第24話 激走、地獄ランニング



雨が上がり、月明かりが照らす道を僕は走っていた。背後には100匹を超えるグールの群れが続いている。


グール達との距離はおよそ10m、もうかれこれ1時間はこの状態で逃げ続けている。息は上がり足も少し震えるようになってきた。


初めの頃はつい従いするグール達を巻こうと、高低差を利用したり建物の中を通過するなどして交わしていた。


だが次々と新手のグールが現れ、それも立ち行かなくなったのだ。



僕はいま自分の下半身をプロングホーンと馬のハイブリッドにし、肺や心臓なども骨格や体の限界近くまで強化して持久力を上げている。


持久力を求めて走りながら変化を繰り返して行き、たどり着いたのがこのスタイル。


だから他の者が僕の今の姿を見れば化け物と思うかも知れない、だが勘弁してほしい。この追い込まれた状態だからこそ今の姿への変化に行き着いたのだから。



見た目なぞこの際二の次だ。



グールの平均スピードは時速40kmほど、瞬間ならば60kmを越えるスピードを出せるだろうが、グールには持続性はなく長距離走に向いていない。


今の僕は時速を42〜45km位のスピードを維持して走っている。そのため距離さえ保てていれば追いつかれる事はない。


だが流石に1時間もこのスピードで走るのには無理があった、僕の限界は間近だ……



僕についてこれず脱落するグールもいるが、それ以上に加わるグールの方が圧倒的に多い。


地獄の持久戦はまだまだ続きそうだ。



ヒナと遠く離れていても彼女が生きているのは感覚で分かる。


(ハア、ハア…… せめてヒナだけでも助かってほしい。助かったとしても、僕が力を与えねば死んでしまうかも知れない、それでも彼女だけは……)



僕は最後の力を振り絞ってある場所を目指していた。この村の入り口にある閉ざされたゲートだ。


この入り口のゲート部分だけは他のバリケードと違って門の様な作りに成っており、高さ8mの所に屋根が50cm程せり出ているのだ。


その手前には村案内の看板とその手前に緩やかなスロープが有り、バリアフリーの手摺りがある。



僕の狙いはこうだ。このままゲート前まで逃げきり、そこから限界までスピードを上げて手摺りと看板を使い、せり出た屋根に逃れる。



それが僕の選んだ無謀な作戦だ。


これは村に閉じ込められた直後、ヒナと最初にゲートを見に行った時に考え付いた作戦で、その時も試して無理だと捨てた案でもある。


走っている間にもいろいろ案を考えたが、どれもグールとの戦闘が前提となるためこちらの案を選んだのだ。


今の僕ならグールの5体くらいなら相手取る事もできる。だがこの数は流石に無理だ体がもたない……



今は少しの可能性にも賭けたいのだ。




僕のスピードが落ちて来た事でグール達が距離を詰めてくる、その距離およそ5m。


たまに突出してくるグールの爪が、僕の背中をかすめていく。


ゴールのゲートまで残り100m程、足が絡れ転びそうに成ったが何とか持ち堪え最後の力を振り絞る。


実はここまでわざとスピードを落とし力をセーブしていたのだ。


だがもうその必要はない。


残り10m、僕は自分の全身をチーターに変化させると、四足走行で一気にスピードを上げ加速させる。


そして勢いよく跳び上がった僕は、瞬時に胸から両腕にかけてをチンパンジーのそれに変化させ、ギリギリのところでゲートの縁を掴む事に成功したのだ。


チンパンジーの握力は300kg、人間の平均男性46kgのおよそ6倍だ。握力を強化させて屋根の縁を掴むための補助にしたのだ。


ここまでくる間に何匹かグールを倒していたため僕の能力のレベルが上がっていたのも、細部に渡る細かい変化を可能にした要因だ。


筋肉の足りない密度を何で補っているのか、どうしても気にはなるが考えない事にした……


それと服なのだが、これは黒石から支給された物を着ている。


この服には修復の機能が備わっており、変化の際に破れたとしても元の姿に戻ると、服も元通りに修復されているのだ。



(フゥ…… まったく、黒石の先祖様々だぜ)



だが後から追って来ていた何匹かのグールも飛び上がってくる。


その内の1匹が僕の左足にしがみ付いてきた。



「グッ……」


グールの鋭い爪が僕の脚に食い込む……


疲労困憊のところに来てこの状態は正直キツイ。



「グウ!グアアッ!!」


グールが僕の足に噛みつこうと大口を開ける。



「このクソグールが!」


すかさず僕は右脚を腰の辺りからヒクイドリの様な形態に変化させると、グールに強烈な蹴りを喰らわせてやった。


ヒクイドリの脚には鋭く尖った爪が生えており、この蹴りで人間を殺せる程の威力がある。


開いた大口に蹴りを喰らい、歯どころか首の骨をへし折られたグールは、力なくそのまま下に落下していった。


そして僕はなんとか屋根の上によじ登ると体を元に戻した。



「ハア、ハア、ハア……」


限界だった、しばしその場で息を整えると屋根から下を見下ろす。


下ではグールどもが悔しそうにゲートの扉を引っ掻いている。


「……な、なんとか生き延びた…… ヒナ待ってろよ、必ず助けに行くからな!」

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