第11話袖直し
ある日の放課後。農楽部で柿の収穫の手伝いの依頼を済ませ部室に戻る冬馬。
「戻りました〜」
「シロくんお疲れ様です!」
「お疲れ様冬馬くん。今日はロイヤルミルクティーだよ。ご褒美と一緒にお上がり」
「ありがとうございます、部長と杏果さんはまだ帰ってないんですか?」
部室には美月ちゃんと優斗先輩の2人だけだった。
「杏果ちゃんはまだ柔道部でスパーリングの相手をしてると思うよ。なんでも週末試合があるみたいだからね、まったりやって欲しいんだって。琢磨くんはもうすぐ帰ってくるんじゃないかな」
そう言いながらミルクティーとご褒美を用意してくれた。
今日はスイートポテトだ。
「シロくんその長袖どうしたの?」
ミルクティーをいただこうとした時美月ちゃんが右手の袖の所を指差しながら聞いてきた。
見てみると袖のところがほつれて穴が空いていた。
「あ〜…もしかしたら収穫の時木に引っ掛けちゃったのかも」
「怪我はないかい?」
「怪我は大丈夫ですけど…どうしようかな…」
結構しっかり穴が空いちゃってる…
「も、もし良かったら直そっか?」
「直せるの?」
「それくらいの穴なら塞いだらなんとかなると思うよ」
美月ちゃんが自分の鞄から小さな箱を取り出した。
中には腹が数本と小さなハサミ、糸が何種類か入っていた。
「ほぅ…それって小さいけど…裁縫セットかい?」
「はい、箱とかは自分で作って持ち運びやすいようにしたんです。持ってると何かと便利なので…」
「美月ちゃんが自分で作ったんだ、結構しっかり出来てるし凄いね」
褒められ慣れてないのか少し照れてるみたい。
美月ちゃんに長袖を渡すとすぐ直し始めてくれた。
「ん〜…これは中々…手慣れてるね。普段から裁縫とかはするの?」
「はい。妹がよく服を作って欲しいって言ってくるので」
服まで自作できるのか。
美月ちゃんってもしかして万能の人だったりするのだろうか。
「優斗先輩も裁縫とかするんですか?」
「僕は出来るけどせいぜい応急処置程度さ。杏果ちゃんがよくボタンを取れかけにしてくるからね。それを直せるくらいだよ」
それでも十分だと思うけど…
「出来ました!」
いつの間にか穴は塞がっていた。あっという間だ。
直った長袖を早速着てみる。
「キツくなったりしてないかな?」
「うん、全然大丈夫!あと見えないし」
完璧な処置だ。
「良かった♪」
にっこり微笑んで裁縫セットを鞄にしまっている。やっぱり美月ちゃんって女神様だな。
「ふむ…見事なお手前だな」
「部長!いつの間に!」
後ろに部長がいた。いたなら声掛けてくれたらいいのに…
「おかえり琢磨くん。今お茶入れるね」
「部長さんおかえりなさい」
「あぁただいま。美月ちゃん、ちょっといいかな?お願いというか〜力を貸して欲しいんだ」
「なんでしょうか?」
「ちょっとこっちにおいで。優斗も来てくれ」
あれ?僕だけ除け者?
でも何故だろう…美月ちゃんにお願いするときの部長の顔…すっごくニヤついてたけど…
部長の不適な笑みに嫌な予感を感じる冬馬だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます