第21話 逃走そして可能性



化け物たちの数は数百から千くらい、とても僕達だけでどうにかなる数ではない。


一瞬この家に籠城でもしようとも思ったが、この大群に囲まれては生き残るのも絶望的だ。


あの化け物一匹なら僕でも何とかなるだろう。だがあの数では無謀というもの、僕に英雄的な自殺願望はない。


それに僕の側にはヒナも居る。彼女を危険に晒す訳にはいかないのだ。



奴等がこの家に接近するまではまだかかりそうだ、まあ時間にして1分程の猶予だが。


それでも今ならまだ間に合うと家を出て外に逃げる事にした。



僕のリュックを付けたヒナを背中に背負い、反対側の窓から飛び降りる。


ヒナとは緊急の際にこうすると予め決めておいたのだ。



「ヒナ行くよ!しっかりと捕まっていてね」


「う、うん!」


高さは5〜6m程、能力で変化させた僕の足ならばなんとか耐えられる高さだ。ヒナも歯を食いしばってなんとか耐えてくれた。


飛び降りるのに成功した僕たちは村の出口、あの頑強そうな扉が有った場所を目指して走り出した。



後ろから真っ先にたどり着いた化け物が窓枠を破壊するガシャ〜ンという音が聞こえる。


奴等の動きは早い、なるべく音を立てない様に素早く夜の暗闇を走り抜ける僕たち。


しかしこの夜目は本当に助かる。この能力が無ければあの家で詰んでいただろう……


そしてヒナを背負いながら走る事10分、肺活量も格段に上がってはいるが、流石に疲れてしまう。



「ハア、ハア、ハア……」


「優畄、大丈夫?」


すでに僕の背中から降りていたヒナが、リュックの中から水入りのペットボトルを取り出し僕に渡してくれた。


それを受け取ると勢いよく飲み干す僕。



「ゴク、ゴク、ゴク、プハッ! なんとか生き返ったよ、ヒナありがとう」


「うん、まだ有るから欲しかったら言って」


いつの間にやらリュックはヒナの相棒に変わった様だ。



そんなゲートに辿り着いた僕たちだったが、ゲートの出入り口を見て絶望の2文字が浮かぶ。


ゲートの入り口には固く閉じられた扉があったのだ。


電子制御の扉は夜の闇に反応して閉じる仕組みになっていると思われ、こちらから開けるのは無理そうだ。



「……扉、閉まってるね」


「チッ、やっぱりか、そんな気がしたんだ……」



この塀は外からの侵入を防ぐための物じゃない、内側から出られなくするための物だったんだ。


何度か力任せに押したりいろいろ試してみたが、扉に開く気配は全く無い。


ゲートが2〜3m程の高さなら今の僕の身体能力でも乗り越えられただろう。だがゲートの高さは10mだ、流石に無理がある。


ゲート手前にある町案内の看板と手摺りを使ってゲート上の屋根に乗れないから試してみたが、人間には無理な相談だ……



「……ボーゲルの野郎、生きて帰れたら絶対に殴ってやる」


ゲートがダメとなればこんな目立つ場所は論外だ。僕たちは奴等が来ないのを確かめながら夜の村内を移動する。



「あの怪物はグールだ、音に敏感で動きも早い厄介な相手……」


「グールー?」


なぜ僕があの怪物の情報を知っているのか、僕の先祖の誰かがあれと戦ったことがあるのだろう。


そんな事が分かる僕もすでに怪物の仲間入りをしているのかもしれない……



ちなみにグールは音に反応して動く。そのため嗅覚と視覚は退化しており、僕らは極力音を立てないように行動するのがベストだ。


そしてグールに意識は無い。有るのは生者への怨みと、血肉への無限の飢えだけだ。


弱点は火か雷だが万能系や魔法なぞも使える訳もない僕たちには関係のない話だ。


あの家では遠慮なく大声で盛り上がりすぎたのだ……



グールたちの呻き声は村の南側、住宅地の方から聞こえる。となれば目指すは西の海と住宅を避けた北東の方角だ。


昼間は見ていなかったがそちらは高台になっており、2〜3件程のの工場があったはず。工場なら奴等を撃退出来るなんらかの道具が見つかるかもしれない。


そうとなれば目指すは工場団地、そちらに逃げる事に決めた。



「ヒナ大丈夫か?」


今は僕に手を引かれ一緒に走っているヒナ。


「大丈夫だよ。私まだ走れるもん」


僕に心配させまいと健気な彼女。ここに来て彼女の存在は助かる、心の支えになる。



「でも疲れたらちゃんと言うんだよ」


「うん!」



たどり着いた工場は缶詰を作るための工場で、乗り捨てられて居るフォークリフトには、腐り悪臭を放つ魚の入ったケースが吊るされている。


工場の中に入って見ると中は荒らされておらず、脱ぎ掛けられた前掛けや、飲みかけのペットボトルなどからこの工場での日常が伺えた。


フォークリフトが対グールに使えないかとも思ったが、グールの数が多すぎてバリケードぐらいにしか用途は無いだろう。



僕らを探しているのか、風に乗ってグールたちの唸り声が聞こえてくる。状況は悪くなる一方だ。



「朝だ、何とか朝まで逃げおおせれば村の出入り口のゲートが開くはずだ、それまでなんとかやり過ごそう」


「うん、頑張ろう!」


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