第84話 再会
その頃、未だに総合格闘技の道場で練習をしていたルーベンス達。実は例の助っ人が正午を過ぎてもやって来ず、やむなく練習をして時間を潰す事にしたのだ。
そんな彼等に中央道場に道場破りが来ているらしいとの情報が入る。
「なんでも物凄く強い道場破りで、ドレッドヘアーの頭に、凄く体臭が臭かったて話よ」
加奈さんが情報の発信源だがドレッドヘアーが頭の片隅に引っかかる優畄。
「体臭が臭いのか…… (ドレッドヘアーか、前どこかで見た事ある様な……)
あれからいろいろあり過ぎてボブの事をすっかり忘れている優畄。あんな強烈なキャラでも忘れてしまう程に濃密な毎日だったのだ。
「ねえ優畄、道場破りを見に行ってみようよ」
「ああ、どんな奴か気になるし見に行ってみようか」
という事で中央道場へ道場破りを見に行く事になった優畄とヒナ。だが彼等が着いた時には道場破りの姿は無かったのだ。
「ありゃ遅過ぎたかな、帰っちゃったみたいだね……」
「う〜 残念……」
落胆する優畄達だったが周りに残っている、道場破りを見たと思われる者達の話し声が聞こえてくる。
「ーーで、どんな奴だったんだ?」
「ああ、物凄く強いドレッドヘアーの黒人で、ドブにでも浸かっていたかの様に酷く臭かったな……」
なんとも限定的な特徴を聞き、記憶の片隅に追いやっていたある人物の姿が思い出される。
(ドレッドヘアーの黒人…… いつだったかバスの中で会った様な……)
「おうお前たち、道場破りを見に来たのか?」
その時、優畄達を見つけた兵吾が彼等に声をかけてくる。
「お久しぶりです兵吾さん。はい、そうなんですが、そ、その腕は?……」
「もう帰っちゃったの? てかおじいちゃんその手どうしたの」
2人とも吊るされた兵吾の腕を見て兵吾程の達人に一体なにが起きたのかと驚愕する。
兵吾は優畄が変化しなければ勝てない相手だ、その人の腕を折るほどの強さを持つ者。
「これか? あのミミズ頭にへし折られたわい」
「というと道場破りにですか?!」
「強かったぞ彼奴は。お前達が本気を出してやっと五分てところかの。今はシャワーを浴びとるわい」
道場破りとの戦いに満足したのか、なんとも楽しそうに淡々と話す兵吾。どうやらこの人は生粋の戦闘狂の様だ。
(でも本気を出した俺やヒナと同等のレベルか、まあ聞いた話では、そんなに悪い奴でも無さそうだし大丈夫だろう……)
康之助にここを頼まれた優畄としては、彼が帰って来るまでは面倒事はなるべく避けたい。
(いつ鬼がここの情報を仕入れて、襲撃して来るとも分からない状況だ。助っ人も到着が遅れているし、全くなんて一日なんだ……)
そんな愚痴を心の中でこぼしていると、シャワーを浴び終わったのか道場破りと思われる男が姿を現した。
「フ〜、スッキリで〜ス! シャワーありがとうございま〜シたァ」
そこに居たのはボブだった、紛れもなくあのボブだったのだ。
「あ! ボブ! ボブじゃないか!!」
ボブの姿を見てやっと彼を思い出した優畄、ボブの方も呼ばれた最初こそキョトンとしていたが、優畄の顔を見て思い出したようだ。
「オ〜ウ! 優畄さん、優畄さんではあ〜リませんかァ! あの運転手に攫われて行ってしまったァ貴方をォ心配していま〜シた…… 」
優畄は?と思ったが、どうやらボブの中で優畄はボーゲルに攫われた事に成っているようだ……。
「さ、攫われてはいないけど…… 元気だよボブ。君も元気そうで何よりだよ」
「ハイ、また会えま〜した優畄さん。あの時のおにぎりの味は忘れませ〜ン」
義理堅いボブは一度受けた恩は決して忘れない。まあ他の事はすぐ忘れてしまうのだが……。
その時ボブが背負うリュックがガサゴソと揺れ動く
((なに! 優畄じゃとぉ!?))
