第35話 新たな仲間


8月6日午後1時



僕達は今、黒雨島へ行く船が有る港に来ている。


有無を言わさずにマリアに飛ばされたのだ……。


船の前には僕の他に4名の乗組員がおり、小型の船舶の点検をしたり、食料や武器と思わしき銃火器の点検をしている。


きっと彼等が黒石の分家の人達だろう。


マリアの話では、「彼等と行動を共にして手助けをしてやって欲しい」との事だったが、彼等は僕達の見張りも兼ねていると思われる。



今居る場所の地理も道も分からない僕達は、指示に従うしか選択肢はない。


それに逃げたとしても、マリアに直ぐに見つかって呼び戻されてしまうため意味はないだろう。


「……優畄ここどこだろうね?」


「分からない…… けど、彼等が僕達と一緒に島に行くという分家の人達だろう」



ただ立っているのも気まずいので、僕達はどうしたものかと作業を進める4人に近く。


僕が彼等に近いて行くと、その内のリーダーと思わしき人物が僕に気付き近いてくる。



その4名のリーダーと思わしき人物の名は黒石弓夜。そう僕の遠縁にあたる親戚だ。


年は23歳と若く、黒石系列の親戚筋や親しい者達で作られた討伐隊なる組織の、若手のリーダーを任されている人物だ。



討伐隊には本家を中心に国内に9つの支部があり、彼等は東北地区の討伐隊メンバーである。


彼等討伐隊はそれぞれに修技を持つが、銃火器などにも精通しており、その扱いはプロ顔負けだ。


彼等は小さい頃から総合的な戦闘術などを習っており、カモフラージュも兼ねて学校にも通っている学生でもある。



彼は名前にも有る弓矢を修技としており、その背に背負う弓は樹齢1000年の大木から作られた破魔の弓で、彼の能力と相まって百発百中の腕前だ。



「やあはじめまして。いや、お披露目の時に会っているね。私は黒石弓夜。君が噂の新しい当主候補だね」


どうやら弓夜さん、あのお披露目の場にいた様だ。


「は、ハハハ、あの時はどうも黒石優畄です。噂がどうかは分かりませんが、よろしくお願いします」


弓夜の差し出された握手の手を取ると、僕も挨拶をかえす。


「そして彼女が僕のパートナーのヒナです」


「ヒナです。よろしくです」



「ほう、今回の当主候補は謙虚なんだね。それとヒナさんか、よろしく頼むよ」


少し彼の言い回しが気になったが、気にしないことにした。



そして彼の近くに居るのが神宮寺早苗。弓夜の一つ下で22歳の大学生だ。


「神宮寺早苗よ、よろしくね」


彼女は黒石とは関係ない他の退魔師の一族の者で、弓夜の婚約者でもある。


彼女は弓夜の補佐が主な役割なので修技は無い。


その代わり銃火の扱いはこな4人の中で1番だ。



弓夜は他の2人を呼ぶと僕に挨拶をするように促す。


あのお披露目に来たのは弓夜だけの様だ。


その2人は僕と同じ位の年に見える。1人は金髪の短髪で、佐々木優作16歳。


Tシャツから見える腕にはいかついタトゥーが伺える、半グレ少年だ。


彼の修技は刀で、先祖代々''虎牙丸''という刀を携えている。


「……お、俺は佐々木優作だ、よ、よろしく」


ヒナを見て頬を赤らめて、照れ臭そうにしていた優作。ぶっきらぼうにそう言うと荷運びに戻っていった。


(まあヒナは可愛いからな、一目惚れなんてするなよ。それに苗字が黒石じゃないのはなぜだ?)



