第149話 退却



その頃、黒石晶と黒石七彩の別働隊は優畄達が立ち寄りながら力を蓄えている、神社仏閣に先回りして

それを防止する任務についていた。


それはいわゆる2軍的な扱いで、鬼の里の襲撃に見合わないとマリアにこの仕事に回されたのだ。


「この者達が黒石優畄

の力になるというの? こ、こんな小さな者まで……」


もう何軒目か、同じ様な雑魚の処理に辟易している七彩。


「お嬢様、これも立派な任務です。頑張りましょう」


「わ、分かっているわよ!」


口では不満を吐くが、強者と戦う事に恐怖を感じる様になっていたお嬢様は内心ホッとしていた。


(もうあんな怖いのはいや。でもこの仕事なら大丈夫ね。そ、それに…… )


罪なき弱き者達を斬り裂きながら考える事はフィレスとの事。彼と2人きりというのも彼女にとっては嬉しいことなのだ。


弱き者達を殺す事に少しは罪悪感を覚えるが気にはしない。七彩も立派な黒石の者だという事だ。


そんな彼女の眼中に入っていない黒石晶は1人雑魚の相手をしながら愚痴を溢している。


「…… (チッ、何故私がこの様な雑魚の相手を…… マリアの奴【黒真戯 】すら貸してくれぬと吐かす。鬼の里の襲撃に使うというのは分かるが、これでは私の盾が無いではないか……)


盾になる者が居ないと愚痴る黒石晶。長年の生活で身についた、他者を利用した戦い方はそう簡単には直らない。


どこまでいっても自己中な男なのだ。


そして彼等はそれぞれに思惑を巡らせながら、流れ作業の様な雑魚狩りを続けるのだ。


ーー


別働隊が神社仏閣に集まる雑魚達を狩まくる中、彼等が去った神社仏閣に立ち寄った優畄達がその有様に驚愕する。


そこには破壊された建物と無残な弱き者達の亡骸があるだけだったのだ。


「…… な、なんて酷い……」


「どうしてこんな事が出来るの……」


「ひ、酷い……」


「黒石の闇は暗黒天の様に全ての生き物を貪って行くのじゃ」


優畄とヒナ、千姫とルナに別れて生き残りを探すが、状況的に見て絶望的だ……


「…… 優畄達が彼等から力を授かっている事を知ったのじゃ。もはや形振り構わぬ様じゃな……」


そんな中、母親の骸に守られる様に抱かれ、重症を負っている【山梟】一族の子供にルナが気付いた。


慌てて駆け寄り傷口を見るがもはや手遅れの状態だ。


「千姫様……」


「…… 可哀想だが手遅れじゃ、せめて苦しみから解放してあげるのじゃ」


ルナはその子に千姫から教わって使える様になった霊力を当てて、せめて痛みだけでも無くなる様にしてあげる。


ハアハアと苦しんでいたその子も、痛みが無くなったのか安らかな表情になっている。


そんな彼等の元にリンクで生き残りがいる事を知った優畄達が駆け付けた。


「ルナ、生き残りが居たて……」


「…… 優畄、この子がそうよ」


癒しの効果もある光の力の流入で、今では話す事も出来る様になったルナ。その子の頭を撫でながら力を流し続けている。


その子が最後の力を振り絞る様に優畄を見上げる。その目は憧れのヒーローに出会った時の様に輝いていた。


「…… ひ、光の御子様…… お、オイラの力を……貰ってくんろ……」


そして優畄に力を託そうと震える手を伸ばす。すかさずその手を掴むと優しく握り締める優畄。


「ああ任せてくれ! 君の力は俺が受け継ぐよ」


「……よ、よかった……」


最後の最後に満面の笑顔のまま息を引き取る【山梟】族の子供。


彼が優畄に託した力【燈】は小さな火を灯すだけの能力だ。暗い山の中、妹と唯一村に有った絵本を読む為に使っていた能力だ。


村を焼かれ母親と2人、命辛々にこの地に逃げ延びて来たのだ。


「…… 君の託してくれた力は決して無駄にはしない!」


優畄が爪が食い込む程強く拳を握り締める。もちろんその手にはヒナの手が添えられている。


ルナも助けられなかった事でその場に泣き崩れてしまう。


そして優畄は父から授かった【霊体変化】の力を使って、生き離れになってしまった親子の霊を成仏させてあげた。


最後に母親や死に別れた妹と笑顔のままに天に召されていった。


そんな優畄の周りに他の殺された霊体達も集まってくる。死んでもなおその意思を優畄に託そうと残って居てくれた者達だ。


『光の御子よ、我等、殺されようとも死のうとも、貴方様の元に馳せ参じまする。どうかこの力をお受け取りください』


父が残した【霊体変化】が可能にする霊体からの力の授与。死して尚もその意思に偽りは無い。


力と成りて、一斉に優畄達の中に溶け込んでいく弱き者達。

 


今では万を超える意思と力が優畄達に取り込まれている。そしてその意思と力を受け取った優畄達は決意を新たにするのだ。


そんな中、 彼等を追い打つかの様に千姫の使い魔から悪報が届く。


「……な、なんて事じゃ、鬼の里が黒石に攻められ滅ぼされた様じゃ……」


「なっ! そ、それじゃあ……」


「黒石の力を甘く見ておった…… まさかあの場所が特定されるとは思わなんだ」


千姫が幾重にも結界を施しておいたのだ、使い魔からのビジョンでその結果が一度に全て消されている事も分かった。


「黒石康之助、この者の力は太陽神の…… 」


康之助の名を聞いてヒナの顔が曇る。


「…… 優畄、私達はどうしても康之助さんと戦わなくちゃダメなのかな……」


ルナを慰めながらヒナが聞く。


「そ、それでも俺たちは前に進まなくちゃならないんだ。この力を託してくれた皆の為に……」


神の加護を受けし者が黒石に協力している現実。


一万の意思と力、彼等の思いを無下にする事は出来ない。どんなに辛くとも2人は、歩みを止める事は出来ないのだ。


黒石の闇を撃ち晴らすその時までは。


ーー


その頃優畄達が向かう予定だった鬼の里では、黒石による組織的な討伐が行われていた。


特殊能力を使い優位になった鬼達だったが、里攻めに黒川晶真の兵や【黒真戯 】、黒石の能力者が加わった事で更なる窮地に追い込まれていた。


それぞれが相対する強敵に加えてそれらの兵も加わっては、いくら鬼族とはいえ限界がある。


十兵衛が死んだ事で不抜けていたひなたにトドメを刺そうと迫る赤蛇だったが、黒槍の投擲による【黒真戯 】のリーダーの瑠璃の参戦によりその機を逃す。


「ひなた様、ここはお引き下さい!」


ひなたの様子がおかしいと仲間3人と彼女の盾に入ったのだ。


「チッ、増援か?! それにしたってなんて数なんだ!」


赤蛇の言葉通り、鬼の里を埋め尽くす様に兵や黒石の能力などが居る。


「赤蛇! 退くぞ、ここはもうダメだ」


元の姿に戻った刻羽童子が赤蛇の元に下がってくる。


彼も巨人の硬さに梃子摺りながらも善戦していたのだが、増援の登場にスピードで撹乱してここまで下がって来たのだ。


ここに来る前に千姫の幻術の元に行き逃げようと誘ったが、幻術が消えてこの場に千姫が居なかった事を悟った。


風の鎧を纏ったのも千姫と逃げる為、彼女が心配な刻羽童子。ならばこの場に要は無い、そのため退く事にしたのだ。


「で、でも……」


「夜鶴姥童子がこんな所で死ぬとは思えん。それに腐獅子が裏切った、奴が里に攻め入るのを見ていたんだ」


「なっ、そんな……」


「大丈夫だ。他の奴とは後で合流すればいい(オイラは早く千姫の元に行かねばならないんだからな)


赤蛇は最後に、瑠璃達に守られた十兵衛の骸の側で蹲り腑抜けたままのひなたを見る。


トドメを刺せなくて残念そうな顔の赤蛇とひなたの視線が最後に合う。その目には相棒を殺された事への恨みが見て取れた。


「ふん、またいつでも来な。今度はお前を殺してやるから」


「さあ行くぞ!」


『こんな所まで逃げていたのか! その雌鬼ごと叩き潰してくれる!』


そんな彼等の前に鋼鉄の巨人が立ち塞がる。【ギガノマキア】に乗った陣斗が逃げた刻羽童子に追いついて来たのだ。


里は既に鋼鉄の巨人や黒石の者に囲まれており逃げるのは難しそうだ。


「チッ、退くには遅すぎたか……」


だがその時、2体の鬼の前に2mの巨大な蟷螂が姿を表した。


そして鋭利なカマで巨人の鋼鉄製の足を叩き斬ったのだ。


『グウォ!』


足を失った巨人がその場に倒れ込む。それと同時に砂煙が立ち上がり逃げるのに好都合な状況になる。


椿崩は刹那の元から退いて来た様で、それまでの激戦を物語るかの様に至る所にキズがあり、緑色の体液が滴っている。



「…… お、お前、椿崩か?!」


『チキキキキキ、我が逃げ道を作る。お主達は先に行くのだ!』


自身の能力で【刀螂皇帝】へと変化した椿崩が先に行けと殿を買って出る。


姿が変わった事でその性格も変わった椿崩。何故か中世の騎士を思わせる騎士道精神そのままな性格に変わったようだ。


『チキキキキキ、夜鶴姥童子にも伝えておく、お前達は早く行くのだ!』


「分かった、あとは任せたぞ!」


「頼んだよ」


椿崩が敵を引きつけている間に刻羽童子達は里から逃げ出した。




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