それまでリュックの中で寝ていた狸の花子が、優畄の名前を聞いて目を覚ましたのだ。そしてリュックの中から頭を出して外の様子を伺う。
「あ〜! 狸ちゃん! こんな所にいたなんて」
((なぬぬぬ?!))
「可愛〜い!」
まさに一瞬の間にヒナに捕まる狸の花子。そしてヒナは花子をぬいぐるみの様に抱きしめ頬擦りをする。
((お、己れ離さぬか! この邪悪な人形め!))
ヒナの胸元から抜け出そうとするが、狸の姿のためキュイキュイと泣く事しか出来ない……。
昔だれかの授皇人形と何が因縁が有ったのか、授皇人形が大っ嫌いな花子こと千姫。
((なんて事じゃ、やっと優畄と会えたというのに、こんな人形なんぞに抱かれて…… しかし、ポヨンポヨンしていて案外心地いいかもしれ……い、いかん、いかん騙されてはいかんぞ!))
今回花子は変身を解く前提でここに来てなかったため、変身を解くと素っ裸なのだ。そのため今は狸の花子のままやり過ごすしかない。
「オ〜ウお嬢さん、花子が嫌がっていま〜ス。どうかお返しくださ〜イ」
ボブがリュックの入り口を開いてこの中に入れろと差し出す。花子が困っているのを察したボブが助け舟を出してくれたのだ。
ボブの起点を利用してヒナの捕捉が緩んだ隙に胸元から抜け出し、リュックの中に避難する花子。
「ああ、狸ちゃんごめんね! 大丈夫? 痛かったかな……」
「きっと大丈夫で〜ス」
狸を気遣うヒナの顔を、リュックから頭を出してマジマジと見つめる狸の花子。
((…… 先程抱かれた時に分かったが、この者の心は純粋そのものじゃ。まるで汚れのない綺麗な心。授皇人形もそれを授かる相手次第ということなのかのう))
ヒナに対しての認識を少し改めた花子。
((何よりあのポヨンポヨンはくせになりそうじゃわい、グヘヘへ!))
少しオヤジ臭いところがある狸の花子、千年の月日は伊達ではないのだ。
「…… おお〜 、ここが精神会館?! 思ったより大きいんだな」
「チッ、なんで俺がこんな所まで……」
「由紀! 早く来い!」
「す、すみません輝毅さま!」
そんな精神会館に2時間遅れで姿を現したのは、今回助っ人で呼ばれている黒木刹那と、そしてそのサポート役として付いてきた、あの黒石家の顔見せで会った将毅と輝毅のデブ2兄弟だ。
刹那達は運転手付きのリムジンでここまで来たらしく、2時間遅刻した事を反省している様子は全く見えない。
「……ねえ、ここに手伝いに行けて言われて来たんだけど、誰か責任者いる?」
「なんだ貴様らは? 遅刻して来てごめんなさいの一言もないのか」
そんな刹那達の前に康之助さんから留守の間の精神会館を任されている、黒石辰巳(柔道6段)が立ち塞がる。
「…… なにあんた? 俺そうゆう体育会系のノリ好きくねえんだわ」
「貴様!」
ブチ切れた辰巳が軽く痛め付けてやろうと刹那に迫る。そんな辰巳を相手に刹那は、なんと能力を使ったのだ。
刹那が使った能力は、彼が変化できる魔人の種族の【ヴァンパイア】が使う''凝血''という血を固まらせる能力だ。
凄まじい力で辰巳の腕を掴み離さない。柔道6段の辰巳ですら振り解けない程の力。
「ぐっ、グガアァ!!」
この能力は決して無闇に人に使っていい様な能力ではない。刹那に掴まれた辰巳の腕の血管が浮き上がり、破裂しそうな程に膨れ上がっていく。
その一連の行動をまるで昆虫の観察をするかの様に淡々とこなす刹那。優畄は咄嗟に彼を殴り飛ばす事でその行為をやめさせた。
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