第34話 第2章、黒雨島編。次のお仕事
沢山の思い出が出来た[つるべ荘]を後にして、僕らが向おうとしているのは、鉄道のある様な大きな町だ。
「そこで僕達は新たな生活を始めるんだ」
「うん。優畄となら私頑張る!」
旅館の仲居さんに聞いたところ、ここから麓の町までは50kmは離れているとの事。
旅館でスーパーカブに燃料を入れて貰ったが、町まで持つかは怪しい。
途中で僕たちを迎えに来たボーゲルと鉢合う可能性もある。なるべく早く黒川の領地内から離れたいところだが、そう簡単な話では無さそうだ。
「暑くなってきたから疲れたら言ってね」
「うん、まだ大丈夫だよ」
今のヒナの服装は旅館の仲良さが昔着ていた服のお下がりで、ぴちぴちのレディースジーンズにTシャツというラフな格好だ。
それがヒナの抜群なスタイルに合っている。
(ナイスチョイスだ仲居さん!)
僕らが走る道は代わり映えの無い峠道、対向車も1時間にI〜2度、車とすれ違えばいい程度の寂れた道。
真夏の朝の日差しの元、後ろに乗るヒナを気遣いながら僕は普通に走っているつもりだった。
だが気付いた時、なぜか僕等は黒石の屋敷の前にいたのだ。
乗っていたスーパーカブも消えて、僕等は地面にただ突っ立ている状態。
「えっ?」
「ゆ、優畄!?」
一体何が起きたのかまるで分からない……
突然のこの状況に頭の回転が追いつかない僕等。
「お帰りなさいませお兄様、お疲れ様ですわ」
見た目の年齢には似つかわない妖艶な笑みを浮かべたマリアが、ペコリと頭を下げて一人で僕達を出迎えた。
「えっ? マリアちゃん?! な、なんで……」
「ボーゲルが忙しく、お迎えに行けなくなってしまいましたので、私が代わりにお兄様達を強制転移いたしましたの」
(は? この子は今なんて言ったんだ? 強制転移て、あのラノベとかに出てくるアレか?)
「お兄様はあの村で大活躍でしたから」
『ギギ……ギ……』
「そおね、褒めてあげましょう」
マリアと人形?が何かを話している……
その荒唐無稽な状況にいっそう混乱していく僕の頭。
僕が未だに混乱から抜け出せないでいると、ヒナが僕の手を握ってくれる。
「ヒナ……」
「……大丈夫、優畄には私がついてるよ」
そんなヒナの手はブルブルと震えている。
僕達をここへ、一瞬で強制的に呼び戻したという得体の知れないマリアの存在に怯えているのだ。
こんな事ではダメだと奮起する。
「…… き、強制転移て、そんな事が出来るのか?」
「私は黒石の総合管理者。お兄様やそのお人形には黒石の力が流れていますの、100km圏内で有れば、それを感知して呼び戻す事など造作もない事ですわ」
それ即ち、僕達は決して黒石の呪縛からは逃げ出せないという事なのだ。と同時に僕とヒナは、双方を人質に取られていると言う事でもある。
ヒナは僕から離れると10日で死んでしまう……。
僕は黒石の者にとっての受皇人形の意味を改めて理解した。
「………」
「残念ですがお兄様、黒石からは絶対に逃げられないのでございましてよ」
『ギギ……』
ドゥドゥーマヌニカちゃんからも『お前等逃げんじゃねえぞ!』のオーラが浮き出る。
そう最初から僕達に逃げ道なぞなかったのだ。
たとえこのマリアと戦ったとしても、人を強制転移出来るような化け物に勝てるとは思えない。
僕達に出来る事は、大人しく黒石の指示に従いそれに準じること。それ以外に僕達が生き残る術はないのだ。
「喜びなさいませお兄様。お兄様にはすでに次のお仕事が用意されておりますのよ」
「……」
(……戻って直ぐに次の仕事か、この家はどれだけブラックなんだ……)
だが僕に拒否権はない。ヒナを守るためには与えられた仕事をこなすしかないのだから。
せめてヒナと引き離されなかっただけでもよしと思わねばやっていられない。
「休憩はあの温泉で充分になさってらっしゃいますから、必要はありませんわね」
そして何故かヒナをギロリと睨みつけるマリア。
マリアに睨まれ怯えきったヒナが僕の後ろに隠れる。
どうやらヒナたち授皇人形にとってマリアは、恐怖や畏怖の対象のようだ。
僕はヒナを守る様にその前に立つ。
「そんなに怖がらなくても壊したりはしないわよ。それよりお兄様の次のお仕事現場のお話をいたしますわ」
マリアの話しでは、何でも黒石の領地内にある孤島[黒雨島]にいる幽鬼というもののけを、封印するのが今回の仕事だしい。
この島は過去500年に渡り、50年毎に一度復活する幽鬼を封印してきたのだ。
「お兄様は[黒雨島]にある代官屋敷に行く事が今回のお兄様のお仕事です」
「代官屋敷? それはまた時代錯誤な……」
「幽鬼はお兄様が磯外村で戦ったグールと同程度の強さですから、お兄様なら問題ありませんね。それと分家からお手伝いの者が数名参加しますからよろしくお伝え下さい」
「えっ? 説明はそれだ……」
そう言うとマリアは有無を言わせずに、僕達を黒雨島へ行く船が待つ港に飛ばしたのだ。
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