第165話 鬼の戦い
最強の鬼同士が本気でぶつかり合う余波で、研究所への被害も甚大に成ると思われたが、晶真が洗脳した【阿良巳波器】(アラミバキ)という強力な結界を張る種族10体が共同で結界を張っているため今のところ被害はない。
この【阿良巳波器】は陶器と生物の中間の様な種族で、守りの要として配下に入れた。
彼等は結界を張る時に魂を使って、自らの命を削って結界を張るため強力な結界になるのだ。
彼等が結界を張っている限りはこの施設も安心だろう。
心配なのはたまにズド〜ン、ドゴ〜ンという爆音と共に、激震が襲ってくるくらいか。
今もその激震に怯え慄く者がいる。
「キャッ! こ、この激震はなんなの!?」
安全な研究所内を警備巡回で見回っている時、突然の激震に怯え隣に居るフィレスにしがみ付く黒石七菜だ。
少し前までは黒石の力に酔いしれて虚勢を張っていたお嬢様だったが、優畄達や鬼、その他の黒石の者達の強さの前に現実を知り、戦う事に恐れを抱いてしまったのだ。
刹那やひなた達の様に力を使う事による弊害にも気付いてしまったお嬢様。
(…… こ、怖いあの戦いに巻き込まれれたら私は殺されてしまう……そ、それに力を使えば逃げる事ぐらいは出来ると思う。でも力を使い過ぎるとあの人達の様に人格が変わってしまう……)
今では年相応に怖がり怯えるだけの普通のお嬢様に成り下がってしまっている彼女。
「外で戦っている鬼達の戦闘の余波でしょう。大丈夫です、お嬢様は必ず私が守り抜いてみせます。ご安心ください」
フィレスがそっと七菜を抱擁して安心させる。
「フ、フィレス……」
今では素直に彼を受け入れ様と思い始めている彼女。早く戦いの無い日常に戻りたいと切実に思うのだ。
そんな呑気な2人にお構いなく、鬼達の戦いも激しく成っていく。
腐獅子が右腕の【腐敗】で辺り一面を腐らせれば、夜鶴姥童子が【紫電】でその腐敗を残らず焼き払う。
パンチ一発で小山が吹き飛ぶ激闘が続く中、黒川晶真は冷静に状況を見極める。
「うむ、力は五分五分だが、あの鬼に鬼の里で見られた躊躇が見られない。ここは手札を切るべきか……」
初めは腐獅子の限界を超えた成長を見越して、夜鶴姥童子の洗脳も視野に入れていたが、彼の予想外の成長と強さに、そして夜鶴姥童子の更なる進化を恐れた晶真が今のうちに始末しておこうと判断したのだ。
晶真はほんの少しだけ考える素振りを見せるとある秘策を投入する事にした。
「サアラ、5番と12番を出すんだ」
「はい」
晶真は腐獅子以外の配下をNo.で呼んでいる。彼等の事を道具としか見ていない彼には指して気にする事ではないのだ。
晶真が新たに投入したのは【アマメハギ】族の霧楽という鬼と、【飛天族】の筆頭戦士の男だ。
この2体は晶真によって限界まで強化が済んでおり、
霧楽は霧になる能力【濃霧】の更なる強化で、今では10分間の間自在に霧に変化出来る様に成っている。
【飛天族】の戦士は上空100mからの空槍による狙撃【蒼撃】が脅威だ。この【蒼撃】は投げた後も手元に戻る槍で、強化した末の威力は迫撃砲の着弾に匹敵する。
この2体では束に成っても夜鶴姥童子一体にも敵わない。だが、彼に隙を作ることは出来るだろう。
その結果、この2体は夜鶴姥童子に倒されてしまうかも知れない。それでも晶真には許容範囲内だ。
一対一の戦い何ぞには興味はない。鬼の誇りや矜持なぞ知った事では無い、ただ邪魔者を排除して任された仕事をこなすだけ。
「今は互角だが腐獅子の成長はもう頭打ちだ。だが奴にはまだ伸び代がある。ここで始末しておく方がよさそうだ。さあ最強の鬼がどう出るか見せてもらおうか」
2体の鬼がぶつかり合う中、霧に変化した霧楽が夜鶴姥童子の背後に回る。そして実体化すると同時に夜鶴姥童子の腕に手刀による裂傷を与えた。
本来は背中を狙った攻撃だったが、動きが早すぎて腕にそれてしまったのだが、攻撃が当たったのなら問題はないだろう。
