第23話 ヒナ立つ!
ヒナがスヤスヤと寝息をたてる中、僕は雨が降り頻る磯外村を見ていた。
あの後うとうととしたのは30分程度で、目が覚めてしまった僕。その後は寝る事はなくまんじりと時間を過ごしていた。
「……」
(今は夜中の2時、夜明けまであと4時間か……)
夏場の朝は早い、5時か早ければ4時には日が登るり、6時ならほぼ日中と変わらないだろう。
どの程度明るくなれば奴等が村から居なくなるのか分からないが、万全を期した方がいい。
僕は隣で眠るヒナの事を見る。
(こんな状態でよく寝れるな、フフフッ。)
外の雨は次第に強まってきた、たまに雷が鳴るほどの豪雨に変わる。
その豪雨に紛れて一体のグールが工事内に侵入して来た。そのグールは辺りをキョロキョロとみま回しながら僕たちの方に近づいてくる……
僕に緊張が走る。幸い僕たちには気づいて居ない様で工事内を物色している。
「……」
僕は今手に武器を持っていない、いざとなったらグールと素手で戦わなくてはならない。
僕は息を殺してグールの動向をジッと伺う……
だがグールはめぼしい物が無かったのか出口に向かい歩き出したのだ。
何とか危機は乗り切ったと僕は安堵のため息を吐いた。
だが得手して予想外の事は起きる。
「ムニャムニャ、優畄……大好き……」
突如発せられたヒナの寝言に場の空気が凍り着く。
グールはゆっくりと声の聞こえた上方をみる。そして僕らに気付くと、なんとも嬉しそうな顔と共にあの叫びを放ったのだ。
「キュピイィィィィィィ〜〜!!」
雨の中でも響き渡る叫び声に他のグールたちが寄ってくる。
その数は6匹、雨のため音が伝わりきらなかったのか幸いに数は少ない。僕はヒナを守るため積み上げられた木材を蹴り落とすと下に飛び降りた。
木材の崩落に巻き込まれて2匹のグールが死んだが、まだあと4匹もいる。もたもたしていては、また仲間を呼ばれてしまう。
「……う、うん、優畄?」
木材の崩落音でヒナが目覚め、僕の存在を確認するように辺りを見回す。
(だめだ、ここで戦っていてはヒナを巻き込んでしまう!)
「こっちだ、僕の方にこい!」
僕はグール達を引き連れて工事の外へ駆け出す。
「優畄ォ! 優畄ォ〜!!」
そんな僕の姿が見えたのかヒナの僕を呼ぶ叫びが聞こえるが、彼女からグールを離すために止まる訳にはいかない。
幸いグール達はみな僕の方へ引きつけられている。騒ぎに引きつけられ他のグールまでも加わってその数は10数匹。
ヒナの方にグールが行くよりは断然いい。
まさに絶体絶命の状態だが僕は諦めない。
「運動能力には自信があるんだ、くそグール共、僕と持久戦だ!」
ーーー
その頃1人残されたヒナは優畄を求めて泣き続けていた。
「うう……優畄ォ、優畄ォォ……」
彼女が生まれ出てから2日、彼女の側にはいつも優畄がいた。そして優しく守ってくれていた。
今回もグールを彼女から遠ざけるための危険な行動だ、泣くだけだった彼女の目が変わる。
「…… だめ、こんな事じゃだめなの。今度は私が優畄を助けなきゃ!」
そう思うや否やヒナは動き出していた。頬を濡らす涙を拭き優畄を助けるために役立ちそうな物を探す。
そして工事の裏手である物を発見する。それは中型のブルドーザーだ。
そのブルドーザーは木を切った際に出る大鋸屑を片付ける際に使う物で、運転席を守るキャビンも付いているため運転席を守れて安全だ。
このブルドーザーは最新型のもので、この工事の所長が古く成ったブルドーザーの代わりにと無茶して買ったものなのだ。
「これを使って優畄を助けるの!」
運転席を見てみると残念ながら鍵は無かった。
ヒナは考える。スイッチ部分の配線を繋げば鍵が無くともエンジンはかかる。だがヒナには知識はあったが技術も道具も無かった。
ヒナには非常時の際に役に立つであろうサバイバル術や知識もインプットされているため、知識だけは知っているのだ。
ならばと事務所に向かう事にした。
もう雨は止んでおりシーンと静まり帰った事務所内にはグールの姿は見られない。
優畄がみな連れて行ってくれたおかげだ。その優畄を助けるためにもブルドーザーの鍵を探すのだ。
様々な鍵がかけられている壁のキーホルダーには運悪くブルドーザーの鍵は無かった。
焦る気持ちを抑えながらヒナは片っ端から机の引き出しを開けて中を調べていく。だがそこにも鍵は無かった。
「優畄、優畄ォ……」
呪文の様に優畄の名前を呟くヒナ、事務所内の他にありそうな場所を考える。
事務所の2階は安眠室だ、そんな所に鍵があるとは考えにくい、だが藁にもすがる思いで向かう。
2階の安眠室には宴会でもあったのか、缶ビールの空き缶や何かの雑誌で散らかっており酷い有様だ。
だがヒナは構わず鍵を探し回る。
そしてついに、重ねらた布団の下でそれと思わしき鍵を見つけたのだ。
「待っていて優畄、すぐに助けに行くからね!」
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