第154話 殺人
刹那が狂気の道を進む決意を決めたその頃、優畄達は黒石の実験施設を急襲していた。
急襲部隊のメンバーは優畄とヒナ、ボブの3人だ。千姫とルナは後方に控えて彼等を待つ。
その施設は捉えた怪異や惟神達を使った、悍ましい実験をしている施設だと千姫から聞いている。
何度か仲間を救出しようと襲撃をしているが、強力な結界、黒雨島の代官屋敷にあったものと同じ結界があるため、怪異や惟神では近づく事すら出来ないのだ。
だが今の優畄達ならその結界を破る事は容易い。
「今から結界を破る」
優畄は結界に手を触れると光の力を流し込み相殺させる。
施設内にはまだ生き残りがいるかも知れないため施設内をくまなく探す。施設内には科学者や警備の者がおり、優畄達の急襲に慌てふためいていた。
中の人間はヒナの峰打ちによる高速の当身と、優畄が受け継いだ能力【停電】という、その場に留まり放電し続ける能力を強化させたもので感電させて行動を封じる。
この能力は沼地に住むナマズと人を掛け合わせた様な見た目の、【沼蚓】という見た目は怖いが大人しい種族の能力だ。
目ためが恐ろしいという理不尽な理由で滅ぼされた彼等の怨念を浄化した際に託されたものだ。
電圧をスタンガンと同じ程度に合わせているため死ぬ事は無いが、気持ちいい程にバタバタと倒れていく。
「オ〜ウ、便利な能力で〜ス。私も欲しいで〜ス」
研究所内を生存者を探して進んで行くと、囚われた者達の切り刻まれたホルマリン漬けの標本などが、まるで勝利者のトロフィーを思わせる様に置かれている部屋を見つけた。
「…… なんて酷い……」
「人の所業ではないで〜ス……」
「…… 黒石は至る所でこの様な残酷な行為を行なっている。それを俺達が終わらせるんだ」
更に奥に進むとその部屋が有った。
凄惨な実験の跡を思わせる亡骸の入った装置や、カエルの解剖の様に開かれ置かれたた被験者。
中には解剖の途中だったのか、無惨に切り裂かれたまま苦悶の表情で死んでいる者までいる。
優畄が放った【停電】で気を失った人ご床に倒れている。
5台有った手術台の上にはまだ息のある者もいたが苦しみにのたうち、治す事も手遅れなただ死を待つだけの者だ。
「まだ息があるぞ!」
慌てて駆け寄り霊気を流し傷を癒やしてやるが、内臓を抜かれて出血も多く助かりそうもない。
今の優畄達なら重症者を癒やし失った体の部分を蘇生する事は出来る。だが体の3分の2の血液を失えば助ける事は難しい。来るのが遅すぎたのだ……
優畄達に出来るのは死ぬまでの間、痛みを和らげてやる事ぐらいだ。
「…… せめて痛みを忘れて眠りについてくれ」
傷口を塞いでもらい痛みを取り去ってもらったその者は、軽く微笑んだ後ゆっくりと息を引き取った。
そして霊体になった彼が優畄達に力を託そうとゆっくりと近づき、力拳を作るジェスチャーと共に優畄達に力を送る。
そして「ありがとう」と一言呟くと空に消えていった。
「クッ……もっと早く来てあげれば……」
「優畄、仕方なかったの自分を責めちゃダメ……」
「そうで〜ス、まだ生存者が居るかもしれませ〜ン。先を急ぐで〜ス」
ボブの言う通りまだ生存者がいるかも知れない。ここで嘆いている訳にはいかない。まだ彼等の助けを待っている者がいるかも知れないからだ。
研究所の奥は、厚さ50cmのチタン製シェルターで隔離されており、優畄達の襲撃にも関わらず実験が続けられていた。
「キャ〜! 助けてにゃ〜ん!」
どうやらこの研究所は、人と怪異や惟神の融合を目的に作られた研究所の様で、その奥にはその為の装置類まで設置されている。
そして今にもその装置が稼働する直前に優畄達が駆け付けたのだ。
厚さ50cmのチタン製強化シャッターがあるため、ここまで攻め入っては来ないだろうと甘く見ていた研究所の職員達は慌てふためいている。