「ぬうっ!?」
邪魔をするなとばかりに振り向き様に拳を繰り出すが、霧に成って交わされてしまう夜鶴姥童子。
その隙を逃さないとばかりに腐獅子の【蒙侵衝】(モウシンショウ)の攻撃がクリーンヒットする。
「グガァ!」
今まで直撃は避けていた右腕の腐手による攻撃で、直撃を受けた左腕の肘から先が物凄い速さで腐り始めた。
あの里で戦った時の10倍、腐敗の力を一点に集めた触れる物全てを腐らせる腐獅子の一撃は、鬼の強靭な肉体をも侵食する程。
夜鶴姥童子の判断は早かった、もはや左腕は使えないとばかりに自らの手刀で、腐敗が及ばない腕の付け根の辺りで斬り飛ばし【紫電】で焼き払ったのだ。
そんな夜鶴姥童子に追い討ちとばかりに、空からの空爆が降り注いでくる。
「ウヌアァア〜〜!! 貴様らぁ!」
危険なのは腐獅子の腐手のみ。それさえ喰らわなければ良いのだが、攻撃の起点起点で邪魔をする様に邪魔をしてくる参入者にブチ切れた夜鶴姥童子。
全方向へ【紫電】を放つ技【紫電.荒魂廻凛】(シデン.アラコン)を放ったのだ。
全方向への【紫電】のフルバースト。半径1kmが円形に消し飛んでしまう。
残ったのは衝撃波を放つ事で逃れはしたが、体表が焼き爛れ吹き飛ばされた腐獅子と結界を消し飛ばされ入り口付近が吹き飛んだ研究所だけ。
誇り高き鬼の戦いを汚した2体の参入者は跡形も無く消滅してしまった様だ。
「…… 化け物め」
晶真達も何とか生き延びた様だが、彼の授皇人形のサアラが右手を失い、彼の配下もその殆どを消失させてしまったのだ。
「グッ……わ、私の腕が……」
腕を失った痛みからその場に跪くサアラ。彼女は黒石の闇で強化されてはいるが痛いものは痛いのだ。
「ふん、まあいい。配下なぞ後で幾らでも作れる。今はあの鬼にトドメを刺すことが優先だ」
自身の相方の怪我なぞまるで気にした様子の見られない晶真。
【紫電.荒魂廻凛】を放って動きを止めているとはいえ、邪眼をかけるために近くのはリスクが高すぎる。やはりここで倒しておくのがベストだろう。
「腐獅子よ、直ちにその者を仕留めるのだ」
『グルルガァ……』
了承したとばかりに夜鶴姥童子に近いていく腐獅子。一方夜鶴姥童子はフルバーストの影響で立ち上がれずその場に座している。
彼最強の技【紫電.荒魂廻凛】はノーリスクで放てるほど生やさしいものではない。技を放った後30秒間程動けなく成ってしまうのだ。
「獅子ノォ……」
そんな夜鶴姥童子の呼び掛けにも反応する事なく腐獅子が彼に近づく。
『グルルル……』
そんな彼も魂で拒んでいるのか歩みが遅い。
「まだ抵抗するとは…… まったく鬼の精神というものはゴキブリの様にしぶとい物だな。よし、この戦いが終わったら奴の脳を改造するとしよう」
陣斗亡き後、研究方面の権限が晶真に委譲されている。そのため配下の者を弄り放題。
邪眼使いに人の心は無い。そんな事は梅雨知らぬ腐獅子は、動けぬ夜鶴姥童子を仕留めるため腐手を掲げると、夜鶴姥童子目掛けて振り下ろす。
『グルッ?!』
だが、腐獅子の腐手が夜鶴姥童子に当たる刹那、バチ〜ン! とばかりに何者かがその腐手を蹴り上げたのだ。
「間に合ったようで〜ス」
「ぼ、ボブ殿!」
鬼達の戦いでこの辺りは更地になり見通しが良くなっていた。ちょうど1kmの先から見た夜鶴姥童子の危機にボブが駆け付けたのだ。
「オゥ!? ワツッ!? 私〜シの一張羅の靴がァ?!」
そう、腐獅子の腐手を蹴り上げた靴が腐り出したのだ。慌てて靴を脱ぎ捨てるボブ、靴はグズグズに崩れてしまったが、足の方は超回復で大丈夫だった様だ。
「助かったボブ殿、この恩は必ず返そう!」
「ヌエミが無事でよかったで〜ス、さあ反撃で〜ス!」
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