第156話 一蹴


それまでの友達同士の戯れ合いとは違う、互いに明確な殺意を持った者同士が敵同士として相対すのだ。


「ヒナ、あのデカブツを頼めるか?」


「うん任せて。しっかりと決着をつけて来てね」


「ああ」


優畄がアルダーの相手をする。ヒナも友達だった刹那やマリーダの事が気になるが、【ギガノマキア改】の相手をする。


彼女も思うところはある。だがそれでも優畄に

彼等の事を託したのだ。


「ルナ今じゃ!」


「はい!」


ゲートから溢れ出した雑魚は千姫とルナの2人が、結界術と光の力を使い対処していく。


「そこのトカゲはァ、私ァしが相手で〜ス!」


ボブも千姫達を守る様に体長8m程のドラゴンと思われるトカゲ4体の相手をする。



そして相対する刹那達アルダーと優畄、両者の体が消えたと同時に何かがぶつかり合う衝撃音が辺りに響き渡る。


亜神のスピードは亜高速、両者がぶつかり合う衝撃波だけで付近が100mに渡り消滅していく。


優畄は町に被害が出ない様に、戦闘の際に戦う位置を移していたが、強大な力のぶつかり合いに大地が保たず悲鳴をあげる。


「チッ! (不味い、このままでは千姫達はおろか、辺り一体に多大な被害を与えてしまう)


優畄が千姫達と付近の被害を気にする中、お構いなしに攻めてくるアルダー。


『そらそら! 他に気を使う暇が貴様にあるのか【ウェータラ.アーユ】!』


超越者であるアルダーにとって周りの人や地がどうなろうとも関係ない。お構いなく強力な攻撃を連発してくる。


そこで優畄はアルダーの攻撃をいなしながら、千姫が違う次元を開いてゲートを繋いでいた事を思い出す。それに習い優畄も次元を開いてみる事にしたのだ。


優畄と融合した者の中に【次元烏】という次元を行き来出来る種族の能力【空間把握】と【庾】という種族の、どこにいても元の位置に戻る能力【軌帰】とを掛け合わせて創り出した新しい能力【次元融合】を放ったのど。


この能力は今居るその場を生物のいない別次元と融合させる事で隔離して、被害を外に及ぼさない為の能力。


優畄が考え技を作り放つまでのその間僅か0.5秒程の早技。マリアの様に幾つもの次元に扉を開きゲートを創るなんてデタラメは出来ないが、これぐらいなら今の優畄には朝飯前なのだ。


『ヌッ、次元を融合させたのか。あの町に住む者達を気遣っての行動だろうが、ただの虫ケラなぞに気を削がれおって、その気遣いが無駄だという事を貴様に教えてやろう。フハッハハハハハ!』


ただの人なぞ虫ケラ同然とばかりに優畄の気遣いを笑い捨てるアルダー。もはや彼等に人の心は皆無の様子。


「本当に人の心は残っていない様だな…… ならば一切の躊躇もなくお前達を倒せる」


『フン、ならば見せてみせよ。貴様にこの攻撃を交わす事が出来るのならな【ビーダ.ダーキ】!』



アルダーが牽制を兼ねて数千という数の【チャクラム】を自身の前に展開させる。


この【チャクラム】はそれまでの物とは別物で、高速回転している刃の部分は白く発光しており、常時3000度の高熱を発している。その切れ味はダイヤモドですら紙同然の切れ味だ。


先程戦った際にまだ力の差を感じたアルダーは、物量による消耗戦、長期戦に持ち込む腹積りなのだ。


人の時の刹那なら力の差が有ったならば、その壁を越えようとなりふり構わず全力で向かって来た。


だが今のアルダーは勝つ為に無駄な行動を省いた合理性だけ。そこには友だった者と戦う事への葛藤も迷いも一切感じられない。


優畄が【次元融合】を使ったのには理由が2つ有る。1つは周りに被害が及ばない様にとの配慮と、もう1つは自身が本気を出す為の下地だ。



「我が友だった刹那よ、お前との約束を今ここで果たそう!」


そんなアルダーの思惑なぞ知った事かとばかりに優畄が拳に力を集めていく。そしてアルダーが瞬きをする間も無く優畄が消えると同時に、アルダーの体が後方に吹き飛ばされたのだ。


