれた。ただその瞳は渚を染めていた黄昏と同じ色をしていた。

 「プランジェ、貴女は…」

 不幸な二人に差し出された手から黄金の光が止め処なく流れる。その光を浴びながら自らの存在を否定してしまった嘆歌者は丸まった自分の体を感じ始め、その傍に寄り添っていた存在に気が付いた。全身を覆っていた甲殻は日の光に当てられた蛆のように四方に散り散りになり、そのまま蒸発していくとすらりと伸びた裸の女が露になった。嘆歌者はもう一度、日の光のもとで生きる機会を与えられたのだ。だがその証としてボルクスの右腕は自閉概念に捕食された状態のままだった。

 黄金の光は奇跡がその役目を終えると共に消え去った。光の後にプランジェの体が横たわる。その傍にはまるで偉大なる主の身技を仰いだ二人がいて、クレシェントは間近で見なかったこともあって足が動き出すまで時間がかからなかった。急いでプランジェの傍に駆け付け、彼女の体を起こすとクレシェントはぎょっとした。プランジェの意識は確かに白濁している。だがその中にまるで自らの存在を示すかのように右目が開いていた。

 濃い、哀愁と後悔を思わせる黄昏色の光が普段の薄いブルーの瞳を押し退けて輝いている。クレシェントはそこにどうしようもないほどの意思を感じた。まるで自分の命を断とうとしてまでも何かを達する。クレシェントはそれが理解できなかった。だがその光が徐々に薄らいでいって瞼が閉じられると、プランジェの意識は再覚醒した。

 「…プランジェ」

 貴女は誰なの?そう口にしようとした唇を慌てて変えた。

 「クレシェント様…私は…」

 クレシェントの顔を見た後に天井をぽーっと眺めて固まった。意識はそれほどはっきりしていないらしかった。

 「…ここでの役目は終わったわ。次に進みましょう」

 「…はい」

 今起こったことを思い出させないようにクレシェントはゆっくりと喋った口に反してそそくさとプランジェの体を抱かかえると、その場から走り出した。クレシェントは直感的にあの奇跡は危険だと感じ取っていた。そして走りながらかつてプランジェの姉、ミューティと交わした約束を思い返していた。

 「(ミューティ、貴女は何を知っているの?…どうしてあんな約束を私に話したの?プランジェのあの姿、あれはまるで…)」

 そう思ったことを途中で蹴飛ばし、クレシェントは足に力を入れて先に進んだ。


 取り残されたその部屋で裸になった女の顔を、右腕のない男はじっと見詰めた。窪んでいた女の目にはいつの間にか瞼が出来ていて、薄っすらと瞼が開かれるとそこには失った筈の瞳が戻っていた。男はそっと女の頬に手を寄せると、その奇跡をまじまじと実感した。

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