第102話 久しぶりマリアとドゥドゥーマヌニカちゃん
場所は変わり黒石の屋敷、いつもの様にマリアが水晶玉越しに誰かを覗いている。
今日覗いているのは優畄ではなく他の当主候補達だ。
優畄と刹那を除いてあと5人いる当主候補の中でマリアが最も実力を買っているのが黒石将ノ佐。かの黒石カンパニーの女帝黒石美智子の隠し子で今年17歳になる青年だ。
彼の能力は【森羅万象統御術】世の全ての理を統べるといわれる能力で、極めさえすれば他の者に争う術は無い。
だがそんな強力な能力にも大きな欠点がある。この能力を使う度に新たな人格が本人格の意識に関わらず形成されてしまうのだ。そのため極める事は不可能に近い……
故に今の将ノ佐には5人の人格が存在し、本人格の彼を日々苦しめているのだ。
そんな彼の苦しみや葛藤を覗き見るのが今のマリアの楽しみなのだ。
「あらあらまた将ノ佐お兄様に新たな人格が増えたようですわ」
『……ギギ……ギ……』
「そうね、頭の中に幾人もいて何とも楽しそうね」
『ギ……ギギ……ギ』
「ウフフフ、そうなれば彼は世界の王にもなれるでしょうけど、まあ不可能ですわね」
人の苦しみなぞ彼女達には楽しみ以外の何物でもないのだ。そして化け物達は新たな当主候補の動向を覗き見る。
次に覗き見たのが2番目に才能を買っている黒石ひなた。歳は16歳で暴力中毒の女の子だ、なんと優畄と同じ【獣器変化】の能力者でもある。
この娘、常に誰かを何かを殴っていなければ気が済まないというとんでもない娘で、趣味は討伐と言い切る程の武闘派だ。
彼女の授皇人形は名を十兵衛といい、いつも彼女のサンドバッグを務める身長2mの大男だ。彼はドSの彼女の好みだしくドMのマゾで、ひなたに殴られることを最上の喜びとする、彼女にピッタリな変態的相棒だ……。
彼女のその能力も優畄より上で、神獣のグリフォンや上位魔獣、幼獣のキマイラやケルベロスに変化出来る。
今彼女は隣国に出張中で日本には居ないが、その暴れっぷりを見るのが楽しいのだ。
「あらあら、生きたままサンドバッグだなんて、相変わらず凶暴なお姉様ね」
『……ギ……』
「あら、そんな事を言っているとひなたお姉様に殴られちゃうわよ」
『ギギ……ギギギ』
「確かに。ドゥドゥーマヌニカちゃんの圧勝で終わりそうね」
そしてニカっと笑い合う2体の化け物。
「–––それに比べて優畄お兄様はあんな鬼なんぞに梃子摺るなんて、買い被り過ぎたかしら……」
明らかに以前より優畄に対する執着が緩んでいる感のあるマリア。まあ代わりのオモチャが見つかっただけの事に過ぎないのだが。
所詮は優畄達なぞこの化け物達からして見ればタダの遊び道具に過ぎない存在なのだ。
『……ギギ……ギ……』
「確かにまだ時期早々ね。争奪戦はもう少し様子を見てからにしましょう」
『ギギギ……』
「それよりまさか千姫が狸に化けていたなんて驚きね。ボーゲルの馬鹿達が必死になって探している様だけど、面白いから黙っておきましょう」
『ギギ……ギギギ……』
人の不幸は蜜の味とは言うがそれを自で行くマリア達、また新たな当主候補を覗き見ながらニンマリと笑う姿は化け物以外の何者でも無い。
ーーー
化け物共が呑気に当主候補の観察に夢中になっているその頃、優畄達は精神会館でそれぞれの時間を過ごしていた。
結局その日は休みを取る事になった優畄達。ヒナはムシャクシャするからと、加奈さんを相手に総合の鍛錬に行っている。
彼女も優畄にベッタリではなく自分の意思で動ける様に成長しているのだ。ちょっと寂しくはあるがヒナの自立心を尊重してあげたい。
一方優畄はヒナと分かれて1人、総合格闘技の道場の外で携帯を見ながらうんうんと唸っていた。
携帯には桜子からのメールが何通か来ており、その返事をどうしようかで悩んでいたのだ。
本当ならヒナが近くに居ないところで悩みたいが、''双星のペンタグラム''の効果で10m以上離れられないから仕方ない。
彼女との約束だった8月22日まであと2日、決して忘れていた訳ではないがとても今の状態では行けそうにない……
(せめて返信だけでも返したいけど、なんて送ればいいんだ?)