『なっにィ!?』


何が起きたのか分からないまま吹き飛ばされたアルダーが、状況を理解する前に再びその体が空中に打ち上げられる。


『ガァッ!』


そこからの連続攻撃は時間にしておよそ10秒程、だがその間にアルダーが受けた攻撃回数はゆうに数万発を超える。手足が千切れ飛び全身の骨が粉砕されていく。


亜神の強靭な肉体が破壊され、その超回復能力も意味をなさない優畄の連続攻撃は、アルダーの肉体が完全に消滅して無くなるまで続いた。



『……ゆ、優畄……』



優畄による本気の本気の攻撃。一切の情けをかける事なく無慈悲に対象を殲滅する必殺の攻撃。


アルダーが最後に発した言葉は優畄の名前だった。それが倒された事による恨みの言葉なのか、勝者を称賛する為の賞賛言葉なのか、はたまた最後に刹那だった時の人格が戻った事によるものなのか、確かな事は分からない。


そんな刹那の最後の言葉にも優畄は振り返る事なく【次元融合】を閉じた。


人を辞める前の友の最後の願いを叶えた形になる優畄。胸の奥がギュッと締め付けられる。


だがもう彼に立ち止まるという選択肢は無いのだ。


ーー


一方【ギガノマキア改】と戦っているヒナは、町への被害を避ける為、郊外へと【ギガノマキア改】を誘導しながら戦っていた。


『おのれちょこまかと小娘ェ! 【ギガントフォーゲル】!」


【ギガノマキ改】の背中にあるバックパックから数百発のミサイルが放たれ、ヒナをつい従いする様に迫ってくる。


「一閃、百花繚乱!」


ヒナの高速の斬撃が360度全ての方向に放たれて放たれたミサイルを迎撃していく。ヒナには一発も当たる事なく全てのミサイルが迎撃される。


『ウヌゥウウ!! ならばこれならどうだ【アトミックレイ】!」


今度は【ギガノマキア改】の至る所から筒状の砲台が飛び出して全方位に向けて熱線レーザーを放ち出したのだ。


それと共に本体の回りを飛んでいた自動小型迎撃装置の【ヴァルキリー】が一斉に攻撃を開始したのだ。


まさに全身火薬庫の【ギガノマキア改】。それ等の攻撃をアクロバティックな動きと、光の力を込めた刀で弾きながら華麗に交わすヒナは、【ギガノマキア改】への接近を試みる。


長距離での撃ち合いは不利、相手は巨大で小回りは効かない。ならば小回りを生かした接近戦に持ち込むのがベスト。


だがヒナの接近を読んでいたとばかりに背中から隠し腕、2本の特殊アーム【ヨルムンガンド】が飛び出してヒナの体を拘束したのだ。


「なっ!」


そう圧倒的に見えた数々の遠距離攻撃は囮で、本命はヒナが接近戦に持ち込むその状態を想定していた隠し腕による拘束。


「キヒッヒヒ! 動きの速さに焦りはしたが捕まえてしまえばいこちらのものだ!」


ヒナを捕らえた事で奇声を上げる陣斗。


「この程度の拘束で私を止められると思ったか!」


だがヒナが桁違いの腕力によってバキバキとアームを振り解きにかかる。


今のヒナの力ならこの拘束から逃れるのは簡単だ。ものの30秒も有れば出来る事。だがそれを予測した陣斗の行動も早かった。


『バカめ! 喰らえ【ギガントスマッシー】!!」


【ギガノマキア改】の腹部にある菱形のクリスタルが「キ〜〜ン」という音と共に輝き始める。そしてアームに捕まったヒナ目掛けて10m×10mの特大の光線が放たれたのだ。


光線は遥か彼方までその斜線を残すとエネルギーの大爆発と共に着弾地点に半径1km四方のクレーターを作り出した。


ヒナが抜け出すよりも光線のチャージの方が早かったため、ヒナは【ギガントスマッシャー】の直撃を受けた形になる。


「ヒ、ヒナ!」


「い、嫌あぁあ〜!」


千姫の貼った結界の中で見ていた2人から悲鳴が上がる中、砂埃が晴れていく。


するとそこには球状の結界に守られて擦り傷一つないヒナがいたのだ。


『ば、バカな! 【ギガントスマッシャー】の直撃を受けて生きているなんてあり得ない!!』


ヒナが張った結界は千姫のオハコの【絶対世界】だ。これは優畄と一緒に千姫から教わったもので、優畄の方は才能が無かったが、ヒナのその防御性能は千姫のものを遥かに凌ぐ。


「千姫さんに教わっておいて良かった。今度はこっちらの番よ、成敗してあげるわ!」




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