第108話 最後の夏休み
桜子の友達のリア充達に誘われて優畄とヒナが訪れたのはプールだったのだ。
優畄達は水着が無いため途中のショップで買って行く事になったのだが……
「ヒナさんスタイル凄〜い!」
「なにこの足の長さ、いったい何頭身あるの?!」
女の子達が試着室のほうで騒ぐ声が聞こえて来る。
(……確かにヒナさんの体は……ムフフフ)
そんな優畄が選んだのはシンプルな短パン型の水着だ。
(でもこっちに戻って来て良かったかも知れない。桜子も元気そうだったし、ヒナにもいい息抜きになればいいけど)
優畄がそんな事を考えていると、宮島と河野が近付いて来る。
「ねえねえ、黒石とヒナさんてどんな関係? ねえねえ」
やはりウザイ絡み方をしてくる宮島、基本隠キャな優畄はどうしても苦手なのだ。
この宮島は桜子の女友達の柚木李里奈とすったもんだの末付き合う事になった男で、今は柚木一筋といった様子だ。
「だ、だからパートナーて言っただろ」
「パートナーて言ってもいろいろ意味があるじゃん。あんな可愛い子、黒石も隅に置けないね」
(う〜んウザイ、とにかくウザイ…… ここは適当に返事をしてこの場を切り抜けよう……)
「ウチの本家筋の子で面倒を見てくれと頼まれているんだ、それだけだよ」
「ふう〜ん、そうゆう事にしておくか」
優畄とヒナの関係に気付いている感のある宮島、恋愛経験の多い奴はめざといから嫌になる。
そんなこんなしてる間にヒナの水着も決まった様で、一路市民プールに向かう事に。
いつの間にかヒナと桜子達が仲良くなっており、お喋りをしながら歩いている。誰とも直ぐに仲良くなれるヒナ先生のポテンシャルの高さを改めて認識した。
(でもその方が話しをする時にいいかもしれないな……)
という事でプールにやって来た優畄達、むっさい野郎達と更衣室へ行く。
そして優畄が何気に服を脱ぎ去ると驚愕の表情で優畄を見る2人がいたのだ。
「ん?」
「……く、黒石、お前そんなムキムキだったけ?」
「む、昔の漫画の北斗の拳? あんな感じだな……」
彼等に言われて近くにあった鏡を見れば、そこにはムキムキマッチョな優畄の姿が映っている。
夏場とは言えあまり暑さの影響を受けない彼は基本長袖のサマーパーカーを着ている。着痩せするタイプとはいうが優畄の場合それが如実なのだ。
まえのボクサー体型から更に筋肉の量が倍増している、まさに格闘家の体付き。優畄はいつの間にか漫画北斗の拳の登場人物並みにムキムキになってしまった様だ……
そうでなければ変化した際の体への負荷に優畄の本体が耐えられない。能力を使う以上避けては通れない宿命なのだ。
「…… お、俺は一体どこに向かっているんだ……」
そんなこんなで着替えを終えて女子達を待っているとまず最初に桜子とその友達2人組がフリルの付いた可愛らしい水着姿で現れた。
(さ、桜子可愛いな……)
考えてみれば桜子の水着姿なんて小学校以来じゃないだろうか。密かにヒナを好いている河野も頬を赤らめながら見ている。
そして案の定、優畄の体を見て驚愕する彼女達。
「……す、凄い……」
「……海外の映画俳優みたい」
「……ゆ、優ちゃん…… (一体優ちゃんに何が有ったの?……)
夏休み前まではどちらかというともやしっ子だった優畄がムキムキのムッチョに成っていたのだ、驚くのも無理はないだろう。
だがそんな雰囲気もヒナさんの登場により一変する。
ザワザワ周りが騒ぎ立つ中、身長170cm丁度の長身で出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ筋肉質のモデル体型に、黒いシンプルなビキニがそのスタイルのヒナ様が元気よく駆けてくると優畄の前にピョンと止まる。
「どお優畄? 似合ってる?」
初めての水着にテンションが上がっているヒナさん。
「うん、似合っているよ。完璧」
「本当に!」
皆の前でも構わず、ヒナさんが優畄の腕に抱き付いてくる。
「あっ!」
思わず声を出してしまった桜子。すかさず女子達が集まり、「桜子ファイト!」や「桜子もあれぐらい大胆に行かなきゃダメよ」などと相談を始めた。
耳が良いため聞こえてしまうが気にしない事にする。
とにかくプールに来ているのだ泳がない訳にはいかない。ヒナは初めての水泳だ、泳ぎ方が分からないため教える事になった。
「えっ、ヒナちゃんて泳げないの?!」
「うん、初めてだよ」
「マジで……」
まあヒナさんの事だ、教えたならあっという間に覚えてしまうだろう。そして15分後、案の定ヒナさんは今では人魚の如くスイスイ泳いでいる。
「泳ぐのって気持ちい〜!」
「ヒナちゃん凄〜い!」
「本当に泳げなかったのに、信じられない……」
流石はヒナさんといったところか。
そんな中、優畄はプールの中に潜って考え事だ。今までの事やこれからの事をいろいろと考えているのだ。
(…… まさかこんな展開になるとはな、桜子と話しをしに来たはずなのにプールに遊びに来る事になるなんて、20日前の俺なら喜んだんだろうけどさ今の俺はそんな心情に成れないよ…… まあヒナが楽しそうだから一先ずはよしとしておくか……)
考え事もながらにザバ〜とプールから頭を出して見れば、慌てた様子の桜子の姿が目に入る。
「ん桜子、どうしたの?」
「ゆ、優ちゃん大丈夫なの?! 5分近くも潜っていたんだよ!?」
考え事をしながらもプールに潜っていた優畄が、全然浮いてこない事を心配した桜子が助けようと飛び込んだのだ。
「えっ、そ、そんなに!?」
考え事に夢中になり出るのを忘れていた感はあるが、まさか5分も潜っていたなんて。正直まだ潜っていられた感のあった優畄、桜子達の訝しむ様な視線が痛い。
プールを楽しんだ後は近くのファミレスに行き昼食を食べる事になった優畄達。
ヒナには初ファミレスだ、ドリンクバーの使い方を教えて席に着く。桜子達もこの際一緒に食べようと言う事になり同じ席に着く。
それまで顔は知っていたが交流は無かったリア充軍団との絡みは思ったよりも楽しく、たわいのない会話が続いていた。話題はヒナの好物や趣味についてだ。
やはりヒナさんがその潤滑油なのは言うまでもない。
「しかし黒石の変わりっぷりにも驚いたよな。正直別人と言われても納得するレベルだよな」
「本当にね、向こうで何かあったの?」
「ま、まあいろいろとね……」
「そのいろいろが気になるのよ」
話の流れがヒナの事から優畄の事に変わる。
「ほ、本家からの仕事の依頼をこなしていただけだよ。結構キツイ仕事だったからね、そのせいかな……」
「それにしたってあの体は凄いよ、たった20日でこんなマッチョになるなんて聞いた事ない」
「だよなあ、なに薬とか使ってる系?」
話の展開がなんかきな臭い方向に傾いてきたぞ……
「ち、ちょっと皆んなその話題はもうよそうよ」
俺が気不味そうにしていると桜子が助け舟を出してくれる。それと同時に頼んでいた料理も来たので有耶無耶になる。
食事を終えると時刻は午後2時一番暑い盛りだ。真夏の太陽がジリジリと自己主張を続ける中、リア充軍団と分かれ桜子の家まで彼女を送って行く事にした優畄とヒナ。
「……優ちゃん、優ちゃん達はいつまでこっちに居られるの?」
「……今夜10時の新幹線で帰るんだ」
「えっ、そ、そんな急に帰っちゃうんだ……」
「ああ……」
桜子も薄々気付いているのかも知れない。優畄とヒナがただならぬ状況下にあり、その呪縛に争えない立場にあるのではないかと……
「……ねえ優ちゃん、何か良からぬ事を強制されてるとかそんなんじゃ無いよね? 奴隷の様に働かされているとか……」
「そんなんじゃないよ。…… 今夜2人きりになった時に話すよ」
そして優畄は桜子と夜の6時に神社の裏の石垣で会おうと約束をした。
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