「お、お前は黒石優畄! ど、どうしてここが?!」
この研究室に常備していた警備員がサブマシンガンを向けて発砲してくるが、ヒナが瞬く間にその弾丸を斬り落とす。
そして【停電】によってこの場にいた人間を行動不能にする。
だが主任の研究所員が行動不能になる直前に動物と怪異、惟神との合成生物の入っている檻を開け放ったのだ。
「…… こ、殺せ! そいつらを殺すんだ!」
痺れながらも合成生物に優畄達を襲えと命令する研究所主任。自身をそれなりに強化していたため、彼だけ【停電】に気を失わず耐えれたのだ。
この合成生物は脳もいじられているため研究所主任の命令に忠実なのだ。
檻から出て来たのはライオンや虎、ゴリラや熊などの猛獣と、【吼猫】という【ネコマタ】とも言われる種族の珍しい雄を組み合わせた生物。
幾度にも渡る残酷な実験によって自我は無い。
本来スマートな体型の【ネコマタ】が熊やゴリラなどと融合されているため、ゴリマッチョな見た目になっている。
【ネコマタ】は元来雌だけの種族だが、稀に三毛の雄が生まれる。【ネコマタ】の雄は雌より戦闘能力に優れており、彼等の能力【軟体】を使った素早く柔軟な戦い方を好む。
そこにゴリラや熊などのパワーが加わっているのだ。その強さは計り知れない。
【ネコマタ】と様々な猛獣との融合生物である【創獣傀兵】が闘争本能剥き出しで、人格も知性も無く、唸り声を上げながら優畄に近いて来る。
「哀れな…… 今楽にしてやるからな」
そして口の端から涎を滴らせながら飛びかかって来た【創獣傀兵】。
優畄は【創獣傀兵】の攻撃を交わすと同時にその額に手を添えた。軽く手で触れただけだがそれだけで充分だった。
優畄に触れられた【創獣傀兵】は一瞬で蒸発してしまい、その残酷な実験の犠牲者は消滅し消えて無くなったのだ。
「な、なっ、バカな! ……」
科学者主任もまさかこんなにあっさりと【創獣傀兵】が殺されるとは思っていなかった様で動揺を隠せない。
「…… な、なあ黒石で培った技術を提供する。だ、だから私を見逃してくれないか?!」
そして優畄達に命乞いを始める研究所主任。だがそんな彼を見る優畄達の視線は冷たかった。
この施設に入って見てきた悪魔の所業を見れば、ここにいる者に慈悲をかけ訳にはいかない。
「お前を生かしておけばまた新たな犠牲者が出る。ここに人間は居なかった、それだけだ」
「そ、そんな! わ、私を失えば科学の進歩は……」
優畄はかれに最後まで語らせはしなかった。彼の掌から放たれたバレーボール程の光の球が、研究所を、そこに居た全ての人間を消滅させた。
「……さあ行こう」
「うん」
初めて人を殺したがその対象が邪悪だったためか、あまりショックは感じない。
そんな優畄の手をいつものようにヒナが繋ぎ止める。彼女の温もりが修羅道を歩く優畄の心を癒やしていく。
「大丈夫で〜ス。2人ならァこの茨の道も乗り越えられま〜ス」
そしてただ1人生き残っていたネコマタを、生まれ故郷の里に送り届けてあげる。それは彼女の強い要望によるものだ。
彼女の里は黒石に襲撃された当時のままに荒れ果てた外観を晒しており、生存者が居る気配は無い。
「…… 私の、私達の楽しかった里が…… それにネコマタも私1人になってしまったにゃん……」
それでも彼女は1人里に残ると言う。
「仲間達との楽しい思い出が溢れたこの里を見捨てる訳にはいかないにゃん…… 私はここに残るにゃん。光の御子様、ありがとうございましたにゃん」
物言わぬ廃棄だけの里に彼女を1人残して優畄達は、茨の道のその先に進むのだ。
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