父の故郷の黒石の屋敷に帰ってからの一連の出来事を話しても信じてもらえるとは思えない。それに行くとしても彼女にサヨナラをして来る事になる。
(…… もう同じ高校には通えないからな、それも伝えなきゃな……)
だが考えれば考える程に返信の文が浮かばない。
何も思い浮かばないので[ごめん、行けそうにない]とだけ送る事にした。冷たい様だが時間の自由が無い今、中途半端な返信は出来ない。
「仕方ないよな、桜子を巻き込むわけにはいかないんだ……」
いつに成るかは分からないけど会いに行きたい。そしてその時はいろいろ話せたらいいな。
そんな事を俺が考えていると背後に人の気配が……
「桜子? 誰それ?」
その突然の背後からの声に振り向いて見れば携帯を覗き込む様に見るヒナさんの姿があったのだ。
「えっ! えっ、あ、あのその……じ、地元の友達だよ……」
「お友達? ふう〜ん……」
ジト目で見てくるヒナさんに優畄は笑って誤魔化す事しか出来なかった。
「か、加奈さんとの練習は終わったの?」
なんとか話を誤魔化そうとするがヒナさんは誤魔化せない。
「優畄、私知ってるよ。そんなにその桜子て子に会いたいの?」
「えっ? あっ、そうか……」
ヒナは生まれる時に俺の記憶を受け継いでいる。だから桜子の事も、彼女に対する当時の俺の想いもヒナは知っているのだ。
「優畄が会いたいなら私いいよ、会いに行こ」
そうは言っているがひなから優畄を取られたらどうしようといった不安な気持ちが伝わってくる。
それでも優畄の思いを尊重しようとしてくるヒナ。
「大丈夫だよヒナ。彼女には会いたいけどそうゆうのとは違うんだ」
優畄は立ち上がるとヒナにキスをする。
「……優畄?」
ヒナと出会ってからまだ幾日も経っていないが、今では彼女は優畄にとって掛け替えのない存在だ。
「彼女にはね、サヨナラを言いたいだけなんだ……」
生きて行く道が違い過ぎる。俺達の行く先は茨の道、せめて彼女には普通の世界で幸せになってほしい。
「うん。優畄がいいならそれでいいけど、私の為に我慢はしないでね」
「ああ、ヒナは優しいな」
「ううん、優畄の方が優しいよ」
2人の世界でイチャイチャしだす優畄とヒナ。そんな2人の背後に佇む加奈が気不味そうに咳払いをする。
「あ〜、ゴホンゴホン……取り込み中悪いけど今からラーメンを食べに行こうて話になったの。2人も来る?」
加奈が優畄達を気遣ってラーメンを奢ってくれるというのだ。
「行きます! もちろん行きます!」
「よ〜し、ラーメン食べに行くぞ!」
崩れた表玄関前には刹那とマリーダ、ボブの姿もある。
「……俺はラーメンにはうるさいぜ」
「刹那は好き嫌いが激しいから……」
変色な刹那は豚骨系などの骨系が苦手なのだ。
「これから行くラーメン屋は海鮮塩ラーメンであっさりしているから、変食の刹那君でも大丈夫よ」
「……クッ、決して味覚がお子ちゃまてわけじゃないからな……」
「とりあえず行くで〜ス! トッピング全乗せで〜ス!」
よほど腹が空いているのかボブが催促してくるため、皆でラーメン屋に歩いて行く事に。
そして他愛もない会話やラーメンを楽しみつつ、戦士の一時の休日は過ぎていった。
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