最後の1人は16歳位の女の子で黒石美優子、弓夜の妹だ。


彼女も刀を修技としており、刀を携えているが優作の持つ刀の様な名付きの刀では無い。


「私は黒石美優子、よろしくね。君が例の当主候補君ね、磯外村での事は聞いたわ。討伐隊でも話題になってるわよ。それとヒナさん可愛い〜! ぜひ友達になりたいわ」


「はい。よろしくです」


初めての同年代の女の子に戸惑いを隠せないヒナ。


美優子はショートボブのよく喋る明るい女の子だ。誰にでも直ぐに打ち解けれる性格で、顔も可愛いしこの子とならヒナも仲良くなれそうだ。



「よし自己紹介は済んだね、じゃあ詳しい仕事の話をしようか」


「はい。」


「優畄君はこれから行く島について何か聞いてるかい?」


「はい。その島が流刑の地で、そこに渦巻く黒石への怨念?を晴らしてこいみたいなことを言われました」


「う〜ん、間違ってはいないのだけど、だいぶ端折られてるね…… これは島と黒石の歴史から話した方が良さそうだね」



そして弓夜は島の歴史について話し出した。



それは黒石の暗黒家の暗黒面を凝縮した様な陰湿で最悪な話しだった。


今から500年前、黒雨島に外国の船が漂流した。


その船には日本との国交を求める視察団とその家族が乗っていたのだが、その当時の日本は鎖国が掟。


彼等は本土に入る事なく沖合に停泊していたが、突然の嵐で彼等の船は黒雨島に漂流する事となる。



彼等の乗っていた船は大破してしまい、帰る術を失った彼等は島で暮らす事を選んだ。


その島には原住民がおり、互いに交流を持ちながら次第に打ち解け、現地の者と結ばれ夫婦になる者まで出てきた。


島に根付いて16年。だが、それが彼等の悲劇の始まりだった。


当時の黒石の当主が、彼等が根付くのを待っていたかの様に動き出したのだ。


当時の黒石家の当主は黒石甚五郎、圧政でその地を治める稀代の極悪人。


彼は漂流した外国人たちが島に住むための有る条件を出してきた。


それは毎年1人の娘を屋敷に奉公に来させろと言う、大して苦にはならないものだったのだ。


だが、屋敷に行って帰ってきた娘は1人も居もおらず、島民達の不信感は高まるばかり。


これはどおいう事だと声を上げる島の者達もいたが、逆らった所で自分達に勝ち目はない。


母国に帰る術を失った今、ここで暮らしていくしかないのだから……


彼等に出来る事は、屋敷に行った娘達の安否を信じて帰りを待つ。出来るのはそれだけだった。



だがそんな時に事件は起きる。


当時の島頭には雪乃という一人娘がいた。


その娘雪乃は歳は15で、今で言うところのハーフのそれそれは美しい娘だった。


島の若手の筆頭頭と恋仲になり結婚を間近に控え、幸せな毎日を送っていた。


だがその幸せは、島に甚五郎が視察に訪れた事で終わりを告げる。


雪乃の美しさに魅入られた甚五郎は彼女を攫うと、強引に手籠にし妾にしてしまったのだ。



その暴挙に怒り浸透で立ち上がったのは島の若頭筆頭、彼女の許嫁だった男。


若い男衆は雪乃を取り戻そうと、島にある代官屋敷に向かおうとするが、何と雪乃の父親の島頭がそれを止めたのだ。


彼は娘を思う気持ちはあれど、他の島民にも危害が及ぶ行動には出られなかったのだ。


そんな島頭の懇願に口から血を滴らせながら了承した若頭。彼には彼女の無事を祈る事しか出来なかった……


彼の思いは一つだけ、ただ、ただ雪乃が生きてさえいてくれでばそれでいい。


だがそんな彼の期待は最悪の結果に終わる。



雪乃が攫われて1ヶ月後、彼女の遺体が代官屋敷の前に磔にされ晒されたのだ。


彼女の処刑理由は代官屋敷から逃げ出そうとしたそれだけの理由だった。


彼女は全身に打たれたアザや切り傷、目はくり抜かれ、鼻と耳も削ぎ落とされていた。両足の腱は切られ、腹部には圧迫による裂傷まで見られるひどい有様だった……


最後の望みを断たれた若頭は復讐の鬼となり、1人代官屋敷に討ち入ったのだ。


だが、それは多勢に無勢というもの。彼は全身を槍で串刺しにされ、八つ裂きにされた後、見せしめとして島中に晒されたのだ。



そして2人の死を受けてついに島民達は立ち上がったのだが、容赦の無い甚五郎は島に反乱の意思ありと討伐の命を出したのだ。そにより島民は1人残らず皆殺しにされた。


そして彼等の死体は斬り刻まれ島中にばら撒かれたのだ。



「……と、ここまでが島に纏わる悲劇的なお話だ」

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